ジェイソン・ムラーズが語る、アルバム『Know.』制作背景「いいインスピレーションを与えたい」

ジェイソン・ムラーズ『Know.』語る

 今も夏が来るたび、あちこちのラジオでかかりまくる、21世紀のスタンダードソング「I’m Yours」の大ヒットからちょうど10年。ジェイソン・ムラーズ、4年ぶりのニューアルバム『Know.』は、「I’m Yours」に通じる爽やかな先行ヒット「Have It All」を筆頭に、躍動感あふれるポップ路線へと回帰した最高の1作になった。先日のプロモーション来日時には、早朝のテレビやラジオ出演、LINE LIVEで配信されたイベントではアコースティックライブに加え、自らファンにコーヒーを淹れるサービスなど、日本のファンのハートもがっちりキャッチ。そんな充実の日本滞在の間に実現した、新作について語るジェイソン・ムラーズの最新インタビューをお届けしよう。(宮本英夫)

どこにいても何かを作り続ける人間であり続けると思う

ーー先日のテレビ出演の時に着ていた、アボカドがプリントされたシャツは、今日は着ていないんですね。

ジェイソン・ムラーズ:気に入ってもらえてるなら、着てくればよかった(笑)。

ーーあれはベリーキュートでした(笑)。ジェイソンは今、アボカド農園とコーヒー農園を経営してると聞いています。そういった生活と、音楽家の自分とを、分けて考えているんでしょうか?

ジェイソン・ムラーズ:いや、全部一緒だと思う。今日のインタビューの合間にも、農園を管理してくれてるマネージャーや、ファームプランナーにメールを送って、灌漑用の水路の設計について相談していたところなんだけど。農園のプロジェクトで成功しようと思っているから、僕自身はセミリタイアというか、音楽半分、農業半分でやってもいいと思ってるんだけどね。彼らが言うには、農場の経営はそれじゃダメだ、すべてを注がなきゃやっていけないと言うんだ。

ーーなるほど。

ジェイソン・ムラーズ:セミリタイアと言っても、音楽を作るのをやめるわけではなくて、ワールドツアーの数を減らして、より農園に力を注ぎたいなということなんだけど。僕はどういう立場になろうとも、クリエイティブな人間であることは変わらないから、どこにいても何かを作り続ける人間であり続けると思う。農業をやることは、忍耐や我慢強さや、学ぶことがすごく多いんだ。種をまき、水をやり、肥料を与え、大きく育てて、収穫して、それをみんなに味わってもらうのは、音楽を作ることとすごく近いものを感じるしね。

ーー確かに。ひょっとして農園で働いている時に、曲のアイデアが浮かんだりも?

ジェイソン・ムラーズ:農園にスピーカーを置いて、音楽を聴きながら作業している。そうすると楽しくできるし、色々なアイデアが浮かぶこともあるよ。

ーー曲作りはインドア派、それともアウトドア派?

ジェイソン・ムラーズ:どちらでも。今はサンディエゴの田舎に住んでるから、周りのことを気にせずに大きな音を出せる環境がある。自分で設計したスタジオがあるんだけど、外で作業できるようにもなってるから、どちらでも作ることができるんだ。

ーーニューアルバムの話をさせてください。今回のアルバムはとてもアクティブで、躍動感がある。前作『YES』が静謐な、スピリチュアルなイメージが強かったのに対して、とてもエネルギッシュで開放的に感じます。その間に、どういう変化があったんですか? そして、アルバムのコンセプトは?

