AKB48『選抜総選挙』は“変化の季節”を迎えた? 各メンバーの参加スタンスから考える

 それは1位を獲得した指原の言葉に垣間見える。指原はスピーチで、自身のグループ内での来歴を冷静に分析したうえで、もはや現在の彼女にはそぐわない日陰者的なキャラクターを今あえて再度背負い、そんな彼女が1位をとったことの意義を宣言してみせた。それは、選抜総選挙で「指原莉乃」という個人が1位を獲得したというストーリーと、AKB48グループが全体の活動を通じて描くことのできる普遍的な夢とを見事に重ね合わせるものだった。一見、ごくパーソナルなストーリーを語っていたようにも見えたこのスピーチは、決して彼女個人のみに収斂するミクロなものではない。これまでのグループの歴史と総選挙というイベントの大きさを背負って、トップアイドルが世に向けて放った、より射程の大きいメッセージだった。

 前田敦子と大島優子が総選挙で1位を競っていた頃は、1対1という構図も手伝って否が応でも「戦い」としてのアングルが強調されていた。しかし現在の指原、柏木、渡辺の場合、あえて言えば誰が1位になったとしても、3人で背負う役割はさほど変わらない。1位という数字を誰が取るかよりも、この3人で今の48グループを背負い、有象無象の雑音の矢面に立ち、社会の中で勢いを維持するべく立ち回っていく。そんな「3人のトップ」の三者三様のバランスが確かなものになったのが、今回の選抜総選挙だった。そしてまた、逆説というべきか必然というべきか、組織内のみの順位に拘泥しない視野に立った3人だからこそ、他を寄せつけないほどの支持を受け、トップ3を獲得しえたということなのだろう。現在の48グループにとって、中心を託すことのできるメンバーが「束」として存在していることは、何より頼もしいことなのかもしれない。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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