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『劇場版 響け! ユーフォニアム』、“真っ向勝負”で描く青春のリアリティ

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 高校時代、映画館に入り浸っていて、部活もやらず、授業にもあまり出ず、まともな高校生活を送らなかったことを悔やむ時がある。あの時代、たくさん映画を見たから今の自分があるのも確かなのだが、高校生活の想い出があまりない筆者は、優れた青春映画がやたらと眩しく見える。去年なら『幕が上がる』、最近だと『ちはやふる』あたりは眩しすぎて目が潰れるかと思った。

 筆者にとって優れた青春映画は羨望の対象であり、後悔を促すものでもある。しかしどれだけ後悔しても手に入れることができないもの、それが青春だ。だからつらい、でもまばゆいから目が離せない。その二重の感情に引き裂かれて心がものすごく揺さぶられる。

 そんな心を引き裂く傑作青春ものにまた出会った。京都アニメーションの『響け! ユーフォニアム』だ。昨年放送のTVシリーズから観ている。アニメにもかかわらず、あまりのリアリティに心がヒリヒリする。そのTVシリーズの総集編『劇場版 響け! ユーフォニアム〜北宇治高校吹奏楽部へようこそ〜』が現在映画館にて公開中だ。

 TVシリーズ全12話全てが非常に密度の濃い内容であったため、2時間弱の映画の尺にまとめるのは至難の業であろうと思って危惧していたが、主人公黄前久美子と彼女に大きな影響を与える高坂麗奈の関係を中心に上手くまとめられている。(最も本作のTVシリーズは多彩な登場人物の群像劇という面もあるから、それでも魅力の全てを伝えきれたわけではないのだが)

アニメでリアリズムを追求

 本作は、幼いころからなんとなくユーフォニアムを吹き続けてきた主人公久美子が、弱小吹奏楽部とともに成長していく青春ドラマだ。本当にやりたいことが何か見つけられない久美子に対し、同級生のトランペット奏者、高坂麗奈は「特別になりたい」と公言し自分の決めた道を進む。そんな麗奈と新任顧問の滝昇に焚きつけられた吹奏楽部とともに、久美子が成長していく姿を描いている。

 本作の魅力は地に足がついた等身大のキャラクターたちの実在感あるドラマと音楽の力。そしてそれらを描く京都アニメーションの作画の完成度の高さにある。深夜アニメで描かれる高校生活はしばしば誇張されたものが多いが、本作は、例えば女子生徒が現実の女子高生同様にスカートの裾を折り込んで挙げたりする描写があったりなど細かな所作から背景、そして被写界深度の浅いカメラアイを意識した映像作りによってリアリティある空間を作り上げている。そのリアルへのこだわりは演奏シーンにも現れており、音楽と楽器奏者の指使い等がきっちりと合っており、演奏シーンの芝居に関しては、ある意味生身の役者が演じるよりもリアリティを獲得していると言えるかもしれない。物語も挫折やオーディションの残酷さなど避けては通れない苦しみをもきちんと盛り込んだうえで人物たちの成長を描いている。石原立也監督曰く「真っ向勝負」(「アニメスタイル007」P41)の青春アニメなのだ。

真っ向勝負の演奏シーンの魅力を引き出す映画館の音響

 本作の「真っ向勝負」の姿勢が特に顕著なのが演奏シーンの描写だ。指使いまで精密に描いていることはすでに触れたが、その演奏の素晴らしさを音楽と映像の力だけで描いてみせる。例えば聴取のりアクションなどを挟んだりもせず、ひたすらに演奏だけで見せきり、それでいてきちんと説得力のあるものに仕上げてきている。「特別になりたい」という麗奈のトランペットソロは聞いた瞬間に特別であると感じられるし、部員の心が一つになった時見事な合奏が生まれている。音楽の素晴らしさが物語の要所要所で説明台詞なしで効果的に発揮されているのだ。

 そうした音楽の素晴らしさは今回の映画化でさらに磨かれている。これは映画館で映像作品を観賞する際の特権のようなものだ。TVで聴く音と映画館で聴く音はやはり違うのである。例え一度語られた物語であったとしても、音響によって観賞体験は劇的に変わるものだ。本作は総集編であるが、たかが総集編と切って捨てることのできない魅力を放っている。それは音の力によるものだ。作り手もそれを自覚しているからこそ映画化にあたっての追加カットの大部分を演奏シーンにあてている。追加カットと劇場の音響によって演奏シーンの魅力は何倍にも増している。

      

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