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『スポットライト』なぜアカデミー作品賞に? アメリカ社会における作品の意義を考察

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 2002年にアメリカ東部の有力紙「ボストン・グローブ」は、あまりにもショッキングな記事を掲載した。ボストンのカトリック聖職者数十人が、信者である児童に性的虐待を行い、教会はその事実を知りながら長年に渡って隠蔽していたのだ。本作『スポットライト 世紀のスクープ』は、アメリカのみならず世界を激震させるスキャンダルをつかみ、記事にするため奮闘した記者達の実話を映画化した作品だ。賞レースのなかでは比較的地味な演出の社会派ドラマだと思われていたが、2016年、有力作と呼ばれていた『レヴェナント: 蘇えりし者』や『オデッセイ』、『ルーム』などを抑えて、第88回アカデミー賞作品賞、および脚本賞に輝いたのは本作だった。ここでは、作品の内容に迫りながら、このアカデミー受賞作の真価について考えていきたい。

 本作は1976年、ボストンの警察署で、神父による児童への性的虐待を訴えた家族に対し、カトリック司教が訴えを取り下げるよう説得しているシーンから始まる。駆けつけた地方検事補は通常、家族の訴えを聞き加害者を起訴する手続きに入るはずだが、加害者側である教会関係者による、この説得を黙認している。加害神父はそのまま何事もなかったかのように、司教とともに車で警察署を後にした。若い警察官は、呆然としてその様子を見つめていた。

 『スポットライト 世紀のスクープ』は、カトリック教会の一部の聖職者が性的虐待をしていたという驚愕の事実を描いているが、さらに問題にしているのは、このような権力化した教会による犯罪の隠蔽についてである。言うまでもなく教会は、信者に対して犯罪を戒め、人の生きる道を説教する役割を担っている。にも関わらず、教会自体はその権力をフルに活用し、性犯罪を次々ともみ消していたのである。ボストン・グローブの調査報道班「スポットライト」チームは、熱意ある新編集長を迎えることで、この事件を追っていくことになる。

 すでに成人した被害者達は口を閉ざす者が多く、取材は難航する。彼らは一様に心に深い傷を負い、成長してのち、自ら命を断つケースも少なくないのだという。事件を調べていくうちに、怪しいと思われる加害神父の数や被害者が、想定していたものよりはるかに多いことに、記者たちは驚愕する。彼らは失望し、自身の信仰心にまで影響を及ぼしてしまう。

 『カールじいさんの空飛ぶ家』の原案を務めたこともある、本作のトム・マッカーシー監督は、『扉をたたく人』や『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々』など、監督作では低予算で深みのある人間ドラマを手がけ評価を高めてきた。俳優出身の監督は、おしなべて役者の演技を重視する演出を好むが、俳優としても活躍するマッカーシーもその例に漏れず、出演者の魅力を引き出すスタイルで、コメディーも撮れるユーモア感覚のある監督だ。彼の娯楽作を演出する実力は、このような過去作と併せて観ることで、より理解できるだろう。

 マッカーシー監督が注目を集めた『扉をたたく人』は、人生の意義に悩み日々を無為に過ごしている大学教授が、移民の青年とアフリカン・ドラムを共に叩くことで心を交わしていく感動作だった。そこで描かれたテーマは、アメリカの移民政策への批判である。同時多発テロにともない、アメリカは排外的な機運が高まり、不法移民への風当たりが強くなった。中東出身だと分かるとテロリスト候補と見なされ、人権を無視された扱いを受けるのだ。理不尽な政府や社会への怒りを表すリチャード・ジェンキンスの見事に熱い演技も評価され、ジェンキンスはアカデミー主演男優賞にもノミネートされている。マッカーシー監督は、人間のドラマを丁寧に、娯楽的にも描きながら、見過ごされがちな社会の問題について、伝えるべきことを伝わるよう実直に表現する。彼にとって映画を撮るということは、社会的な意義も含まれるのである。

 『スポットライト 世紀のスクープ』の舞台となるボストンは、本作に登場する記者達がそうであるように、カトリック教会を信じるアイルランド系の住民が多い街だ。マッカーシー監督も、同様にカトリックの家庭で育ち、ボストン・カレッジで学んだという。だからこの題材は今まで以上に、彼にとってやはり見過ごせない問題として、描かなければならなかったものなのだろう。ただ、その深刻さと、特定の団体を批判する内容になっていることから、今までよりもドラマの作為性を抑え客観的な描写が多くなっていることも確かだ。しかしそれは、監督の誠実さの裏返しでもある。それだけに、本作にも散見される持ち前のユーモアはスリリングでもある。

      

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