「ロックバンド」と「お茶の間」は地続きに? レジーが“フェスから紅白へ”という新潮流を分析

年の瀬にロックミュージシャンは何を目指すのか

 ここまで「お茶の間」と「ロックバンド」が地続きになる、という論を述べてきたが、今回の紅白の放送の中にもそのような流れを裏付ける場面があった。まず、椎名林檎のパフォーマンスのスタート時に向井秀徳(ZAZEN BOYS)が登場。また、BUMP OF CHICKENの中継時には、司会の井ノ原快彦がCDJとはどんなイベントかについての説明を行った。「お茶の間」の象徴ともいうべき紅白の場において、<繰返される諸行無常 よみがへる性的衝動>という字幕や『COUNTDOWN JAPAN』は日本で最大級の年越し音楽イベントです」という解説が流れる様はなかなかインパクトがあった。

 現段階において、特に若手のロックバンドにとって「フェスで支持を獲得する」というのは活動の中でそれなりに大きなウェイトを占めているように思える。直近のCDJのWOWOWでの中継番組において、ゲストとして出演したキュウソネコカミは「今回GALAXY STAGEが入場規制になった、もう自分たちにとってここは小さいのでは・・・」と今後のEARTH STAGEへの出演を冗談交じりにアピールしていた。ステージの動員を一つ一つ攻略して次に進もうとしていく姿勢は、今のシーンにおいては共通するものなのかもしれない。

 そこに対して2015年には「フェスから紅白へ」というルートが明確に示された(ロックバンドに限らず、一度は出演を拒まれながらもコミケなどを経由して紅白に再び辿り着いた小林幸子など、出演にあたって従来とは異なる道筋が提示されたのが今回の紅白だったように思える)。この状況を踏まえて、今後は「紅白を目指す」というようなロックバンドが登場してくるかもしれない。この選択肢がシーンの多様性に寄与するのか、それとも「お茶の間を意識して表現の先鋭性を失うバンド」が多数現れる原因となるのか。数年経ってみないと結論づけるのは難しいが、今回の紅白に刺激を受けたアーティストが「SUN」や「私以外私じゃないの」のような「音楽性が高く、かつお茶の間にもリーチする楽曲」を作り出す、そんな流れが生まれることを期待したいと思う。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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