『デッドプール2』が提示する、社会のはみ出し者の視点からの解答 ヒーローとしての真の魅力を探る

『デッドプール』真の魅力を掘り下げる

 アベンジャーズをはじめとするヒーロー映画が世界で記録的なヒットを成し遂げるなか、苦手でついていけないという観客も少なくない。アメリカ製ヒーロー映画の興行成績が比較的伸び悩んでいるという日本では、とりわけそういう傾向があるのかもしれない。けれども、そんな観客たちのなかからも、「デッドプールの続編だけは観たい」という声をよく聞く。2016年に公開された、『デッドプール』第1作には、そんなヒーロー映画への興味が薄い人の心にも届くような“何か”があったのだ。

 続編となる本作『デッドプール2』では、そんなデッドプールというヒーローの魅力や存在価値に、さらなる奥行きが与えられていた。本作が表現した、多くの観客を惹きつけるデッドプールの真の魅力について、ここでは深く掘り下げて考えていきたい。

 デッドプールが(観客に他の映画の内容をネタバレするという暴挙を犯しながら)、燃料の入ったドラム缶を並べた上に寝そべり、自ら火をつけて自殺を試みるシーンから本作は始まる。一体、何が彼をそこまで自暴自棄にしてしまったのかは、直接本編を見てもらいたいが、ともあれ、驚異的回復能力を持ったデッドプールは、爆発により手足が吹き飛ばされ、身体が炎上しつつも、また再生し生き延びてしまう。原作コミックでも描かれていたように、それはまるで呪いのようであり、またヒーローが際限なく戦い続けなければならない悲しみを象徴的に表しているようでもある。

 今回、新しく登場するのが、未来からタイムトラベルしてきた、身体のかなりの部分が機械化された“ケーブル”という屈強な人物だ。彼を演じるジョシュ・ブローリンは、『アベンジャーズ』シリーズでは、最強の悪役“サノス”を演じていたため、デッドプールは彼を「サノス」と呼んだり、「暗い性格だな、DCユニバースから来たのか?」と、映画やコミックの会社の垣根を越えてまで、作品世界の外側に立った視点でおちょくりまくる。

 このように、ドラマのなかから抜け出して客観的な批評をすることができる「形而上学(メタフィジック)」的態度をとることができるというのが、デッドプールの最も大きな独自性である。彼は原作同様に、自分がいる世界が創作物のなかであることを理解しており、映画脚本に文句をつけだしたり、観客に話しかけてくることもしばしばある。さらに自分を演じているのがライアン・レイノルズという役者だということまで知っており、過去の出演作を苦々しく思ったりしているのだ。こうなるともはや観客の方も、いま自分が見ている人物がデッドプールなのかライアン・レイノルズなのか混乱してくる。そういう重層的な意味合いを持った存在がデッドプールなのである。

 エンターテインメントにおける多くのヒーローは、奇抜なコスチュームを身に着け、正義のために強大な悪の力と戦う。そんな姿を陳腐だと感じる大人も多い。自分が出演している映画を客観視できるデッドプールは、そのような事情すら飲み込んでおり、そういう観客の側に立って、ヒーローという存在を茶化してくれる。だからヒーロー作品に興味のない観客が、ある意味、バラエティー番組のような感覚で楽しむことも可能なのだ。

 未来から現れたケーブルは、ある理由から、孤児院で育てられた14歳の少年・ラッセルを殺害しようとつけ狙う。デッドプールも個人的な理由から、この少年を守らなければならない。両者は激突し、カナダのバンクーバーで大規模なロケを敢行したという、暴走する大型トラックのなかで死闘を繰り広げるシーンが、アクションとして最大の見どころとなっている。にも関わらず、カナダをバカにするギャグを作中に用意するという、過激なユーモアが本作らしい。

 ラッセル少年とデッドプールが出会ったのは、警察や報道陣が遠巻きに取り囲む孤児院の敷地だった。デッドプールやX-MENらと同じく、人間を超えた力を持つ“ミュータント”のラッセル少年が、手から火炎を放射する特殊能力を使って暴れ始めたのだ。未成年であることから、警察は狙撃ができないし、危険なので近寄ることもできない。そこで派遣されたのが、“X-MEN”の一部メンバーたちである。

 X-MEN“見習い”としてそこに参加していたデッドプールは、「俺ちゃんの初任務!」と勢い込んで、率先して少年の逮捕に協力しようとするが、じつは孤児院の責任者や職員がミュータントの子どもにひどい虐待をしていたという事情を知ると、一転して、虐待に加わっていたとみられる孤児院の職員の頭部を銃で撃ち抜くという行動に出る。鋼鉄の身体を持つX-MENメンバー“コロッサス”は「罪人を裁くのは俺たちの仕事じゃない!」と怒り、デッドプールを拘束して警察に突き出してしまう。

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