小野島大の「この洋楽を聴け!」第10回:FUJI ROCK FESTIVAL'14
今年のフジロックで見逃せないステージは? 小野島大が50組の洋楽出演者を解説
いよいよ夏が近づいてきました。夏と言えばフェスの季節。今回は7月末に開催されるフジ・ロック・フェスティヴァルを、出演ラインナップの映像を交えてご紹介しましょう。
フジロックは今年で18回目を迎える老舗の野外フェスティヴァル。現在のフェス全盛のシーンを作り上げた先駆けであり、今もなお他を寄せ付けない独自の個性と存在感を放っています。山の中のスキー場を切り開いた会場は豊かな自然に囲まれ、そこだけ別の時間が流れているような、浮世の現実をひとときでも忘れられる非日常感はほかの都市型フェスでは得られないものです。洋邦・ジャンル・地域・民族・新旧を問わない実にさまざまなアーティストが出演しているのも魅力で、思いもかけないアーティストや音楽と出会える可能性が高いのフジの魅力です。
また会場でゴミを投げ捨てする人がほとんどおらず「世界一クリーンなフェス」の異名をとるのは、観客全員が「自分たちのフェスを盛り立てていこう」という意識を持っているからでしょう。そういう親密な仲間意識があるものの、決して排他的にはならず誰にでも楽しめる。それがフジロックの最大の魅力でしょう。世界各国の料理が手軽に楽しめるさまざまな飲食ブースも楽しみにしている人は多いはず。音楽だけではないさまざまなアトラクションやディスカッション・ブースなども見逃せません。
新潟県苗場というロケーションは、東京・大阪などの大都市からはかなりの距離があり、それなりの時間と労力がかかります。宿泊場所の確保は来場者が毎年苦労するところ。入場料だけでなく交通費や宿泊代をあわせるとお金もかかりますし、フルで参加しようと思ったら会社も休まなければならない。さらに山の中の開催ゆえ天候は不安定で、雨具などの備えも必要。ということで初心者にはハードルが高いことは否定しませんが、一度訪れてみれば、必ずその魅力に取り憑かれるはずです。
さて、もちろんフェスの目玉は内外の音楽家たちです。大小あわせ10以上ものステージが同時進行するので、全部を見ることは不可能。といってガチガチにスケジュールを決めて動いても窮屈なだけで、このフェス本来の魅力である自由さと開放感が損なわれるだけ。各ステージの間は距離もあり、高低のある山道なので、途中の人の流れ次第では一番遠いステージには1時間近くかかることも。適度に余裕をもって行動しましょう。何の気になしに通りすぎようとしたステージに、思わぬ発見と出会いがあるかもしれません。
では、開催日、ステージごとに主な出演者を紹介していきましょう。今回は洋楽のみです。
7月25日
<GREEN STAGE>
フランツ・フェルディナンド
今や英国を代表する存在となったフランツ・フェルディナンドは、通算3回めのグリーン・ステージのヘッドライナー。デビュー・アルバム『フランツ・フェルディナンド』からちょうど10年にあたる今年は、彼らの集大成的なライヴになりそうです。
フォスター・ザ・ピープル
「パンプト・アップ・キックス」のヒット一発で世界の寵児になってしまったフォスター・ザ・ピープル。この3月に3年ぶりのセカンド・アルバム『スーパーモデル』をリリースして、メロウで陰りを帯びた一面を披露しています。この曲はファーストに近い路線ですが、おそらくライヴはフェス向けのこうしたポップでダンサブルな楽曲でアゲてくるのではないでしょうか。フォスターから電気グルーヴをはさんでフランツというポップ&ダンサブルな流れは、かなり楽しめそうです。
<WHITE STAGE>
ベースメント・ジャックス
英国きってのハウス・アクト。徹底的に享楽的で快楽主義に徹したダンス・ビート、そして盛りだくさんのなんでもアリ、お祭り騒ぎのステージ・パフォーマンスはフジロックでもおなじみでしょう。この曲は5年ぶりの新作『Junto』に収録される予定の新曲「Mermaid of Salinas」の別ヴァージョンで、ブラジルW杯に向けて「サリナス(カリフォルニアのヒスパニック系都市)」を「バイーア(ブラジルの州名)」に変え、ブラジルのシンガー、ニーナ・ミランドをフィーチュアした特別ヴァージョンです。彼ららしい最高のラテン・ハウスで、ライヴそしてニュー・アルバムへの期待が高まります。
ディスクロージャー
近年最大の話題のユニットです。若き天才兄弟ふたりによるオーセンティックなハウス/ガラージですが、この5月に行われた単独来日公演では、レコードのクールで整った、アダルトな香りすら漂うサウンドの完成度を軽く凌駕する、おそろしく躍動的でフィジカルなダンス・グルーヴでフロアを沸かせ、もしかしたら今年のベスト・ライヴかもと思わせてくれました。ディスクロージャーとベースメント・ジャックスというこの日のホワイト・ステージの並びは、今年のフジロック1,2を争うアゲアゲ度になりそうです。
<Red Marquee>
ボンベイ・バイシクル・クラブ
