LOVE PSYCHEDELICOは最初から時代を超えていたーー過去と現在を結ぶライブの凄み
アルバムを完成させるまでのストーリーだとか、そこに込められた思いだとか、メンバーの生き方だとか、そういう曖昧なことではなく、サウンド、演奏、歌のレベルがただただ圧倒的に高い。それがこのライブを観終わったときの率直な感想だった。約4年ぶりのオリジナルアルバム『LOVE YOUR LOVE』を引っ提げた全国ツアー『LOVE PSYCHEDELICO Live Tour 2017 LOVE YOUR LOVE』の最終日、中野サンプラザ公演でLOVE PSYCHEDELICOは、ルーツミュージックに即した楽曲の魅力を最大限に引き出す圧巻のステージを繰り広げた。デビュー当初から「自分たちの名前よりも楽曲が残ってほしい」というスタンスを貫いてきたKUMI(Vo/Gt)とNAOKI(Gt)。自己顕示欲はまったく存在せず、アレンジ、演奏、サウンドメイクに対する真摯な姿勢によって作り上げられたこの日のライブからは、約20年に渡って質の高い音楽を追求してきたLOVE PSYCHEDELICOの凄みが存分に伝わってきた。
レコーディング、ミックスまで、ほぼすべての工程をKUMI、NAOKIのふたりで手がけたアルバム『LOVE YOUR LOVE』。楽器本来の音、プレイヤーの演奏がリアルに体感できる『LOVE YOUR LOVE』のサウンドは、卓越した演奏者が揃ったバンド(深沼元昭/Gt、高桑圭/Ba、坂東慧/Dr、松本圭司/Key、レニー・カストロ/Per)の力によって、ステージ上でも見事に体現されていた。坂東、高桑、レニーの強靭なリズムセクション、KUMI、NAOKI、深沼のトリプルギターが有機的に絡み合う「C’mon it’s my life」、松本が演奏するシンセストリングスがサイケデリックな雰囲気を醸し出した「Feel My Desire」、70年代のカントリー/ウエストコースト系の楽曲に緻密なアレンジメントを加え、現代的なポップチューンに昇華した「Birdie」(KUMI、NAOKI、深沼、高桑のコーラスワークも絶品!)。特に坂東のドラムは特筆に値する。T-SQUAREのメンバーであり、現在行われているDREAMS COME TRUEの全国ツアーにも参加している坂東。正確無比なビート、豊富なフレージング、強烈なダイナミズムを兼ね備えた彼のドラムは、LOVE PSYCHEDELICOのライブの中軸を担っていると言っていいだろう。
アルバム『LOVE YOUR LOVE』の楽曲のクオリティの高さを改めて実感できたことも、今回のツアーの大きな収穫だった。特に印象的だったのは「大好きなトム・ペティだったり、トラヴェリング・ウィルベリーズなどに憧れて作った曲です。深沼くんのダブルネック(ギター)、いいでしょ?」(KUMI)というMCから始まったフォークロックナンバー「You’ll Find Out」、シンフォニックなシンセサイザーと憂いに溢れたボーカルがひとつになった「Place Of Love」(映画『昼顏』主題歌)。デビュー以来、ギターリフを中心にしたロックチューンを数多く生み出してきたLOVE PSYCHEDELICOは、「Good times,bad times」をきっかけにして、緻密なコードワーク、豊かなメロディラインを軸にした曲作りに移行。その最初の集大成が『LOVE YOUR LOVE』だったわけだが、本作をはじめて聴いたときの“新しいLOVE PSYCHEDELICOに出会えた”という感覚は、この日のライブからも存分に感じることができた。
アルバム『LOVE YOUR LOVE』における豊潤なメロディは、ボーカリストとしてのKUMIのポテンシャルをさらに引き出していたように思う。そのことをもっとも強く感じられたのは、「Beautiful Lie」。哀切の情を映し出す旋律とともに〈全て溶かしてよ rain/私を照らしてよ sun〉というラインを響かせるボーカルには、本気で心揺さぶられてしまった。KUMIのオーガニックな声質を引き立てる、アコースティックギター、ハモンドオルガンを中心としたアンサンブルも的確だった。
ライブ後半では「Everybody needs somebody」「LADY MADONNA 〜憂鬱なるスパイダー〜」「Freedom」といったヒットチューンを次々と披露、オーディエンスも大きな歓声で応える。60〜70年代のロックミュージックを、丁寧かつ大胆なスタジオワークによって現代的な音楽へと導いてきたLOVE PSYCHEDELICO。ふたりが生み出す楽曲は最初から時代や流行を超えていたーーそのことを改めて実感できる瞬間だった。アンコールも見どころたっぷり。まずはNAOKIがひとりでステージに戻り、「以前、この近くに住んでいたことがあって。両親と車で中野サンプラザのそばを通って“いつか、ここでやれたらいいね”なんて話していたんだよね」という話をした後、レニーとともに「アメリカン・パイ」(ドン・マクリーン/1971年)をカバー。さらにKUMIとバンドメンバーも登場、「もっともっと踊れる? 歌える?!」(KUMI)と「Free World」「Last Smile」を披露し、オーセンティックなロックサウンドで会場を盛り上げる。ラストはアルバム『LOVE YOUR LOVE』の最後に収録された「No Wonder」。裏打ちのギターカッティングと明るいメロディによって、ライブはエンディングを迎えた。メンバー自ら“いままでとは違う、新しい手触りの作品になった”と語ったアルバム『LOVE YOUR LOVE』、そして、約20年のキャリアを象徴する代表曲、ヒット曲をバランスよく融合させた今回のツアー。それはまさにLOVE PSYCHEDELICOの過去と現在をリアルに結びつけるライブだったと思う。
(文=森朋之/写真=岡田貴之)