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「音楽の天才」としての森山直太朗 デビュー以来揺るがない歌への思いとスタンスを追う

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森山直太朗
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「彼は天才なんですよ。世の中の人たちにそれがどれだけ伝わっているかわからないですけど、本当にパーフェクト超人。歌もできるし、喋りもできるし、芝居もできるし、実はダンスもできる。そして、誰とでも仲よくなれる」。

 これは、つい先日、綾小路翔に取材をした時に彼が語ってくれた森山直太朗評だが、自分も常々まったく同じことを思ってきた。そこにつけ加えるなら、森山直太朗は実はかなりのイケメンだと自分は思うし、10年以上前から取材で顔を合わせてきたけれど、当時から現在まで驚くほど見た目も中身も歳をとっていない。ちなみに「さくら(独唱)」「夏の終わり」「太陽」「生きとし生ける物へ」などで連続ヒットを飛ばしていたのが、ちょうど11年前から10年前にかけて。「『さくら』の一発屋でしょ?」的なことを言われがちな森山直太朗だが(というか彼自身もよくネタにしている)、実は上記4枚のシングルはすべてトップ10入りしているほか、これまでシングルもアルバムもコンスタントにスマッシュヒットを記録していて、毎回かなり凝った演出がなされるツアーの集客力も非常に高い。つまり、ミュージシャンとしての堅いファンベースは着実に築いているのだ。

 一方で、ファン以外の人たちにとっての森山直太朗のイメージといえば、特に近年はテレビのバラエティ番組などで見せる愛嬌あるキャラクターだろう。今年はテレビドラマでの(舞台以外での)役者デビューを、13年振りに復活した国民的人気ドラマ「HERO」第1回のメインゲストという大役で果たしたことも記憶に新しい。重要なのは、それらの仕事を森山直太朗はただ器用にこなしているのではなく、常に番組の作り手の要求を遥かに超えるレベルでやってのけていること。まさに「パーフェクト超人」と呼ばれる所以である。いつもそれを涼しい顔でやってのけてしまうから、つかみどころがないと感じている人もいるかもしれないけど。

 ミュージシャンとしての森山直太朗は「つかみどころがない」のとは正反対に、「つかみどころがありすぎる」が故に、熱心なリスナー以外からは正当な音楽的評価を得てこなかったと言っていいかもしれない。今でこそ、ジェイク・バグやマムフォード&サンズのように、60年代のフォークミュージック/フォークロックを現代的な解釈というフィルターを通すことなく、ほぼそのまんま再現しているミュージシャンに世界的な評価が集まっているが、森山直太朗の場合、彼らのようなリバイバリストとはちょっと背景が異なる。一つは、言うまでもなく彼が生粋の音楽一家の出身だということ(デビューする際に、その力に一切頼らなかったのは事実であるが)。もう一つは、デビューしていきなり(厳密に言うと、直太朗名義のインディーズ時代とメジャーデビュー1枚目のシングルを経てはいるが)ミリオンヒットを出してしまったこと。彼が歌うストレートなフォークソングには最初から何の迷いもなかったし、リスナーもまた、そんな彼の音楽をほぼ最初から「当たり前のこと」として受け入れてしまった。それこそ海外のフォークリバイバルが起こるよりも全然前に、日本のメジャーのど真ん中であんな朴訥とした音を奏でていること自体、本当は全然「当たり前のこと」ではないのに。

 11月19日にリリースされた森山直太朗の11枚目のオリジナルアルバム、ニール・ヤングのあの名曲を彷彿とさせる『黄金の心』というタイトルが冠せられた作品は、そんな彼の本当は当たり前じゃないのに、当たり前のように歌っている/奏でている音楽の集大成と言うべき作品となっている。森山良子がデビューするきっかけを作った黒沢久雄率いるブロード・サイド・フォーの「若者たち」のカバーから、《することないからセックスしよう》というキラーフレーズでファンの間ではお馴染みの曲(今回が初の音源化となる)「することないから」まで。2014年の森山直太朗が、メジャーデビューから12年を経て、今一度自分の原点に回帰した珠玉の楽曲集。そして、これが森山直太朗というミュージシャンのユニークな点なのだが、彼が自分の原点に立ち返るということは、そのままある時代/ある文化を象徴してきた日本の「歌」の原点に立ち返ることにもなるのだ。2010年代に入って、日本でも海外のようにフォークリバイバルが起こらなかったのも無理はない。日本には森山直太朗というミュージシャンがいて、彼はその歌への思いとスタンスを一度たりとも微動だにせず、大衆に向かってずっと歌い続けてきたのだから。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

■リリース情報
『黄金の心』
発売:2014年11月19日
UPCH-20372 ¥3,240(税込)
〈収録曲〉
01. 若者たち
02. 洪積世ボーイ
03. コンビニの趙さん
04. 昔話
05. こんなにも何かを伝えたいのに
06. 運命の人
07. することないから
08. 悲しいんじゃなくて寂しいだけさ
09. 五線譜を飛行機にして
10. 黄金の心

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