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日雇い労働者の街・釜ヶ崎は本当に“危険”なのか? 『さとにきたらええやん』に見る“お互いさま”の心

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 「ふるさと」という言葉を聞いて、人はどんな場所をイメージするだろう? 実家であったり、郷里であったり、そのイメージはさまざまだろうが、心の拠り所やルーツといった自らと切り離せない場所ということは共通しているのではなかろうか。ドキュメンタリー作品『さとにきたらええやん』は、ひと言でいえば、その人にとっての自分をいつでも迎え入れてくれる、心のどこかにずっと在り続けるような「ふるさと」の大切さについて気づかせてくれる映画といっていいかもしれない。

 まず、この大阪弁のタイトルを耳にすると、この「さと」が示すのは、関西エリアのどこかのどかな里山を想起してしまうかもしれない。でも、本作の舞台となるのはむしろ真逆といえる場所、大阪市西成区にある国内最大の日雇い労働者の街「釜ヶ崎」。野も山もない、ある意味、“里”という言葉が似つかわしくない、仕事を求める日雇い労働者が集まり、彼らの寝泊りする簡易宿泊所、通称「ドヤ」が立ち並ぶ雑多な街だ。最近、関西エリアはUSJの成功などもあって海外旅行客が急増。それに伴い、簡易宿泊所が民泊利用されたりして、外国人ツーリストが釜ヶ崎にはけっこう訪れているとの話を聞く。そういうこともあって街の様相は少しづつ変わっているのかもしれない。ただ、関西の人ならばたいてい知っているように、この街の一般的なイメージはいいとは言い難い。今回、作品を作り上げた大阪在住の重江良樹監督自身も「西成・釜ヶ崎=危険な街という偏見を持っていた」とプレス資料で明かしている。そんなイメージのエリアに、子どもにとって“里”のような自由にのびのびと過ごすことができるスペースがある。それが「こどもの里」だ。この施設こそがタイトルが示す“さと”。そして、この施設は、この町の人間、とりわけ子どもにとって“ふるさと”たる場所になっていることは間違いない。

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 資料によると「こどもの里」の概要は次のようになっている。1977年、“釜ヶ崎の子どもたちに健全で自由な遊び場、居場所を”と開設したミニ児童館「子どもの広場」が前身。1980年に現在の場所で「こどもの里」となり、放課後の子どもたちの居場所としてだけでなく、生活が不安定な親子のサポートもしている。その役割は徐々に広がり、行き場のない子どもたちの緊急一時保護の場、生活の場の提供も行っているという。2013年には大阪市の「子どもの家事業」の廃止を受け、存続の危機を迎えたが、「特定非営利活動法人(NPO法人)こどもの里」となり、現在も変わらぬ活動を行っているそうだ。

 さらに資料にはこうも書かれている。「誰でも利用できます。子供たちの遊び場です。お母さんお父さんの休息の場です。学習の場です。生活相談何でも受け付けます。教育相談何でもききます。いつでも宿泊できます(緊急に子どもが一人ぼっちになったら、親の暴力にあったら、家がいやになったら、親子で泊まるところがなかったら)。土日祝もあいています。利用料はいりません」

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 この文言からもわかるように、「こどもの里」はいわば西成の町の駆け込み寺。問題を抱えた人にとって、セーフティ・ネットの最後の砦のような大きな存在になっている。まさに最後の頼みの綱的存在だ。困っている路上生活者がいないかと夜回りもすれば、子どもに暴力をふるいそうになった母親の相談にのり、時には厳しく諭す。親が養育できない環境にあれば、その子どものめんどうを長期にわたってもみる。とりわけ子を持つ親にとって、これほど心強い施設はいまの時代においてめったにないのではなかろうか。そんな場所が、決してイメージのいい街とはいえない釜ヶ崎に実在する。当初、重江監督もこんな施設があることに驚き、失礼ながらスタッフにこう聞いてしまったと明かしている。「何でこんなところで子どもの施設をやっているんですか?」と。これに対し、こどもの里を開設したデメキンこと荘保さんはこう答えたという。「子どもが好きやからです」と。

 もう、このひと言に集約されているが、こどもの里の人たちは、子どもの目線、もっといえば困っている人たちの立場に立ち続ける。その姿勢は一貫して変わらない。その目線は、厳しくも優しい。

      

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