AKB48と乃木坂46の違いに見る秋元康の作家性 「強度」と「意味」描かれた2作から読む

 もちろんどちらの曲も作詞は秋元康なのだが、作曲家の名前からもその対照性を読み解くことができる。

 「サヨナラの意味」の作曲は杉山勝彦。これまでも、「君の名は希望」や、桜井和寿が高く評価しカバーした「きっかけ」など、乃木坂46の数々の代表曲を手掛けてきた作曲家である。そして、杉山勝彦が乃木坂46に提供してきた曲は、やはり、どれも繊細な内面性を描き出すような楽曲が多い。

 そして「ハイテンション」の作曲はシライシ紗トリ。キャリアも長く数々の歌手やグループに楽曲を提供してきた売れっ子作家であるが、意外にもAKB48への楽曲提供はこれが初。彼の代表的な仕事にORANGE RANGEをデビュー当時からプロデュースし、スターの座に押し上げたことがある。そして、この「ハイテンション」にも、冒頭から挟まれる「Yeah!」という男性ボイスや後半のラップ、「踊れ!」と煽り立てるパートなどORANGE RANGEっぽい要素が目立つ。

 「ハイテンション」の曲調はディスコだ。四つ打ちのビートに乗ってグルーヴィーなベースが屋台骨を支える。「Ⅵm→Ⅱ」のコード進行に乗って、派手なホーン・セクションが曲を飾り立てる。そういうサウンドの特徴だけを分析するならば、この「ハイテンション」を「恋するフォーチュンクッキー」「ハロウィン・ナイト」に続くディスコ歌謡三部作と位置づけることもできるのだが、やはり掛け声やラップなどの「ORANGE RANGE的要素」が大きな違いになっている。

 考えてみれば、ORANGE RANGEも00年代初頭に「意味より強度」、すなわち内面性よりノリ重視のキャラクターで一躍ブレイクを果たしたバンドだった。そして「恋するフォーチュンクッキー」のMVでは冒頭にラジオDJ風の黒人男性が「踊れよ、ニッポン」と叫ぶ。「ハロウィン・ナイト」には「さあ踊れ!」「理屈よりノリで行け!」という歌詞がある。

 AKB48を通して繰り返し「理屈よりノリ」というメッセージ性を打ち出し、そこには馴染めない内面性を乃木坂46や欅坂46で表現する。「サヨナラの意味」と「ハイテンション」は、そういう秋元康の作家性が2016年の今もなお有効であることの証明と言えるのではないだろうか。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

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