007最大の敵「スペクター」とは何か? ボンド映画の歴史を振り返る

ボンド映画の歴史を振り返る

 ジェームズ・ボンド映画、シリーズ24作『007 スペクター』が公開される。制作発表時に伝えられた、この「スペクター」という名前が前面に押し出されたタイトルを目にしたとき、往年のボンド映画ファンの多くは熱狂したことだろう。何故なら、このスペクターこそ、ボンド本来の敵であり、映画シリーズを象徴する最大の悪の組織でありながら、ある事情によって封印されてしまった不遇の存在なのだ。それがとうとう今回、満を持して復活を果たすというのである。

 しかし、本シリーズからスペクターの影が消えて30年以上経った現在の観客のなかには、スペクターと言われても、「はあ、何のことやら…」と、心にわだかまりを残しながら日々生活をしている人達も多いのではと想像する。今回は、今までのシリーズから、ボンドVS.スペクター激闘の歴史を振り返りながら、この、ボンド最大の敵の正体を解き明かしていきたいと思う。そして、万全の状態で新作『007 スペクター』に臨んでもらいたい。

007最大の敵「スペクター」とは何か?

 ジェームズ・ボンド、コードネーム007は、言わずと知れた英国の人気スパイ・ヒーローだ。彼は、政府から与えられた殺しの許可証と小型拳銃ワルサーPPKを携帯した、洗練された高級スーツを着こなすダンディーな凄腕諜報員であり、酒の銘柄・年代やギャンブルに精通し、世界を脅かす悪を倒しながら各国を飛び回り、美女達と熱いロマンスを交わすような、ある意味での「男の憧れ」を体現した存在である。このジェームズ・ボンドを想像したのは、実際に英国でスパイとして活動した経験のある作家、イアン・フレミングである。

 この人気原作を英国のイオン・プロが映画化し、ショーン・コネリーがボンドを演じたのが、第一作『007 ドクター・ノオ』だった。映画版では、悪の秘密組織「スペクター」が、最初からボンドの敵として登場する。スペクターの一員である謎の東洋人ドクター・ノオは、ボンドに組織の名と目的を語る。「我々は東側でも西側でもない。私の組織は、対敵情報活動・テロ・復讐・強要のための特別機関、頭文字を取って、S.P.E.C.T.R.Eだ。我々の目的は世界の完全なコントロール…いや、もっと大きなものを手中に収めることなのだ」

 ドクター・ノオは、ホテルの部屋で眠っているボンドに、毒クモをけしかける。目覚めたボンドは、体を登ってくるクモを払い除け、秘密のスパイ道具ではなく、とっさに側にあったホテルのスリッパを掴んで、何度も叩きつけることでクモに勝利する。こうして、ジェームズ・ボンドとスペクターの熾烈な戦いの歴史が幕を開けたのである。スペクターと敵対するボンドは、あらゆる政府機関、企業、犯罪組織のなかに潜んだ、スペクターの仲間から命を狙われることになる。それはまさに、実体の無い幽霊(="Spectre")と戦うようなものだ。

ボンドVS.スペクター! 激闘の歴史

 『007 ロシアより愛をこめて』では、ホテルの掃除係の女に化けたスペクター幹部が、毒刃を仕込んだ靴でキックしようと迫ってくる。ボンドはとっさに、側にあったホテルの椅子を敵に押し付けて対処した。どうやらホテルでボンドを襲うのが、スペクターの常套手段のようである。この作品では、スペクターの首領が初めて画面の中に姿を見せる。だが、カメラはその顔を映さず、白いペルシャ猫を膝に乗せて、なでなでしている部分が確認ができるに過ぎない。

 『007 ゴールドフィンガー』でボンドが襲われたのもホテルである。独立した悪役である「ゴールドフィンガー」は、ボンドとロマンティックな仲になった女を殺し、その体じゅうに隙間なく金の粉を塗りつけ、黄金の死体をベッドに寝せたところを見せつけることによってボンドを脅すという、理解に苦しむいやがらせをした。これは意味がよく分からないだけに、ものすごく不気味だ。さらに、縛り付けたボンドの下半身へと徐々にレーザー光線を近づけるという印象的な拷問シーンもあるなど、多くの批評家から「くだらない」と酷評されるも、この作品は大衆の支持を集め、シリーズ最高傑作との声も多い。シリーズを代表する「ボンドカー」として、『007 スカイフォール』でもリスペクトされた、様々な秘密兵器を搭載したアストンマーチン・DB5のかっこ良さも人気を後押しし、ボンド映画ブームが巻き起こった。ニューヨークの劇場では、落ちたポップコーンで床が埋め尽くされ、次のボンド映画公開時まで劇場で上映されていたという。

 『007 サンダーボール作戦』では、幹部がナンバーで呼ばれ、裏切り者に死が与えられるという、組織の秘密が明かされていく。ソ連の対スパイ、テロ活動組織・スメルシュや、中国政府など、彼らは必要があれば、当時の共産圏などと裏で協力し利益を得ていることも分かってくる。当時、世界はアメリカや英国などの西側、ソ連や中国など東側に分かれ、緊張状態が続いていた。この「冷戦」のなかで、ボンドはアメリカのCIAとも協力しながら、西でも東でもない、未だ全貌が明かされないスペクターと戦い続けていく。

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