黒猫チェルシー 渡辺大知が語る、音楽と役者活動のバランス「両方で自分を保っているところがある」

渡辺大知が語る、音楽と役者活動のバランス

 2017年2月に約4年半ぶりのフルアルバム『LIFE IS A MIRACLE』をリリース、全国ツアーを成功させた黒猫チェルシーからニューシングル『ベイビーユー』が到着。渡辺大知が出演する映画『勝手にふるえてろ』(原作・綿矢りさ、監督・大九明子、主演・松岡茉優)の主題歌として制作された表題曲は、初期The Beatlesをイメージしたというシンプルでポップなロックンロール。抜けのいいバンドサウンドからも、現在の黒猫チェルシーの好調ぶりが伝わってくる。

 今回は渡辺大知に単独インタビュー。「ベイビーユー」の制作を軸にして、俳優とバンド活動のバランス、結成10周年を目前にしたバンドの現状などについて語ってもらった。(森朋之)【インタビュー最後にチェキプレゼント案内あり】

 「自分にできないことはできないし、できることしかやれない」

ーーニューシングル「ベイビーユー」は、渡辺さんが出演している映画「勝手にふるえてろ」の主題歌。どういう経緯で、黒猫チェルシーが主題歌を担当することになったんですか?

渡辺:撮影が終わって、編集も終わって、映画が完成したとときに「他の候補もあるんだけど、黒猫チェルシーにも曲を作ってほしい」という話をもらったんです。要はコンペに参加させてもらったということなんですけど、自分としては負ける気はまったくなかったですね。出演させてもらったことで撮影現場の空気感もわかっていたし、「この映画のラストにはこういう曲がかかっていてほしい」ということも人一倍わかっている立場だったので。「この映画に対する自分の思い、届け!」というか、「ラブレターを書いたので受け取ってください!」くらいの気持ちで曲を書きました。しっかり曲を聴いたうえで選んでもらえたのも嬉しかったですね。

ーー楽曲のイメージも明確だった?

渡辺:そうですね。僕達が好きなロックンロールであることは前提だったんですけど、「疾走感があるけど切なくて、キュンとするような曲がいいな」と思っていたので。映画の主人公はヨシカという24歳の女の子で、とにかく恋愛に不器用で、真っ直ぐな性格なんですね。そんな女の子の行く末、未来を祝福するような音楽にしたいという気持ちもあったから、<Woo〜>というコーラスを多めに入れたり。音数が少なくて、初期The Beatlesのような真っ直ぐなロックンロールにしたいというイメージもありました。

ーー楽曲の方向性は他のメンバーとも共有していた?

渡辺:はい。アレンジするときも「初期のThe Beatles」というワードが出ていたので。「どういうリズムにしよう?」という話をしているときに僕のほうから「『抱きしめたい』とか『ハード・デイズ・ナイト』みたいなイメージがある」と言ったんですけど、そのあたりはリズム隊の2人(宮田岳/Ba、岡本啓佑/Dr)も得意とするところだから、すぐにアレンジの方向性が決まって。あまりゴチャゴチャさせるのではなく、すごくシンプルで王道な感じのサウンドのなかで、メンバーそれぞれの個性を活かしたアレンジになったと思います。鍵盤はベースの宮田が弾いてくれて、それもフックになってますね。オールディーズっぽい音質なんだけど決して古くないというか、現代の感覚でやれたんじゃないかなと。

ーーいまの黒猫チェルシーのモードも反映されているわけですね。

渡辺:そうですね。どんな歌にもきっかけがあって、今回はそれが映画だったということなので。もちろん映画にインスパイアされて書いた曲なんですけど、曲を作る、アレンジをする段階では「黒猫チェルシーがいま楽しいと思っている音をいかに出すか?」ということが大事なんですよ。そこには正直になれたんじゃないかな。歌詞についても、最初は僕の役柄(主人公のヨシカの“リアルな恋愛相手”の“ニ”)を意識して書いてみてほしいって言われてたんです。実際に書いてもみたんだけど、それだと嘘っぽくなるような気がしたんです。それよりも僕がこの映画を観て純粋に“素晴らしい”と感動したことだったり、ヨシカの不器用だけどキラキラした感じ、あとは僕自身の初めての恋ーー小さい頃の初恋ではなくて、大人になってからの最初の恋愛ーーをもとにして書いたほうがいいと思ったんですよね。それは「勝手にふるえてろ」という映画で描かれているところにもつながるし、曲と映画が離れることもないだろうなと。意識して映画に寄り添おうとするのではなくて、「気付いたら映画に合っていた」という感じにしたかったというか。

ーー渡辺さん自身が「勝手にふるえてろ」という映画に感動したポイントはどんなところだったんですか?