ジェイソン・ムラーズ:アルバムを作り始める時には、いろいろなアイデアがあって、特に明確なビジョンを持って作ったわけではなく、思いついたアイデアをどんどん出していっただけなんだけど。ただ、サウンド的にエネルギッシュなものになったのはその通りで、なぜかというと、前作ではレコード会社が僕に、僕の好きなように作品を作らせてくれたから、今回は彼らにお返ししようと思ったのもあるかもね。その方が彼らも喜ぶだろうし(笑)。

ーーなるほど(笑)。すでにリリースされている「Have It All」は、ジェイソンらしい爽やかなアコースティックサウンドと、なめらかなラップ調の歌が素敵な、ベリーグッドソングですね。曲作りのエピソードを聞かせてください。

ジェイソン・ムラーズ:2012年に、ミャンマーに行った時のことなんだけど。そこで会ったプリースト(僧侶)が、ある挨拶の言葉を教えてくれた。それは英語でなんて言うの? って聞いたら、“May you have auspiciousness and causes of success”(あなたに幸運の兆しと成功の種が与えられますように)だって。「ワオ、そいつはクールだ」と思ったね。初めて会う人にそんな言葉をかけてくれるなんて、なんて素敵なんだと思ったし、言葉の響きも良かったから、書き留めておいた。いずれ歌にしようと思ってね。その4カ月後、プロデューサーのデヴィッド・ホッジス(元Evanescence)と曲作りをした時に、いい感じの曲ができあがって、「そうだ、これにあの時の言葉を乗せよう」と思って、そこで曲の骨組みができあがった。ただ『YES!』に入れるにはちょっと合わないなと思ったから、ストックしておいたんだけど。去年になって、アメリカで子供たちの虐待や迫害が増えているというニュースを見て、彼らのために何かポジティブなことを言いたいなと思ったのと、子供たちだけじゃなくて、たとえば仕事をリタイアした大人たちが新しい人生を迎える時にも、励ますような歌を作りたいと思って、曲を完成させたんだ。コーラスはレイニング・ジェーン、プロデューサーはアンドリュー・ウェルズ、いろんな人が関わって、長い時間をかけて生まれた曲だね。

Jason Mraz - Have It All [Official Video]

ーーメーガン・トレイナーをフィーチャリングした「More Than Friends」も、とても素敵な曲です。彼女との作業はどうでした?

ジェイソン・ムラーズ:ファンタスティック! 彼女はグレート・パーソン、グレート・ライター、グレート・シンガーだからね。この曲は2年前に、僕が一人で歌うために書いたんだけど、男の側からの一方的な目線ではなくて、女性の視点がほしいと思った時に、彼女に声をかけて、歌詞を書き加えてもらった。おかげで一方通行の歌ではなく、会話のようなリズムができて、とてもよくなったと思うよ。

Jason Mraz - More Than Friends (feat. Meghan Trainor) [Official Lyric Video]

ーーもうね、好きな曲がいっぱいあるんですよ(笑)。「Might As Well Dance」とか、ほんとに最高で。

ジェイソン・ムラーズ:僕も大好きな曲だよ。

ーーこの曲にはボブ・ディラン、The Bandを思わせるようなルーツミュージックのフィーリングがあって、大好きなんです。

ジェイソン・ムラーズ:うれしいな、ありがとう。実は僕のバンドのドラマー(マイケル・ブラム)は、The Weight Band(80年代に再編された時期のThe Bandのギタリスト、ジム・ウィーダーを中心としたグループ)にいて、リヴォン・ヘルムのパートを歌ってるんだよ。

ーーそうなんですね! 知らなかった。

ジェイソン・ムラーズ:この曲は、僕のバンドのベースプレイヤーがプロデュースしてくれた。元々は僕の妻へのラブレターのような曲だったんだけど、それがこんなにカントリーファンクな曲に仕上がったのは、バンドメンバーたちの貢献がすごく大きいと思う。ライブで何度も演奏しながら、磨きをかけていった曲だね。

ーーそういったカントリー、ファンク、あるいはアメリカーナと呼ばれるような音楽は、あなたにインスピレーションを与え続けているものですか。

ジェイソン・ムラーズ:そうだね。でも好きなものはそれだけじゃない。今までちゃんと聴いたことのなかった、昔のボブ・ディランのアルバムを聴きこんでみたり、Grateful Deadだけを3週間聴いていたこともある(笑)。あるいは、女性アーティストだけをずっと聴いていたりね。時期によってハマるものがあるから、どれか一つとは言えないな。

Jason Mraz - Might As Well Dance [Official Video]

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