ニコラス・エドワーズ、日本語にふれて気づいたこと「理解の仕方は違っても求めているものは同じ」

ニコラス・エドワーズが日本語から学んだこと

英語でも日本語でも、たどりつくところは一緒

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――みなさん本作を聴いて勉強しましょう。僕もします(笑)。英語と日本語の違いとして、たとえば日本語だと僕、私、俺、とか一人称がいろいろあるけど、英語はIだけとか。そういう違いは、意識して使い分けてますか。

ニコラス:日本語は語彙が豊富で、一人称とか、人を呼ぶ名称とか、あとは形容詞、名詞がすごく多いと思うんですけど。英語で一番長けているのは、動詞の表現なんです。同じ動きを指す言葉でも、5パターンとか6パターンあって。たとえば日本語でいう“ふるえる”という言葉は、英語でSHAKE、SHIVER、TREMBLEとか、本当に微妙な違いがあって。たぶん、洋楽がリズムメインで作られるのは、動詞が豊富なところから出てきてると思うんですけど。

――そうか! なるほど。

ニコラス:なので、英語の歌詞を作る時の使い分け方としては、自分自身の人物像を表現するのに、一人称とか名詞、形容詞で伝えるよりは、動詞の選び方ですね。“ふるえる”という現象の中でも、どの種類のふるえ方を使うのか? というところで、英語には多少なりとも奥行きがあって。英語の作詞をする時には、どういう人間がやっているのかというよりは、行動メインで思考が動いているので、物語の中でふたりの間に何があったのかという部分が表に出てきます。英語は感情論で歌詞を作ることが多いと思うんですけど、日本語は詩的な物語を大事にしていることが多いと思います。

――うんうん。すごくわかりやすい。

ニコラス:あくまでも僕の経験上ですけども。それが曲作りとかサウンドにも出てくるんじゃないかな? と思うんですけども。文化ですね、もはや。日本語の世の中への接し方と、英語の世の中との接し方とが若干違う。そうすると、おのずと物事のとらえ方も違ってきたりとか。でもその中で、理解の仕方が違ったとしても、たどりつくところは一緒だと思うんですよ。人間の根本にある、誰かを愛したい、誰かに愛されたいというものは。その認識の仕方が違ったとしても、最終的に求めているものが同じであることは、英語バージョンと日本語バージョンの歌を作ることで気づかされますね。

――歌詞でいうと、「モナリザ」が本当にすごくて。

ニコラス:ありがとうございます! 

――これはまさに、ニックの性格の自己分析をそのまま歌詞にしたような曲。

ニコラス:最初にビートを作って、あとは全部フリースタイルのラップで、<馬力ならあるけどさ、ハンドリング複雑だ>というふうに作っていって。僕の意識の流れのような曲ですね。24歳の僕が、日ごろためこんでいるものを吐き出したような曲になってます。ユーモアも持ちながら、ちょっと自分のことを小ばかにしてみたり。最初はここまでぶっちゃけていいのかな? って心配したんですけど、この曲を聴いて共感する人も不愉快に感じる人も、いろいろいていいんじゃないかと思うようになって。特に社会の中では、これが正しいとか不正解だとか、それぞれみんな違った考えを持っている。その中でうまいことお題になるような曲だと思いますね。

――ラブソングも多いですけど、応援歌というか、ニックの人生観が伝わるような曲も心に残りました。「We Get By」のような。

ニコラス:これは、曲自体は応援歌を作りたかったんですけど、僕自身の暗さなのか、落ち込んでる時やつらい時は、「泣くなよ。頑張れよ」って言われたくなかったりするんですよ。泣きたい時に泣きたくて、泣くことを悪いことと思いたくないというか。だからこの歌詞は“一回泣いてしまえばまた朝が来るから”という、自分の弱さを受け入れるような応援歌ですね。たぶんこういう曲を必要としている人間もいるんじゃないかな? と思うので。

――なるほど。

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ニコラス:僕は東京に住んでいるんですけど、高速道路を走っていたりすると、果てしない夜景の中で、これだけの大都市に1300万人がいる中で、今泣きたい人がどれだけいるのかな? って思ったりするんですよ。それを思っただけで、ハンドルを持つ手に涙が落ちるみたいな。

――優しい人ですね。ニック。

ニコラス:僕自身もですし、常に急かされている大都会に住んでいる人間は特にそうだと思うんですけど、これというつらさがあるわけではないけれど、無意識の中にため込んでいるものがあるんじゃないかと思うんですよ。それを、休むことや断念すること、泣くことを悪いことだと解釈しないで、泣いちゃったほうが先々につながっていくものがあるというか。継続は力なりと言いますけど、たまにはやめることも力になる。たまには事実を把握したうえで、素直にあきらめていいこともある。僕自身もこれまで、メジャーデビューしてから一度インディーズに戻った時期があって。その中で、与えられた状況の中で頑張ったほうが美しいのかな? とも思ったりはしたんですけど、自分に正直に、特に音楽をやっていく上では、自分が望んでいない形で夢を実現させても、本当に意味があるのかと思ったことがあったので。「We Get By」はそういうところから出てきた曲で、東京に1300万人の人がいて、日本に1億人以上の人がいたら、どれだけためこんでいるものがあるかと考えた時、みんながそれを抱えていると感じることで、吐き出していけるんじゃないかな? と思って生まれた曲です。人のためにも自分のためにもなる作品になったらいいなと思っていて、その中であえてヒップホップのビートを使って、その上に穏やかなギターリフ、シンセのパッドを使って、エコーが響くようなサウンドにすることで、異次元のような世界観の中でリアルな物語を描くという、あえてミスマッチを狙ってみました。

――すごく面白いと思います。

ニコラス:アルバムを通して、そういうギャップを狙っていきたかったので。ジャケット写真も含めて、すべての曲の中にひとひねりが込められている。そもそも僕の存在自体がひとひねりしているので(笑)。

――あはは。そうかもしれない。

ニコラス:そこで、ひとひねりしててもいいんだ、ひとりじゃないんだって感じてもらえるような、人の居場所になるような音楽を作りたかったんです。

――応援歌といえば、「W/W/W」もそうでしょう。

ニコラス:そうですね。誰かの悩みを受け止めるような、恋愛の中での物語にしています。これは櫻井沙羅さんが作詞されているんですけど、この歌詞から「女性ってこういう言葉をもらうと癒されるんだな」ということに気付づくことができて、歌い方を極端に優しくしました。これまでは熱唱するような歌い方の曲が多かったんですけど、「We Get By」は地声が一度も出てこないくらいウィスパーが持つ優しさを出して、「Loving My Lover」では、ウィスパーが持つ艶やかさを出して。同じ歌唱法を使っていても印象が違うんですよ。かすれた感じで、息使いを感じる歌い方にも挑戦しました。その、自分自身が歌唱法として持っているものの“声の総集編”が「Freeze」です。ウィスパーから始まって、ファルセットに行って、地声になって、最後は高いフェイクだったり、すべてをJeffさんに引き出していただきました。いざ歌ってみた時に本当に大変な歌だと思いますよ。でも歌の難しさに追い込まれることが、かえって曲の世界観になっているといいますか、曲の内容自体も、恋におぼれていく感覚……恋の醍醐味というモチーフなので。追い込みつつ追い込まれつつという、端から端まで声を使った作品ですね。

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