柴那典「フェス文化論」第9回
フェスシーンの一大潮流「四つ打ちダンスロック」はどこから来て、どこに行くのか?
「祭り囃子化」とEDMとの同時代性
では、最後にこの「四つ打ちダンスロック」がこの先どこへ行くのか、その展望を探ってみよう。まず大きなポイントは、「四つ打ちなら盛り上がる」という安易な発想、画一的なスタイルが増え、シーンがすでに飽和していると捉えるミュージシャンが若い世代の中にも徐々に増えてきていることだ。ゲスの極み乙女。/indigo la Endの川谷絵音はその筆頭と言っていいだろう。(参照:http://realsound.jp/2014/04/indigo.html)。
そうしたシーンの状況を批評的に捉えた上で、より多彩なリズムパターンとポップかつ癖のある曲調を打ち出したゲスの極み乙女。の1stアルバム『魅力がすごいよ』のヒットは、この先のシーンを占う上での一つの分水嶺と言える。
そして、ロックシーンのガラパゴス化、日本と海外の距離感が広がった10年代という前提に立つと、二つの興味深い動きが見えてくる。ひとつは「和」のテイストをこれまで以上に押し出す動き。そしてもう一つは、EDMに接近し、グローバルな海外ダンス・ポップのシーンとの同時代性を打ち出す動き。前者の象徴がKEYTALK「MONSTER DANCE」、そして後者がSEKAI NO OWARI「DRAGON NIGHT」。どちらも10月にリリースされたばかりの新曲だ。
KEYTALKの「MONSTER DANCE」は、四つ打ちだけにとどまらず様々なビートが入り乱れる変則的な曲調のナンバー。Bメロではアイドルソング特有のPPPH(「パン・パ・パン・ヒュー!」という振り付け)を取り入れたり、サビに「そいや!そいや!」という掛け声を入れたりしている。メロディにも歌謡曲や音頭に通じる感触がある。つまり、確信的にさらなる「盆踊り化」「祭り囃子化」を推し進め、日本独自のダンスロックを模索しているわけだ。
一方で、ニッキー・ロメロをプロデューサーに迎えたSEKAI NO OWARI「Dragon Night」もサビで四つ打ちのビートが用いられているが、そのテイストにはEDMシーンの潮流と完全にリンクするもの。彼らは他にもOwl Cityの新曲「TOKYO feat. SEKAI NO OWARI」にフィーチャリング参加するなど、海外アクトとの意欲的なコラボレーションを実現させている。
9月末に初開催されたEDMフェス「ULTRA JAPAN 2014」がチケット即日完売で4万人を動員する巨大な成功をおさめ、いよいよEDMカルチャーが日本でも広く根付いた2014年。そのシーンとの同時代性を見せるグループが、それこそROCK IN JAPAN FESTIVALのトリを飾るような邦楽ロックシーンのど真ん中から出てきていることも、非常に興味深い。
他にも様々なバンドが独自のトライを繰り広げている。2015年のフェスの現場では、ダンスビートのさらなる多様化が進んでいくことは間違いなさそうだ。
■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter