ニコラス・エドワーズ、日本語にふれて気づいたこと「理解の仕方は違っても求めているものは同じ」

ニコラス・エドワーズが日本語から学んだこと

 日本人以上に日本的詩情を理解する繊細な歌詞と、J-POP、ロック、R&B、ヒップホップなど様々なジャンルを溶かし込んだエクレクティックな楽曲で、日米の音楽の架け橋として活躍中。ニコラス・エドワーズのニューアルバムは、日本語盤『GO EAST』と、英語盤『GO WEST』の同時リリース。ミュージック&トータルプロデューサーにJeff Miyaharaを迎え制作した先行シングル「Freeze」含む各全12曲収録。また、ビジュアル・プロデューサーにタナカノリユキ、フォトグラファーにレスリー・キーという豪華クリエイターを迎え、その巨大なポテンシャルを解き放った会心の一作だ。会えばきっと誰もが彼を好きになる抜群のホスピタリティを持ち、完璧な日本語の語彙と深い思考を駆使して語る、新世代のポップ・スターの胸の内とは?(宮本英夫)

人生の総集編みたいなアルバム

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――まずは、ジャケットがとても素敵。英語盤も、日本語盤も。

ニコラス:ありがとうございます。レスリーさんとタナカさんとジェフさんのコンビなので、おのずと芸術性の高いものになりました。曲自体も洋楽と邦楽の統合性といいますか、もともとそういうテーマだったので、和風と洋風でジャケット写真も撮らせていただきました。それは、今の時代こそ必要なものじゃないかな? と思うので。どんどん国際化していく中で、僕自身も架け橋のような存在になれればいいなと。7年間も日本に住んでいるので、あと数年で人生の半分を日本で過ごしたことになりますね。大まかな今作のテーマとしては、アメリカのルーツと、日本での人生との調和といいますか、どっちかを無しにしては今の僕はいないので。そういった人生の総集編みたいなアルバムです。

――総集編というのは、ちょっと早すぎませんか(笑)。

ニコラス:これまでの人生の、です(笑)。24年間の総集編ですね。僕の歌い手としての一番の役割は、ストーリーテラーとしての役割だと思うので。12曲の中に、人生で経験するいろんな感情を込めています。人間の感情の複雑さといいますか、喜怒哀楽はあくまで四つ揃って、お互いありきの感情論だと思うので。世の中すべての複雑さを生み出している人間の心を表現した、人間味のある12曲になったと思います。

――感情と同じように、サウンドもバラエティに富んでいる。1曲目「Sticks&Stones」は、いきなりハードなロック・チューンで、びっくりしました。

ニコラス:迫力と疾走感のある曲を頭に持ってきたかったので。曲の内容としても、恋人に傷つけられて、それを許すためにはこれぐらいのことをしてもらわないと許さないぞという、男女の掛け合いについて書きました。傷ついた責任を取ってもらうというハードなテーマでもありながら、ハードなテーマこそ人間の弱みから生まれてくるんじゃないかと思うので。曲はメタル調のロックに仕上がってます。

――「Sticks&Stones」って、面白い表現ですね。

ニコラス:アメリカのことわざで“Sticks and stones may break my bones,but words will never hurt me”っていう、親が子供に教えることわざなんですよ。意味は、棒や石をぶつけられたら体は傷つくけど、言葉で傷つくか傷つかないかは自分が選ぶこと。子供の頃は、不細工だとか、耳が大きいとか、歯並びが悪いとか、いろんないじめがあるじゃないですか。そういう言葉を浴びせられた時に、自分が傷つくことを許さない限りは傷つかないで済むものだよ、ということなんです。

――いい言葉を覚えました。ニック、ほかにも歌詞の中にいくつかことわざを入れてるでしょう。「Loving My Lover」の“口は災いのもと”とか。

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ニコラス:好きなんです(笑)。「Loving My Lover」では<口は災いの元なら、あなたは雪崩>と歌ってます。この曲は艶やかなといいますか、ちょっと危ない雰囲気の、好きな相手がいるけど結ばれてはいけない理由があるという、」あやしい雰囲気にはこのことわざが合うと思い、取り入れました。口が災いの元であれば、あなたの口は雪崩そのもの。本当に圧倒されてしまうということです。

――すごい表現。かなわないですよ、そんなに日本語に詳しいと(笑)。

ニコラス:とんでもないです! ほかにも天気とか、状況を思い浮かばせる言葉が好きで、以前から雨の名称に興味があって。いまだに全然覚えきれてないですけど。

――<首元を伝う指先は叢雨(むらさめ)>ですね。それも「Loving My Lover」に出てくる。

ニコラス:そうなんです。それがすごく雰囲気に合っていて。叢雨って、一時的に激しく降る雨のことで、そのような恋愛という意味合いで使いました。激しく降ったものの、気がついたらやんでいる。そういう日本語ならではの、自然現象から出てくる色気のある言葉にはすごく惹かれますね。

――「Feel It」に出てくる“太刀風”とかも。こんな言葉使うんだって、びっくりしました。

ニコラス:あの曲のテーマは、鎖を断ち切るという、縛られているものを切って離すということだったので、太刀風という言葉が頭の中に浮かんできて。太刀風のように自分自身の思いを持って、束縛されているものを切り離すといいますか。もしかしたら太刀風と聞いてもピンとこない人もいると思うんですけど、それでもいいと思います。叢雨も、聞いただけならたぶんどういうものかわからない。でも日本語のすごいところは、言葉がわからなくてもなんとなく「叢雨のような恋」と聞くと、響き的に危ない雰囲気が伝わってくる。太刀風というのも、多くの人は立ち風と思ってしまうかもしれないですけど、それはそれで、風を切るようなイメージが浮かんでくるんじゃないかな? と思って、あえて難しい言葉のままにしてみました。

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