大森靖子が語る、新作をメジャーで出した意味 「人がぐちゃぐちゃに表現できる場所を増やしたい」

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 大森靖子がメジャーデビューアルバム『洗脳』を発表した。弾き語りによる「うた」をベースにした過去作より大きく変化し、90年代J-POPから近年のアイドルポップまで様々なサウンド的意匠を大胆に取り入れた本作は、メジャーシーンに過激に介入するコンセプチュアルな一枚といえるだろう。インディー時代から変わらぬ感情表現の強度を保ちつつ、これまでのJ-POPでは歌われなかった“言葉”や“場所”をきらびやかなサウンドで表現した本作を、彼女自身はどんな思いで作り上げたのか。インタビューに応じてくれた大森靖子は、きわめて雄弁に新作のコンセプトと自身の目指すものについて語った。

「何をやっても自分というものは出ちゃうということに、最近すごく気付いた」

--前作の『絶対少女』は直枝政広さんプロデュースによる、大森さんの歌を軸に据えた作品でした。メジャー第一弾の今作では、コンセプトの面でもサウンドの面でもポップな仕掛けが随所にありますね。まず、制作に当たってどんなことを考えましたか。

大森:ライブ用に作っていないことが大きいですね。今回のアルバムには、ライブ用に作った曲は1曲も入っていなくて、レーベルから「メジャーのための曲を30曲くらい下さい」って言われて、去年1ヵ月で20曲くらいパッと作って送ったものなんです。弾き語りのライブって、いいメロディであればあるほど眠いじゃないですか? 

--(笑)まあ、そういう時もあるかも。

大森:弾き語りは音量も一定なので、どうしてもそうなっちゃう。それを回避するために私が武器にしていたのが言葉や歌い回しだったんですけど、音源にするときにはライブほどそれを大げさにする必要はないので、結構余白を作れるんですよ。音源の場合は、基本的にBGMにもならないとダメじゃないですか。だから、これまでの判断だと破壊力が弱いから使わなかった言葉でも、言いたいこととか、面白くて音的に遊べるものとかを結構自由に使えたので、むしろ制限なくできた感じです。

--今回は“強い言葉”以外の言葉も使ったと。それは、曲を書く中でも意識したことですか?

大森:基本的には私が歌っていて声があって、メロディがあればそれでいいと思っていて。でもそれじゃ弱い部分をギターの演奏とか強い言葉で補っていたんですけど、音源にすることでそうする必然性が減ったんです。だから、めちゃくちゃ自由で楽しかった。私は大体いつもネットで炎上しているから、アルバムを作る作業だけが楽しくて(笑)。直枝(政広)さんが出してくるトラックを聞いたりとか、ぜんぜん違う楽曲をどううまくつないでいこうかとか、どのくらいの温度でつなごうかとか、そういう純度の高いことをずっとやっていたので、本当に楽しかったですね。

--なるほど。ただ、結果的にこのアルバムは言葉の強度が衰えてないどころか、むしろすごい強度になっていると思うんです。〈ここが君の本現場です いちばん汚いとこみせてね〉と歌う「ノスタルジックJ-pop」とか。

大森:何をやっても自分というものは出ちゃうということに、最近すごく気付いたんです。「自分ってなんだろう?」なんて考えたこともなかったけど、オリジナリティっていうのはこんなに勝手に出るものなんだなって思いました。だから、何をやっても大丈夫だなって、自信が付きました。だって、サウンドに関してはもはや私の知らないところで、みんなが好き勝手にハチャメチャやっているだけなのに、最終的にはちゃんと私の曲になっている。

--直枝さんやデワヨシアキさん、奥野真哉さんなどのプロデューサー陣も、大森さんのコアな部分を捉えたうえで音作りをしている印象です。

大森:みんな、デモの声質に合わせて作ってくるのも面白かったです。デモだから軽い感じで歌うんですけど、結局、音を入れるときも軽い感じに仕上がったりして。制作は、基本的にはデモをそのまんま渡して自由に仕上げてもらった感じです。もっと頭打ちを増やして「バーンバーン!」みたいな、馬鹿でも分かるぜ!みたいな感じにしてほしいとか、音楽的に頭脳派みたいなことはやんないでください、とかはすごく言いましたけど(笑)。

「J-POPの定番の形式は全部使ってしまおうという感じ」

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--前のアルバムは「女の子を肯定する」というテーマがありましたけど、今回の作品のテーマとは?

