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青春映画の傑作としての『ストレイト・アウタ・コンプトン』

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加藤ヨシキ
洋画
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 廃屋のような家の中で、密売人から麻薬を受け取っておきながら、金がないと言い張る麻薬中毒者たち。彼らは濁った眼で、売人に銃を向ける。まさに一瞬即発。そのとき、突如として装甲車に先導された警官隊が突っ込んでくる。またたく間に崩れ去る家から、間一髪で逃げ出した売人エリック。彼こそ、後にギャングスタ・ラップのゴッドファーザーと呼ばれるEazy-Eその人であった…。

 80年代、アメリカでも最悪の犯罪地帯コンプトン。そのコンプトンで80年代に結成された伝説のラップグループがN.W.Aだ。横暴な警官への怒りを歌った身も蓋もない曲名がインパクト絶大な「Fuck The Police」など、過激な歌を次々と発表して世間を騒がせた。今回ご紹介する『ストレイト・アウタ・コンプトン』は、そんなN.W.Aの誕生から解散までを描いた青春映画である。「青春映画」…警察の装甲車が突っ込んでくる、最も危険な街の強面ギャングスタ・ラッパーの映画には、やや不釣り合いな表現かもしれない。しかし、この映画は紛れもなく青春映画である。それもキラキラの青春映画なのだ。もちろんヒップホップファンの期待に応える映画であるが、同時にギャングスタ・ラップに興味のない人でも楽しめる1本だ。

 青春映画におけるキラキラ感は、つまるところ万能感である。「今なら何でも出来る!」という闇雲な自信と、その自信に突き動かされて突っ走る姿にこそ、青春の輝きは宿る。その万能感で持って打ち込む対象が、恋愛であれスポーツであれ、バンドであれ男子シンクロナイズド・スイミングであれ、銃と麻薬の世界を歌うギャングスタ・ラップであれ、問題ではないのだ。本作がアメリカで社会現象的なヒットとなった理由はここにあるのだと思う。確かにN.W.Aを取り巻く環境は物騒だが、この映画には普遍的な「青春」と「友情」が描かれている。本作は初期衝動を胸に、共に涙を流し、共に笑い合った青年たちの物語だ。それはきっと、危険なストリートやヒップホップとも無縁な人間でも共感できるだろう。

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 たとえば予告編でも使われている、中盤のライブのシーンだ。先にもあげた「Fuck The Police」が問題視され、警官から直接ライブでのパフォーマンスを禁じられるが、彼らはステージの上でその命令を堂々と破る。筆者はこのシーンで「権力の弾圧に反抗、表現の自由を守る創作者」と いった、堅苦しいものは感じなかった。そこにあったのは、もっとシンプルなモチベーションで動く「気に入らない奴らの鼻をあかしてやれ!」というイタズラ小僧たちの姿だ。警官隊に拘束されるシーンも悲壮感ではなく、「仲間たちと一緒に、やってやったぜ!」という痛快さを感じる。 固い絆で結ばれ、己の言葉のみで世界を変えてゆく青年たち。もちろん、彼らはバリバリの不良であるが、一度でも青春の万能感を胸に抱いたことがある人なら、きっと彼らを好きになるだろう。そして、後半から彼らを襲う「大人」の世界に胸が締め付けられるはずだ。

     
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