任天堂・近藤浩治氏×KenKenが語り合う、ゲーム音楽の魅力と作曲術

任天堂近藤氏×KenKenマリオ音楽談義

 1985年9月13日にファミリーコンピュータ(TM)(通称ファミコン(TM))向けゲームソフト『スーパーマリオブラザーズ』が誕生してから今年で30周年を迎える。これを記念し、スーパーマリオシリーズのゲーム音楽をコンパイルした2枚組アルバム『30周年記念盤 スーパーマリオブラザーズ ミュージック』が、シリーズ1作目となる『スーパーマリオブラザーズ』発売から30年後の2015年9月13日にリリースされた。

 今作の発売を記念して、任天堂のサウンドスタッフとして『スーパーマリオブラザーズ』をはじめとする数々のゲーム音楽を手がけてきた近藤浩治氏と、ゲーマーとしても知られるベーシストKenKen(RIZE)の対談を企画。KenKenは、「ミュージシャンにはゲーマーが多くて、近藤さんに会いたがってる人はたくさんいるんです。早くみんなに自慢したい!」と興奮気味に思いを吐露。対談ではKenKenがこれまでの思いの丈を伝えつつ、ゲーム音楽について、そして音楽制作について語り合っていった。(西廣智一)

「誰も傷つけないタイプの音楽が世の中に存在するんだ」(KenKen)

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──KenKenさんはもともと近藤さんのことはご存知でしたか?

KenKen:もちろんですとも。僕は『ゼルダの伝説 時のオカリナ』が大好きで、「嵐の歌」とか、あのへんのフレーズが大好きなんです。

近藤浩治(以下、近藤):ありがとうございます。

KenKen:いやあ、マジでこんな日が来るなんて思ってませんでした。すげえ緊張する!

──(笑)。近藤さんはKenKenさんのことは?

近藤:息子がKenKenさんの大ファンなんですよ。今大学生でドラムとベースをやってるんですけど、その息子から「スラップのすごい人だ」と聞いていて、「サインをもらってきてー」と頼まれました(笑)。

KenKen:あはははは(笑)。もう喜んで! 僕もあとでベースにサインをお願いします(笑)。

──KenKenさんは近藤さんに対して、どういう印象がありましたか?

KenKen:日本で一番知られてる、いや、世界中の人が知ってる曲を書く人っていう印象です。いろんな国の人が楽器でスーパーマリオの曲を弾いてる動画もたくさんあるし、一小節聴いたら曲の最後まで音楽が全部頭の中で鳴ってしまうような曲ばかりで。間違いなく世界一のキラーリフメイカーだと思ってます。僕もこの対談が決まって、久々に聴き直してみたら「あれ、全部知ってる」みたいな。そんなリフって他のどのバンドにもないんじゃないかな。自分は今年30歳になるんですけど、ちょうど生まれたときからスーパーマリオと同じ感じに育ってるんですよね。

近藤:そうですね(笑)。

KenKen:今やってるような音楽に影響を受ける前から近藤さんの作った音楽を耳にしてるのもあるので、楽器に目覚める前から好きな音楽というか。かなり刷り込まれてる感じはしますね。あと、邪気がない音楽というか。聴いていて幸せな雰囲気に包まれるんですよ。

近藤:ありがとうございます。

KenKen:僕らは「うえーっ! 猛毒ー!」みたいな音楽ばかりやってきたんで(笑)、こんなに誰も傷つけないタイプの音楽が世の中に存在するんだ、っていう印象がずっとあります。

近藤:でも、ロックには毒がないとね。

KenKen:そうなんですかねえ(笑)。あの、近藤さんはロックもお好きなんですよね。イエスとかよく聴かれていたと聞いてます。

近藤:はい。ディープ・パープルとか。中学生の頃はレインボーとかのコンサートに行ったり、みんなでバンドを組んだりしてました。

KenKen:洋楽中心だったんですか?

近藤:そうですね。あと邦楽ではナベサダ(渡辺貞夫)とかジャズも聴いてました。

KenKen:そうなんですね。近藤さんが作ってきたゲーム音楽を聴いてると、どんな音楽を聴いてきたのか想像がつかなくて。すごく幅広いジャンルの音楽を作られてるし。だけどクラシック的な要素を通ってないという話を耳にしたことがあるんですが。

近藤:そうなんです。

KenKen:僕も譜面とか書くタイプじゃないので、それにめっちゃ勇気をもらったことがあります。スーパーマリオ初期の頃は数字で打ち込んで音楽を作る時代ですよね。あの頃って音が3つしか同時に鳴らせないから、マリオがジャンプしたときに1つの音が消えたりするんですよね。

近藤:そうです、そうです。

Kenken:その話を自分がミュージシャンになってから知って、そこにすごく感動しました。『時のオカリナ』の話になっちゃうんですけど、オカリナで吹ける曲って全部白鍵で弾けるじゃないですか。そこに気付いたときに、「これを作った人はなんて人なんだ! こんな人が世の中にいるのか!」とものすごく感動したのを覚えてます。

近藤:ふふふふ(笑)。

KenKen:……尊敬してます、本当に。

近藤:いえいえいえ(笑)。

──近藤さんはKenKenさんお会いしてみて、いかがですか?

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近藤:YouTubeとかでKenKenさんのスラップのすごいプレイを観てきたんですよ。僕はブラザーズ・ジョンソンとかスタンリー・クラークとかあのへんが好きだったんですけど、それ以上にカッコよくて。

KenKen:ありがとうございます! あの、曲を創造するときって、どんなきっかけなんですか? ゲームの映像に付けるんですか?

近藤:そうですね。ゲームができて、遊べる状態になってから付けます。

KenKen:なるほど。僕たちは何もないところから1を作るみたいなことばかりで、映像に対して音を作るみたいなことってほとんどしたことがなくて。なので、どうやって作ってるのかなっていつも思ってたんですよね。

近藤:僕もゼロから作るのはすごく難しいですよ。いろいろ制限があるほうが、自分にない発想へ導かれることもありますし。コンピューターで作るんで、バグで変な音が出たり自分の打ち込みミスで変な音が出たりするんですけど、「あ、これいいな」と思って使うこともあります。

KenKen:ビューティフルミステイクみたいな。

近藤:そうですね。そういうのを使うことも多いですよ。

KenKen:生演奏でもありますもんね、間違えてるほうのテイクが良かったり。

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