マキタスポーツとスージー鈴木『カセットテープ少年時代』インタビュー “理系的”音楽分析のススメ

マキタスポーツ×スージー鈴木インタビュー

 BS12トゥエルビ で毎週金曜深夜2時から放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』。番組MCを務めるマキタスポーツとスージー鈴木が、80年代の音楽を新しい角度で分析をする、ユニークな音楽番組だ。

 毎回、繰り広げられる軽快なトークと、音楽に対する熱量をそのまま書籍にした『カセットテープ少年時代  80年代歌謡曲解放区』(KADOKAWA)が6月1日に発売。これを記念して、マキタスポーツとスージー鈴木にインタビューを行い、音楽分析をはじめるに至った経緯から、一風変わった角度から音楽の楽しみ方を教えてもらった。(柚月裕実)

スージー「僕は“理系ロック”を語りたい」

ーー番組でお話しされた内容が書籍化されましたが、改めて読んでみていかがでしたか?

スージー鈴木(以下、スージー):いやーこんないい話したっけ、と。読み応えたっぷりで、健康になりそうな感じ。体重が2キロ減って階段の上り下りがラクに(笑)。

マキタスポーツ(以下、マキタ):でも、ほとんど直してないと思うよ。読みましたけれど、喋っていた内容とそんなに変わらない。それもある種、特徴だと思います。番組でも割と文章的なことを喋っているのかもしれません。

スージー:そうですね、「文語」です。ロック書籍界では珍しい、ロックの分析を「文語」でしたものです。これまでは感覚的にしか語られてなかったから。

マキタ:そう、文学的な表現って、人に何かを伝えるためには絶対必要で。音楽が構造的にこうなってますっていうのを、例えば、メジャーセブンスを聴いたときに「大人になった気がした」と表現する。実際はチェリーボーイだったけど、チェリーじゃなくなった気がした、みたいな(笑)。そういう文学的な表現が“ろ過装置”とスージーさんに言ってもらっているところなのだと思います。

ーーなるほど。

マキタ:でも、それだけだとあまり面白くないわけですよ。“その表現の構造は実はこういう構成なんですよ”、とスージーさんが補ってくれる。そういうバランスが取れているんだと思います。

スージー:ミュージシャンはそういう構造を明らかにしたがらないですね。

マキタ:ちゃんとマジックを成立させるために、構造を明かさずにを守りたいっていう意識がある人もいるし、そもそもそこに興味がなくて、自分が作ったものであればどんな歌でも本当にいいものだと信じ込んで歌っている人たちが意外と多いです。スージーさんは音楽を奏でる側の人でもあるんですが、評論的な言葉で楽曲の構造を解説しています。でも、他のミュージシャンはなかなかやる気にならないんです。ミュージシャンの仲間に、僕が音楽を分析した話をしてもピンときてないですし。逆に僕らは自分の書いたラブソングを本当に信じ込んで歌うことができないんですけどね(笑)。

マキタスポーツ

スージー:だから多分、「愛は勝つ」(KAN)、「どんなときも。」(槇原敬之)「TOMORROW」(岡本真夜)と「負けないで」(ZARD)を、これはカノン進行、同じコード進行なんですって細かく解説しても、気持ちよく聴いてるファンはあまりいい気はしないと思うんです。ただ、そのあたりのことを“人体実験”、つまり楽曲の構造の追究や、「この音楽はなぜ心地良いのだろう」という分析をするわけです。私が、子どもの頃に渋谷陽一の文章を読んだLed Zeppelinのアルバム『Presence』の渋谷陽一のライナーノーツがすごい濃厚で、最後に「全く申し分ないツェッペリンの巨大な音を前に、僕はひたすら自分が開かれていくのを感じる」って終わるんです。いい文章なんですけど、僕はジミー・ペイジのギターの音がこうで、だから開かれる、と書きたい。僕が子どもの頃からずっとミュージシャンは種明かしをしないし、音楽評論家は観念的で情緒的で、なんだか暑苦しいし、“文系ロック”とでもいうべきコミュニティが形成されていた。でも僕は“理系ロック”をしたいというか、理系ロックを語りたい。その第一歩がこの本でできたかなという感じがします。

マキタ:脳みその構造が違うのかわからないですけど、感じたものやキャッチしてきたもの、自分の中で分析してまとめてきたこと。それらを踏まえて分析することにエロスというか、高まりを感じるわけですよ。

スージー:もしくはロゴス。

マキタ:以前、レミオロメンの藤巻(亮太)くんと話したんですけど、思考回路が違っておもしろかったです。彼はサッカーが好きで、ポジションの話をしていたんですけど、「本当に僕って視界が狭いんです」って。藤巻くんはゴールゲッターで、ゴールだったらゴールに集中して、他の余計なものが見えなくなる。「僕はそういうところがコンプレックスだけど、そういう気質なんです」と言っていて、なるほど、と! 藤巻さんはストレートにラブレターを渡せる人だよね。「あなたのことが好きです」って。そういう人だからこそまっすぐラブソングが歌える。僕とかスージーさんはバードアイでみてしまいがち。

スージー:僕たちだったらきっと、サッカー競技場の図面を書いていますね。どうしても「粉雪」はライトウイングからこう入って、「粉雪」の“な”はテンションでシックス(6th)ですよね、って言いたくなってしまう(笑)。

スージー:そういえば、藤巻さんは“山梨ロック界”の方ですよね。THE BOOM、レミオロメン、マキタスポーツって三大山梨ロックミュージシャン。

マキタ:そうですよ、私そうなんですよ、これ書いておいてください(笑)。この本に「メジャーセブンス(maj7)で大人になった気がした」と書いていますが、僕はメジャーセブンスというコードを覚えた瞬間から山梨に海が見えましたから(笑)。

スージー:山国でもこの本を読んだら海が見える。(ワンフレーズを歌いながら)これがメジャーセブンスです。

マキタ:他の山梨ミュージシャン……フジファブリックだ!

スージー:THE BOOMが大きいですね、山梨ロックは。出身地でグルーピングすると、新しいものが見えてくるわけじゃないですか。フジファブリック、THE BOOM、レミオロメンって言われてハッとするものがある。

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