花澤香菜が新作『ざらざら』で見せた表現の深化「身体と心にリズムがある」

花澤香菜が語る表現の深化

161129_hanazawa_5.jpg

 

「身体と心にリズムがある」

ーー曲名にもなっている「ざらざら」という言葉は歌詞の中でもキーワードになっていますが、歌詞のモチーフはどういうところから生まれたんでしょう?

花澤:「ざらざら」っていうタイトルは歌詞を書き終わって最後に付けたんです。歌詞の方向性は決まっていたんだけど、なかなか言葉が出てこなくて。布団の中でうなってたときに母からメールが来て、「なんか昨日香菜が泣いてる夢みたんだけど大丈夫?」ってきて、「何その素敵なフレーズ! いただき!」って言って(笑)。

ーーははははは。

花澤:そこから書き出したんです。なので、母からの言葉がきっかけでした。

ーーそれが歌い出しの「あなたが泣く夢を見た」になった。

花澤:そうなんです。母には「もう全然大丈夫」ってメール返して、そこから書き始めて。その頃から、自分の身体や心と向き合う時間が増えて、身体と心にリズムがあるっていうのがなんとなくわかってきて。こういうときは何をがんばってもダメだなとか、逆に今なんでもできる気がするとか、そういう波があるんです。何をがんばってもダメなときはしょうがないから、じっと待ってようっていう。それはユキノ先生のイメージとも繋がるし、そういうイメージで書きました。

ーー前のアルバム『Blue Avenue』収録曲の「プール」もそうでしたけれど、花澤さんが歌詞に書くモチーフって、外からみたらすごく暗く見えるかもしれないけど、逆に言うととても大事なことを書いている。そういう歌詞の書き方がすごく印象的なんですけど、その辺はどうでしょう?

花澤:やっぱりスタッフの中でも「これがいいね」って言う人と「これは暗いね」っていう人がいました。「表題曲だし、もうちょっと明るめに書いてみよう」って書き直してみたんですけど、ひとつ変えたら、どんどん「全然嘘っぽい!」ってなっちゃって。自分は何をするにもあんまり自信がなくて、それを人に励ましてもらうっていうよりも、自分で「大丈夫」って言うタイプなんです。自分のことを書こうとすると、そういう本質的なものが出てきているのかなと思います。

ーー実際、1stアルバム『claire』の「おやすみ、また明日」も『Blue Avenue』の「プール」も、花澤さんの書く歌詞にそういうモチーフは一貫してますよね。でも、表現はどんどん詩的になっていると思うんです。「砂」や「穴ぼこ」という比喩、「ずしんと」とか「ざらざら」という言葉の響き、そういう言葉のテクニックの部分が進歩している。そんな風に思います。

花澤:ああ、それは嬉しいです。もっと進歩したいです。

ーー歌詞を書いていくなかで、迷ったり悩んだりしたと仰ってましたけれど、どういうところがしっくりこなかったんでしょう?

花澤:最初に秦さんの「ラララ」をデモテープで聴いたときに、その歌声に、言葉にできない切なさとか、どうしようもない悲しみとか苦しみとかを感じました。そういうことを言葉にしていったらいいのかなっていうところから入ったので、とにかくいろんな言葉を集めてみて、「これも違うこれも違う」ってやってる時間が大変だったなって。

ーーそれは響きとか、しっくりくるフレーズを探していた?

花澤:そうですね。気取っても嫌だし、ストレート過ぎても趣きがないし、難しいと思って。なので、いっぱい本を読みました。

161129_hanazawa_int2.jpg

 

ーーどういう本が刺激になりました?

花澤:普段読んでいていいなっていうものになっちゃうんですけど、自分の本棚に『ざらざら』に合いそうな感じの本を探して。川上弘美さんの作品で『ざらざら』っていうのがあるんですよ。そこから付けたっていうわけでもないんですけど、でも川上弘美さんの作品も大好きです。日常に潜むものを書いている、そういう小説を選んで書いてました。川上未映子さんとかもそうですね。

ーー小説でも、花澤さんが好きなタイプの小説はきっとあると思っていて、僕の想像ですけど、文体はしっとりしているんだけど、読み終わったときにずっしりとした読後感があるというか、そういう感じの作家さんがすごく好きそう。

花澤:ああ、そうですね。好き(笑)。かなり自分の趣味は偏ってると思うんですけど、やっぱり女性作家さんのものに惹かれるんですよね。共感するからかもしれないですけど。

ーー勝手に思い浮かぶのは、西加奈子さんとか。

花澤:ああ、西さん、大好きです。

ーーあとは、大宮エリーさんとか。

花澤:あ、読んだことないです! 読んでみます、大宮エリーさん。

ーーそうやって、日々読んでいる小説や演じる作品が自分の栄養になってる感じはありますか?

花澤:そうですね。直接繋がりはしないんですけど、共感できるものが増えていったりとか、こういうふうに考える人もいるんだとか、自分の知らない景色をたくさん見せてくれたりとかするもので。しかも、小説は自分の中の想像力が鍛えられる。台本を読み解くときにも想像力がいると思うので、そういうトレーニングにもなってるし、日々栄養になっていると思います。

161129_hanazawa_6.jpg

 

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる