eastern youth吉野寿が語る、“覚悟のアルバム”とバンドの今後「人生で最後の一枚との想いで作った」

「自分の素手で掴み取る、その権利は持ってる」

一一「直に掴み取れ」はそういう曲ですね。大合唱で楽しそうに聴こえるけど、歌詞を読むと、とんでもないことをみんなで歌ってる。

吉野:そうなんです。だけど押し付けられた人生なんか嫌だよと。困窮しようが何だろうが自分の生き方は自分で掴みますよと。自分の素手で掴み取る、その権利は持ってる、ってことですよね。「俺の言うこと聞いたら食わしてやる」じゃねぇんだぞ、自分の行きたい方向は自分で決める権利があるぞと。どんなに貧乏でも。どんなに行き詰まってても。そういうことは明るく言いたいんですね。「怒ってるぞ!」って言うよりは「嫌なこったーい、言うことなんか聞くもんか、べろべろばぁー」みたいな。そういう感覚で生きたいですよね。

一一この曲では向井さんのラップも入りますし……。

吉野:ラップ……と言うのか(苦笑)。

一一あとはブッチャーズの射守矢さん、group_inouのcpさんもコーラスに参加していて。こうやってミュージシャン仲間が集まってくるのは珍しいですよね。

吉野:録音してる時、まぁメンバーのコーラスだけでいいかなと思ったけど、最初に曲を作った時のイメージは合唱だったんですね。無秩序な合唱。綺麗に統制された合唱じゃなくて、いろんな混声で、老若男女の声で……ほんとは子供の声とかもあったりして、ぐっちゃぐちゃなコーラスっていうイメージだったんで。じゃあ試しにチャレンジしてみようって話になって、でも昼間だからみんな働いてるだろうし、家にいそうな人ってミュージシャンしかいなくて。で、ダメ元で電話したらみんな意外とすぐ集まってくれたんですよ。「おお、すげぇ、早え! じゃあビール買ってくっかぁ」って。それで飲みながら録って。で、向井秀徳のラップの部分は、最初どうしていいかわかんなかったけど、せっかくだからね。アドリブの効く男なんで「ここ、なんかこうお囃子みたいなの入れられないかな。もう何でもいい、歌詞も歌の内容に全然関係なくていいから」つって。「えぇー!」って言ってたけど、5分くらい聴いて「……よし、行きますか」と。それで歌ったら、一発でアレですよ。

一一おぉ、カッコいい。

吉野:「やっぱ持ってる男だねぇ!」つって。出来る男は違うなと思ったですね。うん、凄い。才能を感じた。

一一街の中で歩いて生きてる感覚があり、好き勝手な大合唱があって。ただ、ラストの壮大な「万雷の拍手」は少しニュアンスが違いますね。

吉野:うん。この10曲目はケツに、エンディングにしようと思って作りましたね。バーっと激しく始まって、最後はこういう感じで終わろうと。これは……後ろ姿的な、去っていく姿、みたいな歌なのかな。要するに取り残されていく人間の歌、取り残されてもなお続く日々の歌、っていうか。

一一「拳」は闘う気持ちの表れだと思うんですけど、「拍手」というのはどういうイメージなんでしょうか。

吉野:この曲に関しては、要するに、集団の熱狂みたいなものの象徴としての「拍手」ですね。万雷の拍手があって、集団が満場一致、異議なしと熱狂的な拍手をしていて。それが個というものを押し潰していくわけですね、常に。だから個というのは熱狂の底に沈んで見えなくなっていってしまう。だけどあくまで個で生きたいから、拍手からこぼれ落ちていく。背中を向けて沈み込んでいくっていうようなニュアンスですかね。

一一結局じゃあ、振り出しに戻っていく。

吉野:そうです。そうしてこのアルバムのお話は終わっていく、って感じです。そしてまた、次の街の底の歌が出てくるんじゃないでしょうか。そうありたいですけど。

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