プロレスと映画の濃密な関係ーーフィクションとリアルの垣根を壊す名作を振り返る

名作プロレス映画を振り返る

 川崎実監督の特撮怪獣映画『大怪獣モノ』が7月16日に公開され、主演に天才プロレスラー飯伏幸太が抜擢されたことで、プロレスファンの間で大きな話題となっている。プロレスを題材にした映画は数多く存在するが、プロレスそのものがドラマチックであるため、フィクションで描くにはハードルが高いコンテンツでもある。また、レスラーの実力が受け身ひとつで分かるように、プロレスファンは映画の中でも受け身ひとつで良作か駄作かを見極めてしまうこともある。そんなコアなファンでも納得できるプロレス映画をいくつか紹介したい。

名作は女子プロレスものに多し

 まず、プロレス映画の傑作として挙げたいのは、名匠ロバート・アルドリッチ監督の遺作となった『カリフォルニア・ドールズ』。ピーター・フォーク演じる老年マネージャーのアイリスと女子タッグチーム“カリフォルニア・ドールズ”による3人の物語だ。全米各地を車でどさ回りしながら、体を張って日銭を稼ぎ、女子プロレスでの成功を夢見て進む3人の姿が丁寧に描かれている。女子レスラーと男子マネージャーという友達以上恋人未満の距離感が絶妙なこの作品。色物と思われがちな女子レスラーの人間模様を、アルドリッチ監督は『北国の帝王』や『ロンゲスト・ヤード』などと同様に描いている。さらに、試合に勝つための戦略や人生をあきらめない熱い心はテーマとして一貫しており、負け犬臭が漂うロードムービーから、ラストに檜舞台で輝く3人の姿には『ロッキー』を観た後のような興奮を覚える。昔のように各テリトリーにプロモーターがいて、そこで賞金稼ぎをするといシステムが少なくなった昨今、当時のアメリカンプロレスの雰囲気を知るという意味でも面白い。

 邦画では小松隆志監督『ワイルド・フラワーズ』が秀作だ。潰れかけの弱小女子プロレス団体が、生き残りと再建を賭けて老舗団体に挑む、レスラー個人ではなく団体と経営という視点でプロレス愛を描いた作品。プロレスは潰し合いではなく、魅せるものでありビジネスであることをキッチリ描いているところに好感が持てる。ビジュアル的な美しさはもちろんのこと、戦いのために努力する女子たちのひたむきな姿勢が、女子プロレスものが鑑賞者の心を打つ大きな理由だろう。そこを究極的に突き詰めたのが、華やかに見える女子プロレスの裏側を描いたイギリスのドキュメンタリー映画『ガイア・ガールズ』だ。かつて日本にあった女子プロレス団体GAEA JAPANの練習生が、苦難を乗り越えデビューしていくまでを描いた作品で、10~20代の思春期の少女たちが想像を絶する練習に耐え抜いた後、リング上で見せる一瞬の輝きは涙なくして観られない。

リアルとフェイクの境界を越えたものがプロレス

 90年代のアメリカプロレス界は、WWFとWCWという2団体がテレビ番組の視聴率競争で激しく衝突していた。WWFが「プロレスはエンターテインメントだ」とカミングアウトした時代に作られたドキュメンタリー映画が『ビヨンド・ザ・マット』。リング外のレスラーに焦点を当てた作品で、往年の名レスラー、テリー・ファンクが53歳で引退を考えるもプロレスから離れられない姿を追いかけたり、娘と疎遠になったレスラーに密着したりと、フェイクの世界で生きる男達のリアルな人生模様が描かれている。

 この映画で描かれている世界は、後に近年のプロレス映画最高傑作と言われるミッキー・ローク主演の映画『レスラー』そのもの。ミッキー演じるランディ”ザ・ラム”ロビンソンは、80年代にトップを極めたレスラーで、現在はスーパーでバイトをしながらも細々と地方巡業し小銭を稼ぐ日々を送っていた。心臓病を患い医者にプロレスを止められるが、疎遠になった娘と再会して現実を知り、結局、自分の唯一の居場所であるリングに帰ってしまう。プロレスを愛していると言うより、プロレスしか知らない男の生き様を描いているのだ。もちろんフィクションだが、俳優としてスターからどん底へ落ちた経験をしているミッキーの存在が実にリアルで、本物のレスラーのドキュメンタリーを見ているような錯覚さえ覚える。今まで挙げた映画に登場するレスラーや関係者たちが辿り着くのは、ランディの最後のリングに集約されていると言っても過言ではない、それほどプロレス愛に満ちた作品だ。

 ちなみに、一方のプロレス団体WCWは、『ヘッド・ロック GO!GO! アメリカン・プロレス』という映画とタイアップし、主演のデヴィッド・アークエットをリアルの世界でもチャンピオンにしてしまうという、違った意味でリアルとフィクションの垣根を越す暴挙にでた。そんな迷走をしていたWCWは翌年に崩壊し、WWFに吸収され消滅するという、映画以上に衝撃的な結末を迎えている。

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