小野寺系の『最後のジェダイ』評:ディズニー帝国の『スター・ウォーズ』に新たな希望は生まれるか?

小野寺系の『SW/最後のジェダイ』評

ディズニー帝国の『スター・ウォーズ』に"新たな希望"は生まれるか

 また、敵に体当たりする「特攻」について、本作ではそれを否定するような描写もありながら、同時にその行為を英雄的なものとして描いてしまっているところがあり、一貫性に欠けているように感じられる。『スター・ウォーズ』シリーズの良いところは、無謀な作戦を立てて多くの死者を出したとしても、全員が生還を目指して戦うところではないのか。犠牲になろうとする志願者を、レイア姫が黙認する場面があるが、旧三部作のレイアであれば、そんなことは絶対に許さず他の道を模索していたはずだ。なぜなら兵士を犠牲にするという道を選んだ時点で、レジスタンスの大義が失われてしまうからである。戦争における正義とは何か。フォースとは何か。ジョージ・ルーカスの指揮していたシリーズでは、一貫した信念と社会観などによって、それらがより深く描かれていたはずだ。

 伝説のジェダイ、ルーク・スカイウォーカーとして本作に出演したマーク・ハミルは、「ディズニーは、ルーカスの助言にもっと耳を傾けていればよかった」という発言をしている。残念ながら、その指摘は正しいように思える。少なくとも、現時点のライアン・ジョンソン監督の素養では、精神性を示すことはできても、宇宙戦争を描きながら意義ある物語を破綻なくまとめるような脚本を、助言を得ていたとはいえ、単独で書き上げるというのは難しかったのではないだろうか。だが、ルーカスフィルムでは、エピソード10からの新たな三部作を、ライアン・ジョンソン監督に任せることを発表している。これはかなり不安だ。

 そもそも、監督に大権を渡しているようなことを言ったり、「インディーズのような制作体制」であるようなことをメディアに対してアピールしてはいるものの、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で大幅な撮り直しを命じたり、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の監督を交代させるなど、ディズニー買収後のシリーズは、経過を見ている限り、映画監督ではなくスタジオが主導する映画であることは間違いない。

 そこで全体のヴィジョンを示し、一貫した世界観を作るべく統括していく役割は誰が担っているのだろう。プロデューサーのキャスリーン・ケネディだろうか。それともディズニーの幹部らなのだろうか。いずれにせよ、彼らにそこまでの能力があるとは思えない。いままでの流れを見ていると、とりあえず途中まで作らせてみて、気に入らなければ切るという、帝国軍のダース・ベイダーのような対応をしているように感じられるのだ。その結果、『フォースの覚醒』と本作との間で、もう齟齬が生じているというような問題が発生している。これでは三部作である意味すら希薄である。

 ジョージ・ルーカスは、旧三部作終了から、『ファントム・メナス』でシリーズを再起させるまで、16年間ファンを待たせ続けた。しかしそれは、自分のヴィジョンを実現することができる技術の進歩や、語るべき物語の完成という、必然的な理由があった。それに対し、今回の「続三部作」は「作らねばならない」というところから始まり、あらかじめ決められたスケジュールに監督を投入し、厳しく管理している。もちろん監督たちは、その環境のなかでベストを尽くすだろう。しかし、『スター・ウォーズ』という作品が、そのようなものでよいのか。これでは大手スタジオが定期的に作っている恒例の大作映画群の一つでしかないのではないだろうか。

 可能な限り、いつまでも作り続けられるという、ディズニーの『スター・ウォーズ』シリーズ。肥大し続ける「帝国」の終わりなき野望に、伝説は一つのコンテンツとして消費され続けるしかないのだろうか。願わくば、いつかそこに“新たなる希望”が生まれることを期待したい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』
全国公開中
監督・脚本:ライアン・ジョンソン
出演:マーク・ハミル、キャリー・フィッシャー、 アダム・ドライバー、デイジー・リドリー、 ジョン・ボイエガ、オスカー・アイザック
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2017 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
公式サイト:http://starwars.disney.co.jp/movie/lastjedi.html

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