北ロンドン出身の4人組。初の全英チャート1位に輝いたアルバム『So Long See You Tomorrow 』を引っさげてのフジロック凱旋です。新作はかってなくダンサブルでサイケデリックな陶酔感を打ち出して一皮剥けた感じのある傑作だけに、ライヴも大いに期待できそう。
テンプルズ
レトロ・モダンな新時代のサイケリックを目指すのがUKミッドランズ出身のテンプルズ。ノエル・ギャラガーやジョニー・マー、はてはローリング・ストーンズまでもが絶賛、楽曲はキャッチーでポップ、ルックスはフォトジェニック、待望のデビュー・アルバム『サン・ストラクチャーズ』は大好評、初の単独日本ツアーはソールド・アウトと、いまやUKロック最大の注目株と言っていい若手です。
スロウダイヴ
そして後述するスリー・オクロックと並んで、ある意味で今回のフジロック最大のエポックは、再結成スロウダイヴの出演です。90年代英国シューゲーザーの代表格だった稀代のカルト・バンドの19年ぶりの再結成と、まさかのフジロック登場は、もうそれだけで苗場くんだりまで足を運ぶ価値がある、と断言しておきましょう。スロウダイヴ⇒テンプルズ⇒ボンベイ・バイシクル・クラブと続く新旧英国サイケデリア・タイムは、まさに至福の時になるはず。
<Planet Gloove>
ジャングル
レッド・マーキー・ステージの深夜興行となるプラネット・グルーヴ。まずはロンドン出身の謎のデュオ、ジャングル。昨年6月に発表したこのデビュー曲「Platoon」のMVをジャスティン・ティンバーレイクが絶賛して大きな話題になりました。フジ直前にはファースト・アルバム『ジャングル』がリリースされます。粘り気のある漆黒のエレクトロ・ファンクと、ファルセットを効果的に使ったソウルフルなヴォーカルと粘っこい黒いグルーヴが織りなす世界はミステリアスな魅力があります。
ダークサイド
ニコラス・ジャーとデイヴ・ハリントンによる暗黒ダークサイケ音響。昨年出たアルバム『サイキック』はミステリアスでスペイシーで深遠な暗黒エレクトロニカは、深夜のプラネット・グルーヴにぴったりでしょう。
ジャックス・グリーン
まだ20歳前半という、カナダ出身のDJ/プロデューサー、ジャックス・グリーン。ベース・ミュージック以降を明確に意識させるクールで詩的なディープ・ハウスは最高にスタイリッシュ。MVもセンスを感じさせますね。
<Field of Heaven>
モー
アメリカのジャム・バンド・シーンの頂点に立つ大物が2010年以来4年ぶりにフジに帰還。新作『No Guts, No Glory!』を引っさげての登場です。雄大なスケールのアメリカン・ロックから、ピンク・フロイドばりのサイケ曲、ポップな歌もの、インスト主体のグルーヴ重視の曲などバラエティに富んだ内容の同作は彼らとしても屈指の傑作。しかしライヴではそれを超える体験を味あわせてくれるのは間違いないでしょう。
Rovo and System 7
フジロック最多出演数を誇る日本を代表するトランス・ロック・バンド、ROVOと、スティーヴ・ヒレッジ率いるシステム7という日英の雄の合体ユニット。アルバム『Phoenix Rising』も、日本・アジア・ヨーロッパとおこなわれたツアーも壮絶なものでした。宇宙まで鳴り響くダンサブルかつ壮大・幻想的なサイケデリック絵巻です。
ガーランド・ジェフリーズ
一時はブルース・スプリングスティーンと並び称された生粋のニューヨーク・ロッカー、ガーランド・ジェフリーズがフジロック初出演。新作『Truth Serum』を引っさげての登場です。70歳とは思えない力強い歌とノイジーな演奏は素晴らしい。
<Orange Court>
タルコ
こういうバンドがガンガン登場するのがほかのフェスにはないフジだけの魅力。イタリアはベネチア出身のスカ・パンク・バンド。アンチ・ファシズム、アンチ・レイシズムを訴える労働者階級のバンドです。見ての通りライヴはパワフルでエネルギッシュ。男臭く実直で飾らないライヴは今から会場の熱狂が想像できますね。
ジェームス・イハ
元スマッシング・パンプキンズのイハ君もフジ登場。2年ぶりの出演ですが、今回はホワイトステージに出演する高橋幸宏 with In Phaseのギタリストとしても登場することが決まっています。
<オールナイトフジ>
ジ・オーブ
オレンジコートのオールナイト興行が「オールナイトフジ」。ぜひとも晴れてほしい深夜の祭典ですが、目玉はUKアンビエント・テクノの老舗ジ・オーブです。これは文句なしの彼らの代表曲を演奏した1993年グラストンバリーでのライヴ映像。珍しいバンド形態でのライヴですが(たぶんフジではアレックス・パターソン、トーマス・フェルマンの2人)、こんな素晴らしい幸福感に満ちたライヴを期待したいですね。
ゴールディ
ジャングル/ドラムンベースの暴れん坊ゴールディ。ドラムンのブームが去って以降なんとなく彼の活動も地味になってしまいましたが、相変わらずのビッグマウスと、シャープでキレのいいビートは健在です。