>  > 西田宗千佳『ハウス・オブ・カード』を語る

『ハウス・オブ・カード 野望の階段』連載企画 第3弾

『ハウス・オブ・カード』は映画・ドラマのあり方をどう変えた? 西田宗千佳がその影響を解説

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 Netflixオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』総力特集の第3回は、同サービスの革新性を綿密な取材とデータ検証によって解説した書籍『ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える』の著者であるジャーナリスト・西田宗千佳氏にインタビュー。『ハウス・オブ・カード』が同サービスの代表作とされる理由から、映画・ドラマ界に与えた影響、これからのドラマのあり方についてまで、深く語ってもらった。

第1回:デヴィッド・フィンチャーのターニングポイント、『ハウス・オブ・カード』の画期性について
第2回:視聴者はいつしか共犯者の心理にーー『ハウス・オブ・カード』の“悪の魅力”
第4回:デーブ・スペクターが語り尽くす『ハウス・オブ・カード』の魅力「史上ベストドラマの5本に入る」

――『ハウス・オブ・カード』は、なぜNetflixの代表作とされているのですか。

西田宗千佳(以下、西田):理由はふたつあります。まずひとつは、Netflixが初めて手がけた大作だったことです。Netflixは『ハウス・オブ・カード』以前にもいくつかオリジナルコンテンツを手がけていましたが、本格的にアメリカの大作ドラマと同じような予算をかけて作ったのは今作が最初で、いわば本気度が違いました。もうひとつは、これまでネット発のコンテンツは一般的に、ローバジェットでクオリティの低いもの、言ってみればテレビドラマの劣化版のように思われていた節があるのですが、『ハウス・オブ・カード』は非常にハイクオリティで、結果的にエミー賞のドラマ部門で受賞を果たすなど、作品自体が高く評価されたということが挙げられます。いわば、ネット発のコンテンツがほかの映画やドラマに比べても遜色がないどころか、極めて良質なコンテンツを作り得るということを、本作は証明したのです。これは映画・ドラマ業界にとってもインパクトのある出来事で、力のあるネット配信事業社がドラマ制作会社や著名な映画監督とタッグを組み、次々とオリジナルコンテンツを作る潮流へとつながりました。

ーーNetflixは、どのようにハイクオリティな映像作品を作り上げているのでしょうか。

西田:特別な制作体制を敷いたわけではなく、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント傘下のスタジオに依頼して制作しています。つまり、基本的にはいままでケーブルテレビが制作していたドラマと、仕組みとしては変わりません。しかし、大きく違う点もあります。テレビドラマはすでにビジネススキームが確立しているため、フォーマット的にも、内容的にも、あるレギュレーションが存在します。たとえば時間については、番組を4分割して合間にCMを入れて、内容がきちんと繋がるようにしなければいけない。全体の尺としても1時間の放送のタイムスケジュールであれば、大体43分から45分にまとめなければいけないと決まっているわけです。また、アメリカのテレビドラマは日本に比べると制約が少ないといいますが、テレビで流す以上、政治的な表現や性的な表現、あるいは暴力表現には一定の放送コードがあります。ところがネットドラマに関しては、このような制約とは基本的に無縁です。Netflixはオンデマンド形式のためCMを挟む必要もないですし、表現についても制作サイドとNetflix側の合意さえ取れれば良いので、制作者にとっては自由度が劇的に上がります。

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ーーその自由な制作環境のもと、『ハウス・オブ・カード』は作られたのですね。

西田:アメリカでは、いわゆる政治モノに対する需要があって、実際に『ウエストウイング』みたいな大ヒット作もあります。ところが、同作の登場人物たちはいろいろとエグいことをやっているように見えて、基本的にはみんな善人なんですね。対する『ハウス・オブ・カード』は、登場人物たちの悪人ぶりが全然違います(笑)。絶対にテレビドラマでは実現できないエグさです。そのうえ内容も濃くて、ちゃんと集中して観ることを視聴者に求める、硬派な作風になっています。

ーーそうした作品で勝負するのは、Netflixとしても大きなチャレンジだったのでは。

西田:Netflixは、きちんと勝算を持って本作を作り上げたはずです。というのも、Netflixはサービスを利用している人がどんな作品を好むか、巨大なデータベースを持っていて、『ハウス・オブ・カード』でいえば、ケヴィン・スペイシーが主役で政治モノを制作するとなった場合、その企画が妥当か否かという判断が素早くできるんです。重要なのは、この俳優が数字を持っているからこういう企画にしようという判断ではなく、クリエイターが出した企画をもとにその妥当性を検証しているところです。数字はあくまで、クリエイターの判断材料なんですね。映画やドラマではしばしば、いろんな意見が入りすぎて作品が迷走することがありますが、Netflixの方法だとそういうことが起こりにくく、かつきちんと結果につながる作品を生み出せるわけです。

――ケヴィン・スペイシーとデビッド・フィンチャー監督という組み合わせで、名作『セブン』を思い出す熱心な映画ファンは少なくないはずですが、しかしマスに向けて訴える作品ではないですよね。

西田:マスに対してのプロモーションは大切ですが、それは海にジュースを流すようなもので、なかなか浸透していかないんですね。それよりもすでにNetflixを利用しているコアな映画・ドラマファンに向けて、彼らの鑑賞に耐える作品を生み出す方が効果的なんです。ユーザーに対して、“これはあなたのための作品だ”と訴えることができますし、そうした作品は口コミによる誘引力も強い。

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――なるほど、だからこのような硬派な作品で勝負したと。

西田:もうひとつ、これまでのドラマと大きく違う点を指摘すると、Netflixは全13話のドラマなら、その13話を一気に公開するんです。そうなると視聴者は、視聴体験を途切らせることなく、いわゆるビンジ・ウォッチ(一気見)ができます。だからこそNetflixは、1話ごとの関連性が高い、文脈の深い物語も提供できるんです。『ハウス・オブ・カード』は、毎話ごとに話が複雑になってエスカレートしていくのですが、そうした物語性もビンジ・ウォッチにマッチしていました。まさにネットにしかできない価値を提供しているといえるでしょう。

――たしかに長編小説のような面白さが、この物語にはあります。

西田:長いコンテンツを提供できるのは、デジタルの本質的な価値のひとつだと思います。時間による制約から解放され、自分が好きなタイミングで一遍に観ることができるという特性は、長くて複雑なストーリーを紡ぐのにぴったりです。あれだけ多様な登場人物が、それぞれの思惑を持って行動して大局を描くダイナミズムは、従来のフォーマットでは表現できなかったかもしれません。制作サイドが『ハウス・オブ・カード』を作る際、このフォーマットをどれほど意識したかはわかりませんが、少なくとも本作の成功が後のNetflix作品に大きな影響を与えたのは確かだと思います。実際、濃密な歴史ドラマやクライムサスペンスが、Netflixの大きな売りになっています。

      

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