YouTube再生回数は楽曲ランキングにどう反映? ビルボード総合チャートの新指標導入を読む
実際、このチャートからは様々なことが読み取れるという。
「たとえば2位のAKB48「僕たちは戦わない」は、ちょうど総選挙の時期だったので、そのためにみんながCDを買っていると思われがちですが、実はPCへの取り込みもちゃんとされている、つまりは音楽としてちゃんと聴かれているということが推測できます。総選挙などで販売数を伸ばすのは“AKB商法”などと揶揄されたりもしますが、この複合チャートを見ると多くのリスナーは必ずしも選挙のためだけにCDを買っているというわけではないことがわかり、そうした偏見が少しは是正される可能性もあるでしょう。一方、8位のゲスの極み乙女。「私以外私じゃないの」は、売上げは発売時からだんだん下がっていっていますが、取り込み数やYouTubeの再生回数は高いままで、これは曲自体がちゃんと支持されているということの現れだと考えられます。これまではロングヒット=ロングセールスだったのですが、YouTubeなどの再生回数やTwitterへのつぶやきを集計することで、新たなロングヒットの指標ができたといえるのではないでしょうか。また、UNISON SQUARE GARDEN「シュガーソングとビターステップ」が1位になっているのも興味深いところ。この楽曲は平均的にいろいろな指標で上位になり、結果として1位になっているのかと推測していますが、新しい音楽シーンの動向を世に示すという、チャート本来の役割が機能していることを伺わせる結果といえるでしょう」
また、同チャートが世に浸透すると、音楽シーンやアーティストの作品にも影響を与える可能性があると、同氏は続ける。
「現在、人々による音楽の消費行動はかつてと異なり、多くの人がCDを買わなくなったものの、かといって日本ではまだダウンロードやストリーミングの時代へ本格的に意向しているわけでもなく、その結果としてYouTubeやライブなどで音楽と接触する機会が増えている状況です。にも関わらず、日本ではいまだに盤の販売数が指標としてもっとも支持されているという捩じれた構造になっていて、それを巧く利用してプロモーションに使ったのがAKB48やEXILEでした。CDの販売数が重視されるからこそ、彼らはCDの販売数を増やす施策を取り、音楽シーンで存在感を示すことができました。しかし、このチャートが浸透して音楽との接触が重視されるようになれば、特典などで販売数を重ねる必要はなくなるのかもしれません。これはアーティストや所属事務所、プロモーターにとっては喜ばしいことでしょう。しかし、レコード会社やレコード屋などのCDベンダーにとっては、ソフトウェア産業として成り立たなくなってしまうので、大きな方向転換を迫られるかもしれません。おそらくはアニメ産業などと一緒で、ネット配信で十分な利益をあげることができなければライセンスビジネス、グッズビジネス、イベントビジネスに転換していくしかないのではないかと思います」
リスナーの消費行動が変化している今、CDの売上げを重視してきた日本の音楽シーンにとって、新たな指標となる可能性を持った「Billboard Japan Hot 100」。同チャートが浸透し、社会的に信頼性の高いランキングとして人々に重視される日も近いのかもしれない。
(文=松田広宣)