シュワちゃんは一体どこへ行く? 不安と期待が混然一体となった問題作『キリング・ガンサー』

『キリング・ガンサー』は問題作?

 いろいろあってニッチもサッチもいかなくなっている殺し屋ブレイク(タラン・キラム)。このままじゃ男が廃ると一大決心を重ね、史上最強の殺し屋“ガンサー(アーノルド・シュワルツェネッガー)”を殺して名を上げようと考える。かつての師から、旧友、ロシアの狂犬まで、その筋から仲間を集ってガンサー暗殺隊を結成。ついでにガンサー暗殺の全てを記録するために、専門の撮影班まで手配する。しかし、いざガンサー暗殺に乗り出すと、まず師匠は歳が歳なので何も役に立たないうちにブッ倒れ、親友は何処からか出現したガンサーに頭をブチ抜かれる。暗殺チーム内では職場恋愛も発生し、ロシアの狂犬は観光気分で「ディズニーランドは?」と言い出す始末。ブレイクの狙いは全てが悪い方向に転がり、おまけにガンサーの手によって次々と暗殺チームが殺されてゆく。果たしてブレイクはガンサーを殺せるのか? というか、そもそもガンサーのところまで辿り着けるのか?

 本作は不条理系ブラック・コメディであり、ある意味で『ゴドーを待ちながら』と似たスタイルである。つまりシュワちゃん扮するガンサーは存在を語られるものの、なかなか姿を見せない。主役はズッコケ殺し屋のブレイクであり(演じるタラン・キラムは『サタデー・ナイト・ライブ』にも出ていたコメディアンで、これが監督デビュー作)、ガンサーという存在に振り回される殺し屋チームだ。本作はさながら“シュワを待ちながら”と言ったところだが、そこはシュワちゃん。姿は見せないが積極的に物語に介入してくる。遠くから銃撃してきたり、周囲一帯に爆弾を仕掛けたりと、不条理な強さとスキルを発揮。ブレイクたち殺し屋チームをドンドン追い込んでいく。もちろん「シュワちゃんが姿を見せないのは、単にスケジュールや予算のせいでは?」という勘ぐりが発生するのも否めないが、それはさておき、見えないシュワの理不尽な攻撃と、タラン・キラムのどれだけカッコつけても間が抜けて見えるビジュアル、コテコテのアメリカン・ジョークがドキュメンタリー調のリアル度高めの語り口と相まって、独特な雰囲気を作り出している。

 しかし、最大の見どころ(問題とも言う)はシュワが出てきてからだ。ブレイクは散々な目に遭った末にガンサーとの直接対決になるのだが……。ここからは、いわば“ネタばらし”なのだが、まったく“ネタばらし”になっていないのが恐ろしい。詳細は省くが、映画終盤はシュワちゃんの独壇場、シュワちゃんジョークがこれでもかとブッ込まれている。「シュワ一大事!」の『ジュニア』(94年)、名セリフ「put that cookie down !!」で有名な『ジングル・オール・ザ・ウェイ』(96年)といった、「シュワちゃんにコレをやらせれば面白いのではないか?」系の一発出落ちネタが連続し、“ネタばらし”どころか不条理さは加速、観客の頭に巨大な「?」を残すヤケっぱちなエンド・マークを打ち込む。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる