Drop's・中野ミホが示す、強いバンドになるためのビジョン「誰かが引っ張らないとブレちゃう」

Drop's・中野ミホが語る強いバンドになる方法

 映画『無伴奏』(原作:小池真理子 監督:矢崎仁司 主演:成海璃子 池松壮亮 斎藤工)の主題歌「どこかへ」、映画『月光』(監督:小澤雅人 主演:佐藤乃莉 石橋宇輪)の主題歌「月光」を含む4thフルアルバム『DONUT』を完成させたDrop’s。メンバー全員が作曲に参加した前作『WINDOW』から約10カ月という短いスパンでリリースされる本作は、メインソングライターの中野ミホ(V&G)がイニシアティブを取り、彼女自身のリアルな感情が表現された作品となった。

 リアルサウンドでは中野ミホの単独インタビューが実現。「“こういうアルバムにしたい”と方向性を自分で示したほうがいいと思った」という本作『DONUT』について語ってもらった。(森朋之)

「自分に近い曲のほうがもっと強く届くんじゃないか」

ーーニューアルバム『DONUT』が完成しました。前作『WINDOW』からわずか10カ月でのリリースですね。

中野:『WINDOW』をリリースした直後に「次は、行き当たりばったりではなくて、ビジョンを持って作ろう」ということになって、早めに曲を作り始めたんです。そういうことは初めてだったんですけどね。

ーー当初はどんなビジョンがあったんですか?

中野:『WINDOW』はバンド全員というか、私以外のメンバーが作った曲もあったり、みんながやりたいことを詰め込んだ感じのアルバムだったんですよね。歌詞に関しては物語の要素が強い、フィクション的なものを書いていたんですが、今回はもうちょっと私の個人的な部分、パーソナルな色を出せたらなって。自分に近い曲のほうがもっと強く届くんじゃないかって思ったし、“自分をどこまでさらけ出せるか”というか、正直になればなるほど、聴いてくれる人も“自分の歌だ”って思ってくれるんじゃないかなって。だから“歌詞ありき”の曲作りも増えたんですよ。

ーー歌詞を先に書くということですか?

中野:一行目からガッツリ書いていくという感じではないんですけど、テーマみたいなものが先にあって、そこから膨らませていくことはありましたね。去年、アコギを買ったことも影響してると思います。ひとりでアコギを弾いてるうちにフレーズが浮かんで、そのまま曲にしていくことも増えたので。なので、自然とスロウな曲が多くなったところもあるんですけどね。“ライブで盛り上がる”とかではなくて、たとえば仕事帰りとか、ふとしたときにじっくり聴ける曲というか…。私もそういう音楽が好きだし、より素の自分に近いものが作りたくなったんだと思います。

ーーアコギと歌がメインになっている「ダージリン」あたりは、まさにそうですね。バンド全体のことよりも、まずは中野さん自身に近い歌を作ることを優先したと。

中野:そうですね、自分のことばっかり考えてました(笑)。何て言うか、もうちょっとワガママにやろうと思ったんですよね。メンバーに「どの曲がいいと思う?」というアンケートも今回は取らなかったんですよ。『WINDOW』のときに作りかけていた曲もあったんですけど、それも見送らせてもらって、「今回はこうやります」という感じで進めたので。バンドはそれぞれ違う人の集まりだから、作品を作るときは誰かが核にならないといけないと思うし、それは自分の役割だなって。

ーーリード曲「ドーナツ」の〈わたしはドーナツ からっぽなだけの〉という歌詞にも、中野さん自身の心情が表れているんですか?

中野:そうですね。「ドーナツ」は弾き語りライブのために作った曲で、バンドでやるかどうかも考えていなかったんです。誰かにこの気持ちを伝えたいというよりは、独り言をつぶやくように書いたというか……。もともと私には「自分はこうだ!」って世の中に訴えたいものがあまりないんですよね。あと、好きな音楽とか映画、本とかについても、人から影響を受けてるなって思うこともあって。いろいろ考えていると「自分の中身って、ホントは何もないんじゃないか」って……。

ーーでも好みはハッキリしてるじゃないですか。オーセンティックなブルース、ロックンロールが好きとか、カフェよりも純喫茶とか。

中野:(笑)じつは流行を気にしている部分もあるんですよ。純喫茶が好きだけど、雑誌に載ってるようなオシャレなカフェも気になったりとか。でも、それも毎日のように変わっていくことだし、そういう自分も肯定すべきというか「からっぽでいいんじゃないか」と思えるようになって。それが最後の曲「からっぽジャーニー」につながっていくんですけどね。

ーーなるほど。映画の主題歌として制作された「どこかへ」「月光」も、このアルバムのポイントだと思います。まず「どこかへ」は映画『無伴奏』の主題歌。『無伴奏』は1969年の仙台を舞台にした作品ですが、この時代、中野さんもすごく興味があるんじゃないですか?

中野:はい(笑)。だから最初はすごく意気込んでしまったところもあったんです。まず原作の小説を読ませてもらって、その物語を頭に入れながら1曲書いたんですけど、監督さんに「この曲じゃないな」と言われて。「映画のことは気にしなくていいから、たったひとりの人に向けたラブソングを書いてほしい」という監督さんの言葉を受けて書いたのが「どこかへ」なんです。自分とメンバー以外の人と一緒に作る体験は初めてだったし、すごく刺激的でしたね。

ーーしかも「ひとりの人に向けたラブソング」というテーマは、アルバム全体の方向性とも合致してますよね。

中野:そう、この曲の影響はすごく大きかったんです。「どういうストーリーにしようかな」って考えるのではなくて、一行目から日記みたいな感覚で素直に書いていって。「どこかへ」が出来たとき「自分史上、いちばんいいな」って思えたんですよね。私は『無伴奏』の時代を生きていたわけではないですけど、昔も現在も未来でも、人からポロッと出てきた歌だったり、その素直な部分はどんな時代も変わらないんじゃないかなって。そういう書き方って大事なんだなって実感できたし、それはこのアルバム全体の空気にも影響していると思いますね。

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