『ソニック』35周年記念、瀬上純・雄之助インタビュー 受け継がれてきた“音速のDNA”

『ソニック』35周年 “音速のDNA”

 1991年に産声を上げ、世界中のゲームファンを魅了し続けてきた『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』シリーズ。2026年に35周年を迎えるにあたり、アニバーサリーイヤーを彩る記念アニバーサリーソング「Speed Is My Life」が制作された。作曲は長年にわたりシリーズのサウンドを力強く牽引してきた「ソニック」シリーズサウンドディレクター・瀬上純によるもの。さらに、同楽曲の日本語版アレンジ「音速を超えて」は、『ソニックレーシング クロスワールド』で「ジェットブラック」を手がけた新進気鋭のクリエイター・雄之助が担当している。

 初期はDREAMS COME TRUEの中村正人が音楽を制作するなど、幅広い音楽ジャンルを内包してきたソニック音楽の歴史を解き明かすべく、今回は6月28日に昭和女子大学・人見記念講堂でオーケストラ+バンド編成で行われる『SONIC LIVE!』の開催を前に、瀬上と雄之助それぞれに個別インタビューを行った。

 ロックを主軸にソニックのアイデンティティを確立した瀬上と、一人の熱狂的なファンから公式クリエイターへと羽ばたいた雄之助。世代や国境を超えて交差する「ソニック楽曲」が持つパワーを改めて感じた取材となった。(編集部)

瀬上純インタビュー:革新の歴史と“35周年の集大成”

――ソニックシリーズが35周年を迎えました。瀬上さんがコンポーザーとして初めてシリーズに参加されたのは1993年開発の『ソニック・ザ・ヘッジホッグ3』(以下、『ソニック3』)でしたが、改めてご自身のキャリアの原点についてお聞かせいただけますか。

瀬上純(以下、瀬上): 私は1993年にセガに入社したのですが、そもそも一人のプレイヤーとしてソニックが大好きで、セガの門を叩いた人間なんです。ですので、入社したその年に『ソニック3』の開発に関わり、自身が手がけた楽曲を実際に採用してもらえたことは、若かりし自分にとって本当に大きな出来事でした。

 その後、サウンドディレクターとして作品全体のサウンドを統括するようになったのは、1998年のドリームキャスト用ソフト『ソニックアドベンチャー』(以下、『アドベンチャー』)からです。この作品は、ソニックが完全に3Dモデルへと進化し、キャラクターがフルボイスで喋るようになるなど、現在の“モダンソニック”の原点ともいえる歴史的な転換点でした。当時は主要なマーケットである欧米を意識して、メインストリームには英語のボーカル曲を据えようという方針を打ち出したのですが、初めてのことがあまりにも多くて、終わりの見えない物量との戦いだった思い出が強いです。ただ、新しいコンセプトを提示できたという意味で、非常に良い作品に仕上がったと思っています。

――『アドベンチャー』以降、瀬上さんの代名詞ともいえるロックやギターサウンドがソニックの軸になっていきました。それ以前のシリーズとの音楽的な差別化はどのように考えていたのでしょうか?

瀬上: メガドライブの初期2作品において音楽を手掛けられたDREAMS COME TRUEの中村正人さんにお話を伺った際、「実はどの曲にも歌をつけたかった」とおっしゃっていたんです。実際に彼の手がけた楽曲のメロディはとてもキャッチーですよね。ソニックの音楽において、覚えやすくて口ずさめる「歌えるメロディ」というのは非常に重要なDNAだと思っています。

 一方で、その後にリリースされた『ソニック・ザ・ヘッジホッグCD』やセガサターンの『ソニックR』などでは、すでにボーカル曲が導入されていましたが、それらは当時のハウスやダンスミュージック寄りのアプローチでした。そんななかでロック畑出身の自分がサウンドディレクターを担当するとなったので、「自分が一番自信を持っている武器、つまりロックやギターサウンドで戦うべきだ」と考えたんです。それを軸にしつつ、『アドベンチャー』や続く『アドベンチャー2』では、ナックルズ(・ザ・エキドゥナ)ならファンクやヒップホップ要素を入れるなど、キャラクターごとに音楽ジャンルを明確に差別化していく手法を取り入れました。

――数多くの楽曲を手掛けられてきましたが、ご自身のキャリアにおいて特に思い出深い曲や、転機となった曲を挙げるならどれになりますか?

瀬上: ボーカル曲なら、やはり『アドベンチャー2』の「Escape From The City」ですね。あの作品は開発自体をサンフランシスコで行っていたのですが、この曲は現地に行ってすぐに作った曲でした。休日に車でサンフランシスコの街中を走りながら、坂道を駆け抜けるテンポ感や雰囲気を頭に思い浮かべてスケッチしていったんです。

 インスト曲であれば、シャドウ(・ザ・ヘッジホッグ)が初登場した時のステージ曲「Radical Highway」を挙げたいです。シャドウというキャラクターは口数が少なく寡黙ですから、音楽的にもあえてメロディアスな展開を排除して、短いフレーズを何度も繰り返すミニマルな構成に落とし込みました。シャドウに対して初めてBGMを当てた記念すべき1曲であり、キャラクター性をどう音楽で表現するかというコンセプトメイクの成功例だと思っています。

――制作手法や機材についてもお伺いします。現在に至るまで、ハードウェアの進化とともに制作環境も激変したと思いますが、瀬上さんの根幹にある作曲のプロセスは変わっているのでしょうか?

