マキシマム ザ ホルモン『デカ対デカ』、兵庫慎司が作品レビュー前に書いておきたいこと

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マキシマム ザ ホルモン『Deka Vs Deka~デカ対デカ~』

 「やはり」と言うべきか、「それにしても、ここまで……」と言うべきか、11月18日にリリースされたマキシマム ザ ホルモンの映像作品+CDのボックス『Deka Vs Deka〜デカ対デカ〜』が、大ヒットを記録しつつも賛否両論を巻き起こしている。

 発売初週に57,000枚……「枚」じゃないか、57,000箱のセールスを記録してオリコンの総合DVD週間ランキングで1位、音楽DVDとBDの週間ランキングでも1位を獲得。しかし内容へのリアクションは、「すごい!」「感動!」「これで7,256円なんてありえない」という賛の声と、「ひどい」「これはないと思う」という否の声の両方が渦巻いており、たとえば、Amazonのカスタマーレビューには11月30日午前11時現在、実に244件のコメントがアップされている。

 否のコメントを見ると、どれも、もっともだと思うものばかりで深くうなずける。僕も今回の仕様を知った時は「いくらなんでもここまでやるか?」と愕然とし、「これはさすがに怒る人、出るだろうなあ」と心配になった。

 しかし。

 どんなに人気が出ても会場を大きくせず、最大でもZepp Tokyoクラスのオールスタンディングの会場でしか、つまりライブハウスでしかツアーをやらない(しかも決してワンマンはやらずゲストを招く)、マキシマム ザ ホルモンはそういうバンドである。「チケットとれない!」「ダフ屋で高騰してる!」というような否の声がいくら挙がっても決して折れずに、根気よくダフ屋対策を行ったりしつつ、それを続けてきたバンドである。前の映像作品『Deco Vs Deco 〜デコ対デコ〜』やアルバム『予襲復讐』を、採算を考えるとあきらかに釣り合わない豪華仕様にしているのも、レコード会社と戦わなければできないことだ。

 それらも、この『Deka Vs Deka』にも収められているライブ「地獄絵図」シリーズもそうだが、普段マキシマム ザ ホルモンがやっていることのうちのかなり多くの部分が、ロックバンドをビジネスとして成立させながら活動していくことと、力いっぱい矛盾している。人気が上がって動員が増えたら、それに見合うキャパの大きな会場に移る。セットや演出などでお金がかかるから、チケット代を上げる。シングルを何枚も出して、2年か3年に一度、それらがすべて入ったアルバムを作るーーといった、ほかの成功したバンドがセオリーとしていることを、ホルモンはやらない。やった方が、レコード会社からもマネージメントからも、(これがもっとも重要だが)ファンからもクレームが出ないことなど百も承知で、でもやらない。やらないことによって数々のストレスや軋轢が生まれ、それと向き合っていかねばならなくなるが、やらない。やったほうが儲かるのはあきらかなのに、やらない。

 今回のこの『Deka Vs Deka』の特殊な仕様も、それらとまったく同じことだ。「なんでこんな、あきらかに理に沿わないことをやるの?」「ホルモンだからです」というものだ。じゃあホルモンは、亮君はなんでそういうことをやるのかについて書き始めるとものすごく長くなるのでやめておくが、端的に結論だけ言うと、ホルモンにとって、亮君にとって、それらすべてが「こうでなくてはいけない」ことだからだ。こうでなければ自分たちが得られないもの、腹ペコたちに与えられないものを求めて、バンドをやっているからだ。

 で。ほかのバンドのファンなら話は別だが、ことホルモンに関しては、なんだかんだ言いつつも、そんなホルモンだからここまで好きになった、ここまで熱中した、ここまでついてきた、という部分はないだろうか。たとえ、ツアーのチケットがめったにとれなくてほぼフェスでしか観ることができなくても、たとえ「地獄絵図」も「全国腹ペコ統一試験」も落ち続けて参加できなくても、「しょうがない、ホルモンなんだから」「俺がホルモンを好きな理由の中に、こういうところも入っているんだから」と思えるからこそついてこれた、というところはないだろうか。

 正直、僕も、ホルモンがやることすべてに100パーセント賛同しているわけではない。特にライブに関しては、スタンディングにこだわるのはわかるけど、たまには幕張メッセとかでもやればいいじゃん、それだけでダフ屋問題とかのかなりの部分は解決するし、ファンのストレスも減るじゃん、とずっと思っている。思っているが、スタジオコーストやZepp Tokyoでホルモンを観るたびに、みんながホルモンのことを深く理解している、ホルモンもみんなのことを信頼している、そのものすごく幸福な光景に、毎回ウルッときてしまう。で、「ああ、この感じ、フェスでホルモンを観ても味わえないよなあ。じゃあまあ、これでいいのかなあ」と思いかけ、「いや、よくない!」と思い直す、ということを、何年も続けている。

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