P.T.アンダーソン×J・グリーンウッド最新作、日本最速レビュー!

 MUBIという映画配信サイトがある、海外配信サイトとしては珍しく日本からでも登録が可能で、私も登録していて様々な作品を楽しんでいる。サイトの概要としては、月600円で厳選された世界各国の映画30本が観られるという物なのだが、30本って少ないのでは?と思う方もいるかもしれない。だが、選択肢はある程度限られていた方が面白いし、1日1本ずつ入れ替わる故に1年では365本もの貴重な作品が観れるのだから、月600円はむしろ安い方だ。

 MUBIの強みは只でさえ日本では観る機会のない作品を鑑賞できるばかりではなくて、ときおり映画祭でしか上映されていない作品を本公開前に独占配信する時があったりする所だ。例えばフィリピンの巨匠ラヴ・ディアスの『昔のはじまり』、ルーマニアン・ニューウェーブの旗手Corneliu Porumboiuの異色ドキュメンタリー『The Second Game』、スイスの新鋭アンドレア・シュタカの第2長編『Cure: The Life of Another』などもここでプレミア配信された。

そして10月9日、このMUBIでプレミア配信された作品、しかもここが重要だが"日本語字幕付き"でプレミア配信された作品が、何とあのポール・トーマス・アンダーソン監督の最新ドキュメンタリー『Junun』だったのである。そしてこの作品が、観る者全ての心を鷲掴みにするだろう、PTA監督の新たなる傑作と断言できる素晴らしい作品だったのだ。

 2015年2月、インド北西部のラージャスターン州、この地にイスラエル人アーティストであるシャイ・ベン・ツルとRadioheadのジョニー・グリーンウッドが降り立つ。彼らは州都ジョードプルのマハラジャに招かれ、メヘラーンガル城で3週間のレコーディングを行うことになったのだ。そこに『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』から『インヒアレント・ヴァイス』に至るまで、グリーンウッドとタッグを組んでいるPTAが同行し、この作品が生まれることとなったのである。

 まず映し出されるのは、砦の中、無言で床に座る奏者たちの姿だ。静寂が彼らを包み込む、今は祈りの時間、沈黙へと祈りを捧げる時間だ。だがその時はすぐやってくる。笛の音が沈黙を切り裂き演奏が始まる、ドーラクの凄まじく激しき響き、ナガラの小気味良い響き、トランペットやチューバの心震わす響き、男たちの雄々しき叫びの響き、全てが重なりあう圧倒的な演奏に対し、PTAは圧巻の720゜パン大回転長回し撮影で応える、正に奇跡としか言い様のない瞬間から作品は幕を開ける。

 そこからPTAは止まらない。様々な技術を駆使して私たちを魅了する。彼は飛び立つ、そう文字通り飛び立つのだ。砦の窓から空へと身を委ねる。フルートの滑らかな音色を耳にしながら、彼と共に私たちは空を自由に飛び交う鳥たちの視線で広大な土地を目にする。長き歴史の影を湛えた建造物の数々、ブルーシティーとの異名を持つジョードプルの街並み……かと思えばPTAは駆け抜ける。男たちの響きあう叫びを推進力にし、喧騒に満ちた街を駆け抜けていく。タクシーの男は私たちに笑いかける、バイクの集団は私たちに眼差しを向ける、遠くには白い煙がくゆり、鮮やかなピンクのヒジャブを纏った女性は見る間に過ぎ去り、牛は私たちなど少しも気にせずのっそりと歩き続ける。そうしてPTAはラージャスターンに満ちる日常を生き生きと画面に焼き付けていく。

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