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狐火がLGBTとHIPHOPの架け橋となった日ーー新宿二丁目『日本語ラップナイト』イベントルポ

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 ゲイタウンとしてお馴染みの新宿二丁目。その新宿二丁目にあるALAMAS CAFEというバーで4月1日、『日本語ラップナイト』というイベントが開催された。LGBT(レズビアン・ゲイ・バイ・トランスジェンダー)とHIPHOPという組み合わせ。あんまりピンとこないかもしれないが、「HIPHOPファンのLGBTが楽しめるイベントを」というコンセプトの元、『日本語ラップナイト』は新宿二丁目で何年も前から開催されているのだ。実は『日本語ラップナイト』はあたしも前回からDJとして参加させて頂いている。そして今回はより盛り上げたいとのことで「誰かラッパーを呼べないかな?」と運営陣より相談があった。仲の良いラッパーは何人もいるが、如何せん会場が二丁目なので困ってしまった。イメージ商売であるアーティストは慎重になる。ゲイだなんて噂がうまれるのは避けたいというのが本心だ。しかしそんな中、ぴったりのラッパーがいることに気づいた。狐火だ。

 狐火はインディーズを軸に活動をしているラッパーだ。彼のラップはポエトリーリーディングをベースにしており、以前からHIPHOP界の異端児として注目を浴びてきた。かの有名な『SUMMER SONIC』内のオーディション『出れんの!?サマソニ!?』を勝ち抜いてイベント出場を果たし、多くのラッパーの憧れでもある『B-BOY PARK』といった有名イベントにも出演をした実力派でもある。HIPHOPというと「ワル」や「強さ」を美学とした音楽ジャンルというイメージが強いが、狐火はその真逆を突き進む。アルツハイマーになった祖母への想いを歌った「マイハツルア」がヒットして注目を浴び、その後も中々就職できないことへの悩みを呟いた「27才のリアル」や派遣社員としての不満を訴えた「31才のリアル」など等身大の己の弱さを次々と曲にして発表していった。特徴的なのはリリックだけではない。観音クリエイションなどの人気のビートメーカーを起用し、1曲1曲をクオリティの高いジャジーHIPHOPとして完成させている。そして狐火のその弱さと「虚勢を張ることなく、ありのままの弱さを全面に出す勇気」に共感した人々に愛されている。狐火も最近は活動の幅をより広げていて、株式会社LIG所属の野田クラクションベベーがメインとなっているバンド「旅と音楽」に参加し、地方活性をテーマに曲を作った。中でも秋田でいぶりがっこを自ら生産し、その体験をもとに作った「IBURI」は非常に高い評価を受けた。この春は高校の卒業式を回り、卒業生を祝うためにライブをした。彼ならば新宿二丁目でのライブも面白がってくれるかもしれない。そんなわけで彼にオファーをしたところ、やはり快諾してくれた。彼の好奇心はとどまるところを知らない。

 「新宿二丁目でライブをします」、狐火によるイベント告知のアナウンスと共にSNSでは衝撃が走った。「どこに行くんだ、狐火」、そんな声すら上がった。しかしそんな反応を面白がっている余裕すら狐火にはあった。そしてあたしを含めてDJ陣のHIPHOPに対する情熱も揺らぐことはない。色物として見られれば見られるほど、ぶちかましてやりたいという想いが募った。そんな想いを抱えながら狐火という心強い味方を迎えて新宿二丁目の『日本語ラップナイト』は開催された。

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 あいにく当日は雨だったが、イベントのオープンと共にHIPHOPフリークのゲイが続々と訪れた。一見するとその辺の男性と変わらないが、その手つきにはストレートの男性にはない艶かしさがある。手を、腰をくねらせて彼らは踊る。DJを務めるのはksk。「ECDのロンリーガール」「やべ~勢いですげー盛り上がる」などを流す。その次のDJはあたしの番だ。NORIKIYOやCHICO CARLITOなどの新譜を取り入れながら、あべともなりやKMC、あっこゴリラなど個人的に親交のあるラッパーの曲を流す。「ゲイDJなんてWACKだ」と思われたくなかった。外しとして内田有紀の「Only You」を流した際には歓声が上がった。この盛り上がり方は二丁目独特だろう。もちろん、狐火の曲も流した。その頃には狐火ファンも多く訪れていて皆音楽とお酒を楽しんでいた。ゲイはもちろん、ストレートの女の子も多かった。前述の「旅と音楽」の野田クラクションベベーや観音クリエイションも応援に駆けつけた。ALAMAS CAFEは二丁目の大通りに面したオープンバーなので入りやすかっただろう。男性も女性も初めての二丁目に緊張しながらもそれぞれに楽しんでいる様子だった。そして緊張していたのは狐火、そしてそのバックDJであるmiss one cupも同じだった。しかしALAMAS CAFEで飲んでいたゲイのお客さんがラッパーだと知らずに狐火に話しかけてきた。時折、オネエ特有のエグみのある下ネタを含んだトークだったが、二丁目特有のピースフルな雰囲気を楽しんでもらえただろうと思う。

20170408-kb4.jpg狐火

 そして遂に狐火のライブが始まった。1曲目に選ばれたのは「両目のダルマ」。人に馬鹿にされ、酒に溺れながらも「日本一のラッパーになる、生まれた日にそう約束されたんだ!」と目標を掲げ続けるという内容の歌だ。オープニングを飾るのにふさわしい。直情的に、時には叫びながらラップをする。ラップが下手だと彼は自虐的にいうけれど、スキルが際立ったラップよりも張り詰めた糸のように緊張感のある彼のラップは一言一言がガツンと心に響く。リズムを取るために地団駄を踏んだり、アグレッシブに動きながらライブをする狐火。マイクのコードが絡まないようにと肩に何重にも巻き付け、店内の端から端まで歩き回り、観客の目の前で歌う。時には店外に出て二丁目のメインストリートに向かって叫ぶ。

 そして「東京に24の時に行ってから、3年経って27歳を迎えた時に『僕音楽で食べてくのはもう無理だ』って思って、もう正社員で就職して趣味で音楽やろうと思った時期がありまして。その時期に正社員の面接を30社位受けたんですけど、全然受からなかったんです。全部もう不採用だったんです。そのあてつけに書いた曲です」と話しながら「27才のリアル」が始まる。その通り、就職試験になかなか受からない若者の叫びだ。<勇気が欲しい/特に上司が活発で生意気な年下でも余裕で頭を下げられる勇気が欲しい>。あまりに動き回るので途中でALAMAS CAFEの看板を倒してしまうというアクシデントに見舞われたが、そこでもポエトリーリーディングの強みが光る。曲の途中で「色々謝るんで。僕をここで働かせてください!」とアドリブを店員に向かって言い、そして<ウソっぽい、空が晴れて手を合わせて逃げ道ばっかり探してた/ウソっぽい、志望理由を考えるのにうんざりプライドが邪魔になった>と元々のリリックに繋いでいた。全てが元からの演出であるかのように。奇跡、なんていうと大げさだけど、新宿二丁目×狐火という組み合わせがもたらしたミラクルだ。

      

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