ISHIYAの『CRASS:ゼア・イズ・ノー・オーソリティ・バット・ユアセルフ』映画評
伝説のパンクバンド・CRASSが放つメッセージとは? 最新ドキュメンタリーで明かされる素顔
1977年から1984年まで活動した真のパンクバンド、CRASS。彼等がハードコア・パンクに与えた影響は計り知れない。かつて、イギリスのハードコア・パンクバンド、CHAOS U.KのオリジナルメンバーであるCHAOSに「何故パンクになったんだ? 何に影響を受けてそうなったんだ?」と尋ねた時、彼は「CRASSだ。1977年にCRASSを観てこうなった」と断言していた。
日本のパンクス達にもなじみ深いCRASSだが、その実像はずっと謎に包まれていた。近年になりCRASSの真実を書いた『The Story of CRASS』という本が河出書房新社から出版されたが、映像として彼らの姿を観ることができるという意味では、今回紹介するDVD『ゼア・イズ・ノー・オーソリティ・バット・ユアセルフ』は非常に貴重な資料といえよう。
冒頭からCRASSの曲と共に強烈なメッセージの歌詞が、日本語の訳詞付きで放たれる。ドラムでありCRASSの中心人物であるペニー・リンボーは、冒頭で「社会の枠組みから外れて生きることは可能だ」という事を伝えている。これこそが、CRASSのメッセージそのものだったのではないかと思う。
ペニー・リンボーはそれを実践するために、1967年にロンドン郊外のエセックス州で農業を営める土地付き住宅を見つけ出し、そこを「ダイヤルハウス」と名付ける。ダイヤルハウスは自給自足の共同生活を営み、人の出入りも自由となっていて、当時のクリエイティブな人間が集っていた。本作では、ペニー・リンボーが現在もダイヤルハウスで生活している姿が映し出されている。
映画には彼のほかにも、ヴォーカルのスティーヴ・イグノラント、アートワークのジー・ヴァウチャー、女性ヴォーカルのイヴ・リヴァティーンも登場しており、現在の姿をほんの少しだけ見せている。過去の映像や写真などもふんだんに盛り込まれ、各メンバーは当時のCRASSの実情や、強烈なメッセージについて解説している。CRASSを知らなくとも、社会に対する不満や憤りを覚えている人間ならば、この映画が放つメッセージに共感する部分があるだろう。そこには、現在にも置き換えられる問題提起が数多く内包されている。「奴等の生活は俺達のおかげ」と強烈に政治家を皮肉り、「キリストなどペテンだ」と宗教を切り捨て、「戦争を行うのではなく、戦争と戦え」と平和への願いを叫ぶのが、CRASSのあり方だった。
イギリスがアルゼンチンとの間で起こしたフォークランド紛争の際には、CRASSは時のアメリカ大統領レーガンとイギリス首相サッチャーの演説を、会話形式にねつ造し、テープにしてバラ撒いた。アメリカの新聞では、そのテープは旧ソ連のKGBが作ったテープとして取り上げられ、KGBからのスカウトも来たと映画の中で語られている。