忘れらんねえよ、童貞アピールの裏にある美学とは? ライブで披露した爆音のリフレイン

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 結局はロックそのものを歌い、爆音ひとつで何かをひっくり返そうとしているバンドなのだ。柴田が敬愛するブランキー・ジェット・シティなら百万倍は詩的に歌えるだろう感覚を、彼らにあえて、ダサい童貞のフィールドに引きずり落として鳴らしている。それが俺らのキャラだと本人たちは真顔で言うかもしれないが、やっぱり確信犯だと思う。

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梅津拓也(Ba)

 バンドを組んでエレキを掻き鳴らすことが、不良のレッテルも貼られなければモテる要素にもならない若者たちの現状。ガンバレ明日はいい日だと希望を歌うことに、まったく何のリアリティも感じられない日本の現状。その中でロック表現を志すなら、まず自分からクソッタレの境地に飛び込んでいけ。忘れらんねえよがやっているのは、結局そういうことだ。

 自ら客席に飛び込んで「輪っかになれ」「次はヘドバンだ」と振り付けを指南していた本編の後半。ZOOの「Choo Choo TRAIN」ダンスを客席全員にやらせた爆笑シーンもあったが、率先して阿呆になりながらも「怪我だけはするなよ」と気を配っていた柴田を見ていて、映画『スクール・オブ・ロック』のジャック・ブラックを思い出した。従順な生徒に「ロックは反抗だ」とあえて流行らない気風を教え込み「お前らも、宿題やりたくないとか、親がムカつくとか、なんかあるだろう!?」と必死に諭していくシーン。柴田に置き換えれば、まずは「俺は童貞だ」とあえてブザマな設定を晒す。そして「お前らも、このままじゃ嫌だとか、もっと本気で笑いたいとか、何かあるだろう?」と煽りながら、とにかく爆発的なエネルギーを巻き起こそうとする。もちろんユーモラスだし全然スタイリッシュではないが、そこには『スクール・オブ・ロック』と同じような熱があり感動があった。うん、これは間違いなくロックバンドにしか起こせないマジックだ。

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 アンコールに披露されたのは、2月4日に発売されるシングル(通常版)に収録される「ここじゃないけどいまなんだ」。これが殊更素晴らしかった。本人は何度も「暗い曲」と照れていたが、タイトルを連呼するサビと心を直接掻きむしるような爆音のリフレインには、忘れらんねえよが歌っている根幹、ダサい童貞アピールの裏にある本当の美学が集約されていた気がする。

 というわけで、知らねえよ、とはもう言わない。このバンド、素晴らしいです。今まで知らなくてすいません。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

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