『ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事』を囲む鼎談
稀代の名ドラマー、ジェフ・ポーカロの参加作をどう味わうか 評論家ら3氏が語り合う
「あらためてジェフのプレイに耳を傾けてもらえるきっかけになればいい」(小原)
――また、この本はいろいろな楽しみ方ができると思いました。初めから順に読んでいけばジェフの歴史を追うことができるし、興味のあるところだけピックアップしても面白い。アルバムを聴きながら参考書として読んでも、とても楽しかったです。そこで著者の小原さんとしては、どういった読み方を想定していたのかお聞きしたいのですが?
小原:前書きにも書いたんですけど、この本はディスコグラフィ本でもないし、ジェフの研究本でもないんですよね。これを読んで、少しでも多くジェフの参加したアルバムを再発見してほしい。“こんなところでも叩いているんだ”、“このアルバムは持ってるけど、ジェフだと知らなかった”とか、そうやってあらためてジェフのプレイに耳を傾けてもらえるきっかけになればいいなと思います。もっと本格的な研究本という形には、僕にはできないですよ。音楽評論家みたいなことも書けないし、やろうとも思わない。まずはジェフのプレイを会のメンバーで聴いている中で出てくる、彼の魅力についての話を活字にする。なおかつ、それに少し枝葉がついて、山村さんが書いてくださったようなことがつけ足されるような形になったら、ジェフの演奏にもう一度スポット・ライトが当たるんじゃないかな?とは、書きながら感じました。ディスコグラフィ本として扱ってくださっても、もちろんいいんですよ。でも、それだけじゃなくて、“ここにも入っていた、ここにもいた、知らなかった、聴いてみよう”という楽しさを再発見してもらえたらうれしいです。もうひとつ言えば、さっき山村さんがおっしゃったように、「今はこの曲が好きなんですよね」、「誰がやってるの?」、「知りません」じゃなくて、もう少し演奏している人たちに関心を持ってほしい。今、音楽がどんどん安易に消費される方向に来ているので、作っている人たちの意図や考え方とか、どういう人が関わって、その人にはどういうバック・ボーンがあって……みたいなところにも入っていってほしい。そこに関心を持つ、ひとつのトリガーとして感じてもらえるとうれしいですね。そのへん、山村さんの生徒さんの反応なんかは何かありますか?
山村:まずは“読みました! すごい量ですね!”というのが一番ですね。そして、持っていないアルバムを少しずつ集めていきたいとか、そういう反応は多いです。この本に関しては、僕がリズム&ドラム・マガジンみたいな媒体で、譜面の詳細を載せて取り上げることと、小原さんの立場でアルバムについて書くのとは視点が違うじゃないですか? 違う立場が混ざっているのが面白いんじゃないかとは思いますね。僕としては、“どの部分を書いたらいいかな?”っていうのはすごく考えました。小原さんの原稿を少しいただいて、読んで、こういうふうになるんだったら自分はこう書くかなとか。小原さんの文章が同じページに載っていて、あまりにも僕が自分の視点であり過ぎるといけないときもあるし。そこは気になりました。結果として、この本はジェフに思いを馳せるという、その材料がたくさん詰まっているところがすごくいいんだと思うんですよ。ドラム奏法を研究するとか、分析するとかいうのはその次の段階で、まずは“うぉー! ジェフだ!”となって、自分が持っているたった1枚のアルバムでもいいから、それを聴きながら“俺はこんなにある中のこの1枚を聴いてるんだ”と思いを馳せる――そういうことにも、やっぱり力があると思うんですよね。最初は、こういう本って、ともするとアルバムたくさん持ってるんだぞ的な自慢本に受け取られちゃんじゃないかとか、そういうことも感じたりしました。“俺はジェフをこんなに知ってるんだ”みたいな。だから、そういう意味で気になるような書き口をなるべく避けようとはしていました。
小原:僕も読み手に“何だこれ、ただのコレクター自慢じゃないか”と思われちゃってはダメと思ったんですよ。そうならないようにするには、どうしたらいいか?というのは、すごく注意しましたね。そのへんは、企画の段階で村山さんにサジェスチョンを貰いながらやっていました。完全に信頼できる相棒がいたのは良かったですね。
山村:村山さんは、その一連の流れを見ていてどう思っていましたか?
小原:不安だったでしょうね(笑)。
村山:企画の段階でとにかく遠大な計画なので、出来上がったら素晴らしいものになるなという確信はもちろんありましたし、途中のプロセスでいろいろありましたけど、結果的には大満足です。今いろんな人にレビューや反響をいただけているのはうれしいですよ。さっき小原さんも言いましたけど、音楽評論家の立場で書かれた本ではないので。オーディオ評論家とドラマーの複合的なディスコグラフィであり、ヒストリーであり、ドラムのアドバイス的な本になるのは、たぶん世界に他にはないだろうという自信はありましたからね。僕は僕でサポートをやらせてもらって、大変でしたけどすごく楽しい仕事でした。
山村:年代的にジェフの全盛期に自分たちが青春期を過ごしていたことは、良かったことなのかもしれないですね。僕が以前Facebookにカーラ・ボノフの曲を書いたとき、小原さんが「あのデヴィッド・サンボーンのサックス・ソロは最高ですよね」とか言ってくれたので、やっぱり当時の音楽は幅広く聴かれているんだなとか思いましたし。そういう時代の周辺の情報が、この本の中に入っているっていうのはいいなと思います。
(後編【名ドラマー、ジェフ・ポーカロの功績 「小田和正や竹内まりやとの仕事もすごい」】へ続く)
(取材・文・撮影=大久保徹)
■リリース情報
『ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事 レビュー&奏法解説でグルーヴの秘密を探る』(DU BOOKS)
著者:小原由夫
価格:3,024円(税込)