高橋一生と松田龍平、『カルテット』コンビの芝居はなぜ面白い? 共通するふたりのアプローチ

『カルテット』高橋一生&松田龍平の魅力

 松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平ーー4人の実力派俳優たちが繰り広げる、ほろ苦くて甘いビターチョコレートのような大人のラブサスペンスドラマ『カルテット』。それぞれが秘密を抱え、次第にそれが明かされていくサスペンス風の作りはもちろん、役者の演技やセリフも秀逸で、中でも高橋と松田のふたりは女性ファンを夢中にさせている。各キャラクターそれぞれの秘密が明かされた第1幕、主人公・巻真紀(松たか子)夫婦の過去が描かれた第2幕も閉幕し、物語もいよいよ最終幕へ。本稿では、女性人気の高い高橋と松田の役どころと、その魅力を改めて考察してみたい。

 高橋演じる家森諭高は、初回数分で「道を聞かれただけ」の女子大生とキスするという、何ともチャラいモテ男として登場し、ファンに衝撃を与えた。軽井沢の美容院勤めで、一見王子キャラに見えるが、美容師の資格は持たず30代半ばでアシスタントのバイトリーダー。今は定職に就いていない。女性にモテるが妙に理屈っぽく器が小さい性格からすぐに冷められてしまう。離婚歴があり、何を初めても前に進めず大人にもなりきれないというダメ男で、しかもノーパンでいることが多い。しかし、4人の中では常に話の中心にいるムードメーカーで、物事を察する能力は高い。

 松田演じる別府は、世界的指揮者を祖父に持ち、親族もプロの音楽家として活躍する“別府ファミリー”に生まれたが、自身はプロにならずにドーナツ販売チェーンで広報部社員をしている。みんなが集まる別荘の持ち主で、カルテットをまとめる存在。穏やかな人柄で感情をあまり表に出さないが、実は真紀の事が大学生の時から好きで、夫絡みで真紀に接触したほかのふたりとは違い、半ばストーカー気味にカラオケボックスまで真紀に会いに行ったのだ。恋愛に関しては一番情熱的で行動派な男でもある。

 このドラマは、ラブコメディでありサスペンスであり、まるで舞台演劇を見ているかのような駆け引きや言葉遊びが面白い。特に女性同士の駆け引きはスリリングで、松と満島に加え、真紀の義母役である巻鏡子(もたいまさこ)やアルバイト店員・来杉有朱を演じる吉岡里帆なども、高度な会話劇を繰り広げている。その中における高橋と松田の男性コンビは、ギスギスした関係性をなめらかにする潤滑油であり、コメディリリーフとしても重要な存在だ。

 先週の第7話では、家森は有朱と一緒に猿を探しに行くが、雪で無抵抗のまま滑ってしまい置き去りにされる。そして森で見かけた看板に「ピクニッククイズ ひとりになりたい時に食べるケーキってなーに?」に「ホットケーキ!」と叫んで看板を蹴り上げる。一方の別府は倉庫にずっと閉じ込められたまま忘れられていた。全体的にシリアス展開の中、視聴者を和ませたふたりだが、彼らは単に“ゆるい”だけではない。その裏には、あらゆる経験をしてきたがゆえの冷静さがあり、我慢強い部分も持ち合わせている。そこがまたいじらしく、たまに見せるシリアスモードとのギャップも、大きな萌えポイントになっている。

 たとえば、家森は1話冒頭ではモテ男風キャラだったのに、2話以降からは女性相手に空回りしまくる。その姿だけでも面白いのだが、勝手に唐揚げにレモンをかけるなと熱弁をしたり、「みかんつめつめゼリー」を連呼しながら走り回ったり、「結婚は地獄。妻はピラニア。婚姻届は呪いを叶えるデスノート」と持論を展開したり、演奏前にシャツの襟元を鎖骨が見えるほど広げたりと、とにかく行動やセリフが突飛で目を引く。かと思えば、離れて暮らしていた息子と再会した際は父親としての優しい顔を見せ、別れの時には感情を抑えきれずに涙を流すなど、ギャップのある演技で大人のセクシーさを見せつけた。この振り幅が、視聴者の心をグッと掴んでいるポイントだろう。

 一方の別府は、普段は感情を表に出さない割に大胆な部分もあり、真紀に告白し断られたショックで、結婚が決まっている友達以上恋人未満の同僚・九條結衣(菊池亜希子)と泥酔した勢いで一夜を過ごす。草食系から、メガネを外して肉食系へと豹変する、そのギャップがネットで話題となった。

 高橋は子役からキャリアをスタートさせ、バイプレイヤーとして活躍。そのため、ブレイクの時期としては遅咲きの俳優だ。『王様のブランチ』(TBS系)に出演した際、高橋は、『カルテット』同様に坂元裕二が脚本を手がけた2013年のドラマ『WOMAN』(シングルマザーを描いた社会派ドラマ)がターニングポイントとなったと明かしていた。それまで、高橋は暗い・ひきこもりという役柄が多く、その印象が拭えなかったが、『WOMAN』で頼りにされる医者役を任され、今まで高橋が持っていたイメージを取っ払ってくれたという。それを機に「(役を)演じちゃったらダメだなと思うようになった」、「『演技が上手いですね』とコメントがあると『ああやっぱりまだ演技なのか……って思っちゃうんですよね』」とも語っている。高橋は“演技”を削ぎ落とした自然な“芝居”を意識していくことになり、それが世間に受けて、今では裸で『an・an』の表紙を飾るほどにブレイクしたのだ。

 個性を消すことでブレイクをした高橋に対し、個性の塊である松田は、父親である松田優作の息子として華々しくデビュー。二世俳優ということでメインキャストを担う事が多かったが、そのイメージを拭い去るかのように様々な役柄に挑戦。時には情けないキャラクターや端役も演じ、キャリアを積んできた実力派俳優だ。大スターの息子であることを良い意味で感じさせない、松田の気を抜いた芝居は、どこまでが演技なのか分からないほど自然である。

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