瀬上: 面白いもので、根幹は全く変わっていないんです。例えばメガドライブの頃はFM音源で発音数に厳しい制限があったので、「両手で弾ける範囲のコードとメロディ」を鍵盤で弾いて作っていました。そのフレーズは?といえば、以前も、また今でも、実はほぼすべて「鼻歌」から作っています(笑)。昔はカセットレコーダーを持ち歩いて、今はスマートフォンのボイスメモに吹き込んでいます。歩いている時の息遣いや、時には踏切の音がガンガン入っているような録音を後から聴き直して、「このフレーズは使えるな」と拾い上げていくんです。

 先ほど中村正人さんのお話をしましたが、初代の「グリーンヒルゾーン」のBGM(「Green Hill Zone」)って、実は40秒弱しかないんですよ。短いスパンで繰り返されるからこそ、プレイヤーの耳に残り、ゲームを遊びながら口ずさめる。その「キャッチーなメロディの強さ」を作る上では、今も昔も鼻歌のスケッチという超アナログな手法が一番理にかなっているんです。

――近年では、様々なクリエイターとのコラボレーションも活発に行われていますよね。

瀬上: そうですね。例えば『ソニック × シャドウ ジェネレーションズ』ではTeddyLoidさんと組んだり、『チームソニックレーシング』でもTORIENAさんと組んだりと、ご一緒させて頂くことで新しい世代の新しい世代のエッセンスを取り入れる試みを意図的に行っています。

 実はここ数年、リズムゲームの『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、『プロセカ』)の音楽運営にも深く関わっていまして。そこで様々なボカロPや若いクリエイターたちの書き下ろし楽曲に触れる機会が多く、ものすごく刺激を受けるのですが、今回の35周年アニバーサリーソングのアレンジをお願いした雄之助さんとも、『プロセカ』の現場を通じて出会いました。以前、Cash Cashとコラボレーションしたときも思ったのですが、異なるジェネレーションのクリエイターたちと交わることで、ソニックの音楽にも新しい化学変化が起きていると感じます。

――今回の35周年記念アニバーサリーソング「Speed Is My Life」は、どのようなコンセプトで制作されたのでしょうか?

瀬上: 実は、過去の周年アニバーサリーというのは「記念ゲームタイトルが発売されることがあっても、「アニバーサリーソング」を単独で作ったことはなかったんです。そこで今回、どうせ作るなら過去作で用いたインスト曲のフレーズをふんだんに盛り込んだ集大成的なものにしようと考えました。

「Speed Is My Life」(作詞:Tee Lopes、作曲:瀬上純、歌唱:NateWantsToBattle) 

ソニック35周年アニバーサリーソング "Speed Is My Life"

 聴いていただければ分かると思いますが、Aメロには『ソニック ヒーローズ』から私が作った「Seaside Hill」、BメロにはTee Lopesが手がけた『ソニックマニア』の「Discovery - Title Screen」のフレーズをもじったもの、そしてサビには大谷(智哉)が手がけた『ソニック ワールドアドベンチャー』の「Rooftop Run」のフレーズを織り込んでいます。さらにギターソロは『アドベンチャー2』のスピードアップ時のジングル、落ちサビは初代『アドベンチャー』のエメラルドコースト(「Azure Blue World」)を引用するなどしています。。過去作を知っている人には「これはあの曲だ!」とニヤリとしてもらいつつ、新しいファンには「ソニックの曲ってこんなに明るくてポジティブなパワー全開なんだ」と伝わる、両方の側面を持たせた楽曲に仕上げました。

――同楽曲は雄之助さんらによって日本語版などのアレンジが行われていますが、各アーティストにはどのようなリクエストをしたのでしょうか?

瀬上: オーダーは非常にシンプルで、「メインの旋律(メロディライン)だけは崩さないで残してほしい」ということだけです。それ以外は彼らの自由度を制限したくなかったので、完全にお任せしました。結果として、私一人では絶対に思いつかないアプローチや、新鮮な再構築がなされていて、ソニックの音楽の懐の深さを改めて実感しましたね。

――35周年記念CDには「Escape From The City」の新録バージョンも収録されるそうですね。

瀬上: ええ。この曲はこれまでにもCash Cashによるリミックスや、戌神ころねさんとのライブイベントで披露したバージョン、Lynさん(『ペルソナ5』)とのコラボなど様々なバージョンが存在するのですが、ライブでの反応が大きな理由です。会場がものすごく盛り上がるんですが、原曲のサイズだと2分ちょっとで終わってしまう。それがもったいなくて、以前、『ソニックジェネレーションズ』の際にセルフリメイクしたアレンジを下地としてギターソロや3番のサビを追加したロングバージョンを作ったんです。ファンのみなさんの手元に音源として残しておきたいと思い、今回新たにレコーディングを行いました。

――最後に、今後のソニックの音楽展開と、瀬上さん自身の展望を教えてください。

瀬上: ソニックというIPは今や映画やコラボ商品など多岐にわたり、音楽単体でもゲームの枠を飛び出してライブなどの別軸で展開できる状況にまで成長しました。6月末には私がゼロからプロデュースするバンド+オーケストラ編成の『SONIC LIVE!』も開催されます。こうして音楽を体感してもらう場を作り続けると同時に、今後もCDのような「形に残るパッケージ」をしっかりとお届けしていきたいですね。

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