最強AIモデル『Claude Fable 5』はなぜ3日で停止されたのか 国家安全保障問題へ発展したAI騒動を追う

『Claude Fable 5』はなぜ3日で停止した?

 Anthropicが6月9日(現地時間)に一般ユーザー向けに公開した最新AIモデル「Claude Fable 5」が、大きな注目を集めている。高い性能から「Claude史上最強モデル」とも評される一方、公開からわずか3日で利用停止となったためだ。

 ChatGPTのライバルとしても語られるClaudeシリーズで何が起きたのか。これまでの経緯を整理する。

「Fable 5」とはどんなモデルなのか

 「Fable 5」は、Anthropicが開発した最新の大規模言語モデルだ。もともとは、一部の研究機関や信頼できる組織にのみ提供されていた高性能モデル「Mythos」系統の技術をベースとしており、安全対策を強化したうえで一般公開された。ソフトウェア開発や知識労働、画像解析、科学研究など幅広い用途に対応し、とくに複雑な作業を長時間継続して進められる点が評価されている。

 100万トークンのコンテキストウィンドウに対応しており、大量の資料を読み込みながら分析や開発を進めることができる。ゲーム制作や小説執筆、プログラミング、3D CAD設計といった分野では、従来モデルを大きく上回る性能を示したという報告も相次ぎ、AIコミュニティで注目を集めた。一方で、危険性の高い内容を含む質問が入力された場合には、より制限の厳しいモデルへ自動的に切り替わる仕組みも導入されていた。

 利用料金は入力100万トークン当たり10ドル、出力100万トークン当たり50ドルで、従来モデルより大幅に安価だったことから企業ユーザーの関心も高かった。実際に利用した企業からは、「数カ月かかる作業を数日で終えられた」「長時間にわたり自律的に作業を続けられる」といった評価も寄せられていた。

公開から3日後に突然停止、理由は「米政府による国家安全保障上の懸念」

 ところが、公開からわずか3日後の6月12日夕方(現地時間)、Anthropicは「Fable 5」と限定版の「Mythos 5」へのアクセスを停止した。既存のClaudeモデル(Opus 4.8など)は引き続き利用できたため、対象がこの2モデルに限られていたこともあり、突然の措置に利用者の間では戸惑いが広がった。

 報道やAnthropicの説明によると、背景にあったのは米商務省による輸出規制措置だ。国家安全保障上の懸念を理由に、国外在住者を含む非米国籍者によるアクセスを停止するよう求めたという。対象にはAnthropicの外国籍社員も含まれていた。

 問題視されたのは、モデルが持つ高度なサイバーセキュリティ関連能力と、安全機能を回避する「ジェイルブレイク(jailbreak)」への耐性だった。Anthropicと米国政府の両方と信頼関係のあるテストパートナー(一部報道ではAmazonとも)からの情報提供をキッカケに、Fable 5が高度なサイバー攻撃に関する指示を生成できる可能性が指摘されたとされる。

 これに対しAnthropicは、「特定条件下でのみ成立する限定的なジェイルブレイクであり、誰でも再現できるようなものではない」と説明している。しかし、米政府は即時対応が必要と判断し、「Claude Fable 5」へのアクセス停止を求めた。

 Anthropicは「外国籍社員へのアクセス制限を確実に実施するため、いったん全ユーザー向けの提供を停止した」と説明。今回の出来事は、高性能AIが国家戦略や安全保障と深く結びつく技術になったことを改めて示すものとして、大きな注目を集めている。

Anthropic重役は「数日以内の復旧」に自信を示すが、再開時期は依然として不透明

韓国・ソウルで開かれた記者会見に登壇したChris Ciauri氏(画像引用:Korea JoongAng Daily

 停止から約1週間が経過した6月19日現在も、「Fable 5」の提供は再開されていない。Anthropicは「できるだけ早く利用を再開できるよう取り組んでいる」と説明しているものの、具体的な時期は明らかにしていない。

 その一方で、6月17日(現地時間)に韓国・ソウルで開かれた記者会見では、Anthropicの国際担当マネージングディレクターであるChris Ciauri氏が「数日以内に再び利用可能になると強く確信している」と述べ、楽観的な見通しを示した。

 会見はソウルオフィス開設と韓国市場拡大を発表する場だったが、質疑応答の多くはFable 5の問題に集中したという。Anthropicにとって韓国は重要な市場のひとつであり、この発言は米政府との調整が進展している可能性を示すものとして受け止められている。

 もっとも、最終的な判断は米政府との協議次第だ。業界内では、まず米国ユーザー限定でサービスを再開したうえで、監視体制の強化や信頼済みユーザー制度の導入などを条件に段階的な提供拡大が行われるのではないかとの見方も出ている。

 公開からわずか3日で姿を消した「Fable 5」は、高性能AIが持つ可能性とリスクを改めて浮き彫りにした。Anthropicは「過去6カ月以内に公開された多くのAIモデルでも同様のジェイルブレイク事例は確認されている」と主張しており、今回の対応が業界全体の新モデル開発や公開に影響を与えることを懸念している。

 AI輸出規制の先例となる可能性がある今回の措置は、米中間の技術競争という観点からも注目されている。今後どのような条件でサービスが再開されるのか、業界関係者の関心が集まっている。

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