兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第6回

リズムという概念のない男ーー『やついフェス』の蛭子能収に衝撃を受けた

 どの作品だったか忘れてしまったが、西原理恵子の漫画を読んでいたら「自分のお祖母さんは音楽というものがあること自体を知らなかった」と書かれていて、びっくりしたことがある。が、もしかしたら昔の日本って、けっこうそういうものだったのかもしれない。

 まあそれは極端な例としても、ラジオが普及する前、庶民が日常的に音楽に接するのって、それこそお祭りや盆踊りの時ぐらいだっただろうし。それらの歌に「リズムの裏表」とか「リズムキープ」という西洋音楽的な概念があったとは思えないし。たとえば盆踊りも、リズムに乗って身体を動かしていくというよりも、「同じ動きを順番にやる」に近い気もするし。

 僕が知らなかっただけで、蛭子さんのようなリズムという概念のない人たちは、一定以上の年齢層で、日常的に音楽に接さずに生きてきた人の中には多いのかもしれない。

 そういえば、僕の父親は現在78歳、母親は72歳なのだが、歌を歌っているのを聴いたことも、音楽に合わせて手拍子をしているのを見たことも、一度もない。もしかしたら……。

■兵庫慎司
1968年生まれ。1991年株式会社ロッキング・オンに入社、音楽雑誌の編集やライティング、書籍の編集などを仕事とする。2015年4月にロッキング・オンを退社、フリーライターになる。現在の寄稿メディアはリアルサウンド、ロッキング・オン・ジャパン、RO69、週刊SPA!、CREA、kaminogeなど。
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