渡辺:完全に松岡茉優さんの魅力だと思います。松岡さん自身、すごくかわいいんだけど、いい感じに捻くれてるんですよ(笑)。器用に見えるけど、じつは不器用なところがあるっていうのも、ヨシカという女の子を引き立たせていて。映画を観ている人が応援したくなるような、愛すべきキャラクターになったのは松岡さんの力だと思うし、僕が出演していることは関係なく、「すごいな」と思って観てました。松岡さんを観るべき映画でしょうね。

ーー学生時代の片思いを頭のなかで続けているヨシカに告白して、リアルな恋愛を体験させる“二”も、映画のなかでは重要な存在ですよね。

渡辺:そうなんですよね。ただ、最初は“二”よりもヨシカのほうに共感したんですよ。“捻くれた性格のサブカル好き”というところがいいなって思ったし、逆に“二”のことは正直よくわからなくて。大九監督に初めてお会いしたときも、そのことを話しました。「“二”役でオファーしていただいたのは光栄ですけど、僕はヨシカ側の人間です」って。そしたら監督は「“二”はヨシカと似ている。やっていることのベクトルが違うだけだと思う」と言ったんです。要は「“二”は器用じゃないし、上手くやれない男だ」ということなんですよね。思っていることとは違うことを言ってしまったり、自分の気持ちを上手く伝えられないところもあるっていう。その後で脚本を読み直してみると、“二”のことがスッと入ってくるようになったんですよね。そこで「自分がやるなら、どういう感じだろう?」と考えられるようになったし、「別人をやらなくていいんだな」ということがわかったうえで撮影にも臨めて。

ーー監督との会話によって、演じる役柄に対する印象が変わって、演技の方向性も見えた。役者のおもしろさですね、それは。

渡辺:でも、自分にできないことはできないし、できることしかやれないんですよ。つまり「自分のなかにある引き出しをどう見せていくか?」ということですよね。自分のすべてを見せるのではなくて、自分が持っている“ある部分”を最大限に出すということなんですけど。今回もそう思ってやりました。

ーー役を演じるにあたっては、現実の自分自身とリンクする部分が必要?

渡辺:うーん……。じつはそういうことを考えたこともなかったんですよ、いままで。なぜか“二”に対して初めて「イメージが浮かばない」と思ってしまったので。これまでに自閉症の役、犯罪を犯す少年の役、熱血刑事などもやらせてもらいましたけど、いつも「自分にできることしかできないから、やるだけだ」と思ってたので。もしかしたら“二”は本当の自分にすごく近かったのかもしれないですね。脚本を読んでるときも“二”に対して「ヨシカがこういう状態のときは、こうに言ってやれよ!」みたいなことを思ったし(笑)、じつは“二”のことがよくわかるからこそ、やりづらかったのかもしれないです。

ーー渡辺さんの役者デビューは2009年公開の映画『色即ぜねれいしょん』。そろそろ10年のキャリアになりますが、役者に対する意識も少しずつ変化しているんじゃないですか?

渡辺:10年といっても、そのうちの3年間くらいは役者の仕事を受けずに、バンドだけをやっていた時期もありますからね。ただ、その3年間があったからこそ、役者をやりたくなってしまったんですよ。最初の頃は「バンドに絞ったほうがいいんじゃないか?」と思っていたし、正直言うと、バンドメンバーに気を使っていた部分もあったんです。役者の仕事をやってるときはライブを入れられないし、メンバーの目が気になるというか、後ろめたさも感じていて。そのせいもあって役者としてオファーがあっても断っていた数年間があったんですけど、あるときギターの澤(竜次)に「どうやって(役者の仕事を)断ろうかと思って」と話したら、「役者やりたくないんか?」って言われたんです。「役者の仕事、好きやろ? 苦痛やったらやめればいいけど、俺らに気を使って、自分の表現の可能性を狭めるな」って。そのときに「俺、役者やりたいな」と思ったんですよ。メンバーの誰からも「やるな」とは言われてなかったのに、自分で勝手にナシにしていたというか。それはすごくもったいないと思ったし、役者としても自分にしかできないやり方、自分にしっくり来る表現の形が見つけられるんじゃないかって。そこからですね、役者もしっかりやっていこうと腹を括ったのは。役者をやっているからこそ書ける歌があるはずだし、それを聴いてもらいたいと思うようになったので。

ーー自分にはバンドと役者の両方が必要だと?

渡辺:そうですね。そのときに「ライブの予定を先に決めて、役者の仕事はその他の時間を使ってやる」というルールを決めたんですけど、それ以降は誰に何を言われても気にならなくなりました。「これが自分の求めていたやり方だ」と肌で感じたし、今は音楽と役者の両方で自分を保っているところもあって。バンドだけをやっていた3年間は不安定でしたからね、振り返ってみると。定期的にバンドの外に出ていろんな人に会わないとダメなんだなってわかったし、「このバランスを俺から取り上げないでくれ!」って思いますね(笑)。

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