映画館は作品の魅力をどう“宣伝”する? 立川シネマシティによる『この世界の片隅に』戦略

映画館はどう作品を“宣伝”していくか

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第9回は“映画館独自の宣伝”について。

 まず最初に、前回のコラム(邦画“日本語字幕つき上映”のメリットと課題ーー『シン・ゴジラ』『君の名は。』の実績から考える)で邦画の日本語字幕つき上映について書かせていただきましたことの結果報告とお礼を。状況に一石を投じるため、シネマシティの『シン・ゴジラ』【極上爆音邦画字幕版上映】を観に来てくださいと青臭く呼びかけたところ、大変大きな反響をいただき、字幕なしの通常版を上映していた前週よりも格段に動員が増えました! 本当にありがとうございます。情報を広めてくださった方、ご来場くださった方に、心より感謝申し上げます。嬉しくて、びっしり埋まった座席表を見ながら泣きそうになりました。

 そしてさらに嬉しいお知らせ。その回の後半でちらりと紹介させていただいた、メガネ型ディスプレイ端末をスマホに接続して上映中に字幕を表示させる「UD CAST」が来年からTOHOシネマズ様で導入が決定したとのこと。なんて素晴らしい! これはシネマシティも導入の検討に入らなければ。あとメガネディスプレイ使って何か面白いことできないか考えよう。空耳ニセ字幕上映とか(笑)。

 さて、本題に。映画の宣伝は基本的に配給会社が行うものですが、しかしとりわけ独自の取り組みを行う場合などは劇場も頑張らなければなりません。様々な劇場が、ユニークな取り組みを行っています。お住まいの近くの劇場でも、スタッフのコメントを掲出していたり、独自の装飾をしたりしているのを見かけたことがあるのではないでしょうか。あるいはブログやメルマガをやっている劇場もあります。

 僕が働いているシネマシティは東京都立川市だけにある映画館で、零細企業です。パチンコやボーリング場もいっしょにやっているとか、ショッピングセンターに組み込まれているのでもなく、ただ映画館だけをやっています。 そんなシネコンとしてはちっぽけな存在ですので、とにかく政治力もなければ、お金もないわけです。なにか面白いことを思いついて実行するとなっても、新聞や雑誌、テレビやネットに広告を出すわけにもいかず、せいぜいチラシを作って劇場に置くか、ポスターを貼るくらいです。

 ですが、そんなか弱き者のためにこそ、インターネットはあります。ネット、とりわけソーシャルネットワークサービスの誕生が、シネマシティの成功を生み出してくれました。

 現在シネマシティでは、広告にかける費用はほぼゼロに近いのです。おつきあいのあるマスコミ各社へのプレスリリースすら出していません。ポスターやチラシのデザイン、そこに書き込む文章もすべて僕がやっているので、ライターやデザイナーにお願いすることもありません。それゆえに素人くさいのですが、それも一種の味わいになればいいやと割り切っています。

 使う武器は3つ。自社のホームページ、会員様(Web予約時に登録していただく)へのメール、Twitterです。大切にしていることは、思わず笑ってしまうようなものであること。あるいは涙がこぼれそうになるようなものであること。胸が熱くなるようなものであること。誰かに話したくなる知識や情報が含まれていること。作品への愛が伝わるものであること。 つまり、きちんとエンタテイメントになっているかどうか、ということですね。 先日、こんなニュースを出しました。

どうしても、観てほしい映画があります。『この世界の片隅に』11/12(土)公開【極上音響上映】決定。

 予想を遙かに超える大きな反響をいただき、片渕監督、松原作画監督からもTwitterでコメントをお寄せいただきました。いくつかのニュースサイトにも取り上げていただき、この宣伝自体を話題にすることができました。

 『この世界の片隅に』は、戦時の広島が舞台であり、こうの史代という稀代の天才漫画家をご存じなければ、よくある戦争の悲惨さを伝える教育的アニメーションのひとつだと思われるかも知れません。多くの方に興味を持っていただくのはそう簡単ではないように思えます。

 ですが、実際の作品はそうではありません。ただ反戦的でも、もちろん好戦的な内容でもありません。横暴な日本兵のようなティピカルなキャラクターなどが出てくることはなく、一人の若い女性の日常生活を淡々と描くことで、戦争とはどういうものであったかを浮かび上がらせるのです。あるいは、幸福とはどういうものであるか、をです。

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