超問題作『懲罰大陸★USA』の衝撃 70年代モキュメンタリーの特異性に迫る

『懲罰大陸★USA』の魅力

 映画には「モキュメンタリー」と呼ばれる手法がある。端的に言うならば、ドキュメンタリー形式でフィクションを描く手法だ。「失踪した若者たちが残した記録映像」という体の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト(99)』に代表されるホラーから、『クローバーフィールド/HAKAISHA(08)』『トロールハンター(10)』などの怪獣映画まで、多くのジャンルで取り入れられてきた手法である。近年はここ日本でも、モキュメンタリーの手法を取り入れた心霊ホラー『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズが大いに話題となった。本作、『懲罰大陸★USA(71)』も、そうしたモキュメンタリーの手法を取っている。

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 本作の粗筋はシンプルなものだ。ベトナム戦争に揺れる70年代アメリカを舞台に、政府から一方的に反逆罪に問われた若者たちが、「ベアーマウンテン国立お仕置公園」という特殊な刑に参加することを提案される。それは、人間狩りの標的として3日間砂漠を数十キロ歩き、指定の位置にあるアメリカ国旗を目指す刑だ。受刑者たちは警官達から追跡を受け、さらにコースを外れたら即射殺される。しかし、もしも成功すれば、十数年の禁固刑を逃れることができるのだ。そして本作は、懲罰公園に参加する若者たちをテレビ・クルーが密着取材するという形式で語られる。こう書くと、モキュメンタリーの定石通りに思える。しかし、本作は通常のモキュメンタリーとは明らかに異なるスタンスで作られている。それは何か?

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 モキュメンタリーの面白さの一つに、没入感がある。ドキュメンタリーという前提、手持ちカメラの映像、何でもない日常の風景、そして時にカメラに向かって(つまり観客に向かって)語りかけてくるキャラクター。これらは全て、作品が観客たちの住む世界、つまりは現実と地続きであることを強調する効果がある。平凡にパーティーを楽しむ人々が、突如として巨大怪獣の襲撃を受ける『クローバーフィールド』、ごく有り触れた心霊ドキュメントと思わせておいて、やがて世界の存亡に関わる怪異へと繋がっていく『コワすぎ!』。どちらも、同じ構造になっている。これらの作品には、現実から始まった物語が暴走し、やがて現実から逸脱を始め、遂には完全な非日常へと飛躍する…その瞬間のカタルシスを楽しむものだ。

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 だが、本作『懲罰大陸★USA』には、そうしたモキュメンタリーに定番の日常のパートがない。定石通りに作るならば、逮捕される前の平和な日常パートを見せるシーンがありそうなものだ。だが本作は、最初から非日常的な光景から始まり、物語は終始「非日常の日常」で完結する。ここに本作のキモがある。本作はモキュメンタリーの定番である「日常から非日常へ」を描く物語ではなく、「非日常の日常」を描く物語なのだ。そこには劇的な展開もヒロイックな活躍もない。管理社会の恐ろしさ、理不尽さが徹底的に描かれる。

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