宇野維正がフリーライブ『Free HAPPY “HELLO”』をレポート
HAPPYはヤバい「ファンタジー」を描けるバンドだ――原宿フリーライブレポ
2014年8月6日。ファーストアルバム『HELLO』のリリース日に、HAPPYがラフォーレミュージアム原宿でフリーライブ『Free HAPPY “HELLO”』を行った。先日のインタビュー(参考:破格の若手バンド、HAPPY登場「結成した時から世界一のバンドになろうと思ってやってる」)でAlecは「俺ら、いつか自分たちでフェスをしたいんですよ。でっかい公園みたいなところで、チケットとかも売るんだけど、最終的にみんながフェンスとかを突き破って、結局フリーになっちゃうみたいな」と語っていたが、バンドにとってモニュメンタルな「スタート地点」の日からフリーライブを決行するという奔放さがいかにもHAPPYらしい。夏休みど真ん中の原宿のど真ん中。街を行き交うちょっと浮き足立った少女や少年たちと、会場に集まったオーディエンスの空気感に、ほとんど差異がないというのもHAPPYらしい(まぁ、男の子の比率はちょっと少なめだったけど)。ステージセットの装飾は逆さから見たジャングルというコンセプト、マイクスタンドにも本物の草や花がからまっていて、まるでLSDで幻覚を見ているかのような異様なたたずまい。普段のライブハウスでの対バンやフェスのステージでは出すことができない、自分たちだけの世界を作り上げていた。
事前に公表されていたように、この日のセットリストはファーストアルバムの冒頭1曲目から最後の10曲目まで収録順に演奏していくというもの。実はこれ、意識してなのかどうかは確認していないが、初期のStone Rosesのライブとまったく同じやり方(開演前のSEでもStone Rosesの曲が流れていたから、まったくの偶然ではないだろう)。終始逆光気味でメンバーの表情がよく見えない照明というのも、これまたStone Rosesのライブっぽい(初期Stone Rosesのライブは本当にほとんどメンバーの顔が見えなかったんだよ!)。マッドチェスター・リアルタイム体験世代としては、それだけで胸が躍る。
CDで聴くだけだとオーバーダブだと勘違いしている人もいるかもしれないが、実はHAPPYの音楽のユニークさの核にあるのは、その巧みなコーラスワークだ。曲ごとにリードとサブが入れ替わるギターAlecとシンセRicのボーカル、そこにのっかっていくドラムBobのコーラス。ロックにおけるコーラスワークの重要度というのは、60〜70年代前半まではキーとなっていて、70年代パンク、80年代ニューウェーブ以降長らくないがしろにされていて、また00年代に入ってからAnimal CollectiveやMGMTやDirty Projectorsといった急進的なバンドによって復権した。というのがザックリとした自分の歴史観だが(もちろん例外もたくさんありますよ)、HAPPYの音楽が回顧主義のようでいて実はモダニティを有している理由には、そこも大きく寄与していると思う。で、そのコーラスの妙がライブの現場だと当然のように聴覚からも視覚からもメチャクチャよく伝わってくるのだ。
そして、それはバンド全体の「見え方」にも大きな影響を及ぼしている。マイクスタンドの後ろにいる3人と、曲によってシンセとベースを持ち替えるSyu、シンセとギターを持ち替えるChew。5人が常に流動的かつ有機的に音と戯れていることで、オーディエンスの視点が一極に集中することがない。それによって、結局のところフロントマン/その他のメンバーという旧態依然とした構図に陥りがちなバンドが大部分を占めている日本のロックシーンにおいて、HAPPYの5人は均等にHAPPYであることを、ライブパフォーマンスにおいて最初から実現できているのだ(ちなみに彼らは作詞、作曲、アレンジ、プロデュースのクレジットも、今のところすべてHAPPY名義である)。