『監獄のお姫さま』は『カルテット』に続く“行間案件”? 小泉今日子が向き合う罪と毒

『監獄のお姫さま』が描く罪と毒

「みんなどうしてるんですか? 溜まった毒……」

 火曜ドラマ『監獄のお姫さま』(TBS系)の第2話は、小泉今日子扮する主人公・馬場カヨの過去が描かれた。ドラマ全体のテイストとしては中年女性たちのドタバタコメディ。だが、その本質は罪や毒との向き合い方に迫る、芯を食った話だった。

 時は遡って、2011年。馬場カヨは夫を包丁で刺し、殺人未遂の罪で“自立と再生の女子刑務所“に収監された。刑務所に入るとき、自分が写っている写真は没収される。それは、平穏な生活には決して戻れないという戒めからだ。「その現実を受け入れることが反省。ここ(過去)に戻りたいと思うのは後悔」刑務官の若井ふたば(満島ひかり)が放つ言葉は、第1話にもあった“時間の不可逆性“を強調する。

 満島ひかりが、この話をするたびにかつての火曜ドラマ『カルテット』が脳裏をよぎる。どこか『監獄のお姫さま』は『カルテット』と呼応しているようにみえる。本作の脚本を手掛ける宮藤官九郎も出演していたドラマだけに、きっと意識的なものだろう。雑居房で見られていた架空のドラマ『この恋は幻なんかじゃないはず、だって私は生きているから、神様ありがとう』も、『カルテット』の脚本家・坂元裕二が描いた『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』を彷彿とさせるタイトルに思えてしまうのだ。火曜ドラマ枠を愛する視聴者へのクドカン流のサービスか、それとも『カルテット』ファンが隠された意図を汲み取ろうとしてしまう“行間案件“なのか。

 「原因は、彼の浮気ってことになってます。それしか言語化できることがなくて。でも本当は……もっといろいろあるんですよ」馬場カヨの事件の真相も、行間案件そのものだ。銀行員だった馬場カヨ。結婚、出産を経て、子どもの手が離れたタイミングで復職とは、よく耳にする女性のキャリアだ。家事も子育ても完璧にこなしながら、仕事でも結果を残す。なぜ、そんな自分が夫に浮気をされなければならなかったのか。2017年のクリスマス、誘拐&監禁した板橋吾郎(伊勢谷友介)を前に、退行催眠のように振り返る。吾郎に対して夫の名前を呼び、手には包丁を握りしめて、努めて冷静に話し合いを試みた、事件当時の情景がオーバーラップしていく。

 「ねえ、聞いてる?」は“ちゃんと聞いて“ということだし、「浮気の事実を同僚や部下から聞かされる私の気持ちは考えた?」は、“私の気持ちを考えてほしかった“だ。要点を言わずとも、行間を読んでくれることに信頼関係と愛情を感じる場面があるのだ。だが、同じ男として夫を代弁する吾郎の口から出てくる言葉は「いっそ奥さんも浮気すればよかったんじゃない?」「どうしてほしいの?」と、浮気をする側の主張を崩さない。

 「冷静に、冷静に……」そう馬場カヨがつぶやくのは、心に溜まった毒を少しずつ出そうと必死なときのおまじない。苦しさで詰まった息をゆっくりと吐き出そうと必死にもがいているのだ。その行間を読み取れない吾郎は「要点まとめてから話しません?」と急かす。夫もそうしたように。すると、せきを切ったように「要点しかしゃべっちゃいけないの? 要点以外はどうすればいいの? 誰に話せばいいの? 全部要点なの!」と思いが溢れる馬場カヨ。その感情的な姿を見て、吾郎と夫は完全に同化して「まいったな。これだから女は」とつぶやく。そして、馬場カヨは手に持った包丁で思わず……というのが事件のあらましだった。

 「話は要点をまとめて完結に」とはよく耳にする言葉だ。正確な判断とスピーディーな対応が求められるビジネスの場では必要なスキル。だが、プライベートの会話ではどうだろう。要点のみにまとめたら「夫の浮気が原因で刺しました」の背景にあった、感情は省略される。言語化されなければ、誰にも伝わらなくなってしまう。“罪”という漢字に横棒が2本追加されていても、言葉にしなければ誰も気づかないのと同じように。

 確かに、女性は男性に比べてよく喋る特性があるかもしれない。劇中でも、私語が許される食事中は、ワッと賑やかになる場面が印象的に描かれている。その多くは、「きなこをご飯にかけるの?」なんていう要点などまとまっていない雑談だ。だが、その会話を共有することそのものに意味があるのだ。そしてたわいもない話は日常的に溜まる毒を放出する。きっと多くの女性がビジネスの場になれば、要点をまとめて話すはずだ。事実、馬場カヨは「要点を…」と言い放った夫より仕事ができたのだから。

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