大森:コンセプトとしては、収録曲にもなっている「ノスタルジックJ-pop」というのがまずありました。最初はそれをタイトルにしようとも思ったんですけど、やっぱり言葉的に弱くって、タイトルはもっと強い方がいいと思ったんですよね。私と直枝さんはよく会話の中で「アルバムの最強のタイトルを探そう」というのをやっていて、今までで最強だったのが『臨月』なんですよ。でも、私だと『臨月』は絶対NG出るじゃないですか? 意味分かんないし、「これじゃあ売れねぇよ」って言われるに決まっている(笑)。それで、漢字二文字にしようということをまず決めて、「ノスタルジックJ-pop」とほぼ同じ意味だったのが『洗脳』なんですよ。

--そこにはどういう共通点が?

大森:J-popって、結局のところジャンルとかじゃなくて、何回聴いたかが重要だったりするじゃないですか? そういう特性をちゃんと利用しなきゃいけないと思っていて。私のこと好きでも嫌いでも、言葉にどんなに嫌悪感を抱いても、絶対に頭に残るメロディを作ろうと思ったんですね。そのためのトリックはいっぱい使っていて、売れているJ-popを50位くらいまで解析すると、そのうちの30曲は使っているような定番の形式があるので、それは全部使ってしまおうという感じ。たとえば「きすみぃきるみぃ」のメロディは、野球の応援歌を下敷きにしているんですよ。そしたら偶然にも野球のホームランを打つ音がサンプリングされていて、「直枝さん、すげぇ」って思いました(笑)。単純に直枝さんは、野球でホームラン打ちそうなイメージの曲だから入れたって言ってましたけど。

--J-popの定番の形式を刷り込み的に取り入れていると。では「ノスタルジー」という言葉に関しては?

大森:私にとってのJ-POPは、90年代で小室哲哉さんと、つんく♂さんなので。

--大森さんが小中学生くらいの頃ですね。あの時代のJ-POPには莫大な数のリスナーを引きつける魔力のようなものがありましたが、あれは何だったと思いますか?

大森:なんですかね。なんであんなにハマってたんだろう? なんか、ものすごく歌いたかったんですよね。当時は小学生だったんですけど、沖縄と東京の人しかデビューできないと思い込んでいて、田舎の自分は違うんだみたいな感じで、圧倒的な格差を見せつけられるような感覚でした。でも、SPEEDとかを見て、こんなに踊ってすごいなとか、歌うのが楽しそうだなっていう憧れはありました。

--J-POPがみんなの生活に染み込んでいた時代ですよね。

大森:今はそういう曲、絶対にみんなが知ってる曲ってないですよね。

--今回のアルバム、そうしたかつてのJ-POPのような存在を目指す部分もあるのでは?

大森:そういう存在になりたいですね。BGMと思って車で聴いていたらいつのまにか聴き込んじゃって、なんかスピード出し過ぎちゃった、みたいなのがやりたいんですよ(笑)。メジャーでやりたいことは、「まだこのくらいのことをメジャーでやってもいいんだ」って思わせることですね。それをアリにするために、聴きやすくするための音が欲しかった。だからJ-POPを利用しようと思って、それがコンセプトになったんです。私はJ-POPを利用したいだけで、超スターになって憧れられたいっていうわけではなくて。

 私はこれまで、自分の中身とか、自分の脳みそとかをさらけ出すようなライブばかりをやってきて、そしたら結構みんなが「じゃあ、俺の中身はこれ」って見せてくれたんですね。それが嬉しかったし、健全だなって思った。最近は、自分の音楽で制圧してるような現場が多いんですけど、そういうのは別にやりたくないと思っていて。私は自分のライブの空間が一番好きで、そこに来たお客さんの顔を見るのが好きなんです。みんなそれぞれぐちゃぐちゃなんですよ。それぞれの人生観を出してくれているっていうか。そうやって人が表現できる場所を増やしたいっていうのはありますね。ネットが普及してから、リスクを考えて面白いクリエーターも自分を制約するようになっていて、みんなどんどん小賢くなっている今の状況はつまらないと思うんです。私自身、本当はぜんぜん好き放題やっているわけじゃないんですけど、少なくとも好き放題やって何にも考えてなさそうには見せたいです。

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