佐久間正英ドキュメンタリーが示した、音楽家の消えることのない情熱
GLAYもまた、佐久間によってポップ性を磨かれたバンドのひとつ。TAKUROは「プロデューサーの仕事として、一番影響を受けた。要するにちゃんと整理してあげるっていう。音楽以外でも会話とか、会議とか、学校の授業でもなんでもそうなんですけど、相手にわかるように。わかりづらい言葉はちょっとわかりやすい言葉に代えるとか。そのバンドの個性を活かしながら、ちょっとだけわかりづらいところを直す。それはたとえば姿勢みたいなもので、そこを直してあげると、そのバンドの個性がより引き立つ」と、佐久間からプロデュースの妙を学んだことを明かした。
佐久間は番組内のインタビューで「ドラムの音を決める。たとえばスネア一個の音を決めるのに、どうやってやるか。この曲にはこのスネアの音がいい。あるいはこの曲にその楽器は合うんだけど、チューニングが違う。あるいはその曲に合わせるには叩き方を変えなければいけない。それはスネア一個でもそうで、ほかのものにも全て通じる事。全部の楽器に至ってそういうことがある」と語っている。ひとつひとつの音をどう研ぎ澄ませていけば、イメージ通りのサウンドに近づくか。それを探るのが佐久間の仕事だった。
番組の後半では、佐久間が10月にアメリカのシカゴ大学に、日本文化研究のライブイベントで招かれた時の様子も放送。イベントでは、佐久間が少年時代に絶大な影響を受けたというシンガーソングライター・早川義夫との共演を果たした。その日の演奏について佐久間は「自分はこの人の歌のために音楽をやってきたのではないだろうか。この人と出会うためにギターを弾き続けてきたのではないだろうか」と、ブログに綴っている。
また番組の最後では、佐久間が前出のTAKUYA、世界的に活躍するドラマーの屋敷豪太、佐久間にとっていとこの娘に当たる乃木坂46の生田絵梨花らと新曲「Last Days」をレコーディングする様子も紹介された。佐久間は入院先の病院からスタジオを訪れ、ベースのほかにピアノ、さらに2種類のギターを自ら演奏。生田を突如コーラスに参加させるなど、佐久間らしい自由なプロデュースワークも行った。TAKUYAがボーカルを務めるその楽曲は、タイトル通り、最後の日々の尊さを歌ったスローナンバー。ブリティッシュロック的な陰りのあるサウンドと、抜けの良いメロディがミックスされた、佐久間らしい名曲の誕生といえる。レコーディングを終えた佐久間は、仕上がりについて「大体予想通りの満足いく仕上がり」と語り、笑顔を見せた。
日本の音楽シーンに大きな足跡を残してきた佐久間正英。厳しい病状にあっても、青年のような情熱で音楽に取り組むその姿は、多くの視聴者の胸を打ったに違いない。
(文=編集部)