嵐がデジタル戦略で切り拓いた道 「多くの人へ届けたい」の思いでかなえた“ファンとの接点の再設計”
今ではSTARTO ENTERTAINMENT所属アーティストによる楽曲配信やSNS活用は当たり前のものになったが、その流れの起点となったのが嵐だった。
嵐は2019年10月9日に「A・RA・SHI」「Love so sweet」「Happiness」「truth」「Monster」の5曲をサブスクで解禁。同日に開設した公式YouTubeチャンネルでは、デビュー組初となるフルサイズMV公開も行った。さらに同年11月3日にはX(旧Twitter)、Facebook、Instagram、TikTok、Weiboと5つの公式SNSを一斉開設。加えて初のデジタル配信シングル「Turning Up」をリリースし、全シングル表題曲を含む65曲の配信もスタートさせた。
その後も2020年2月にアルバム全16作品、256曲を配信し、2021年7月にはカップリング曲のベスト盤『ウラ嵐BEST』の配信も開始。これにより嵐の楽曲はほぼすべてサブスクで聴ける状態となった。そして、デビュー25周年を迎えた2024年11月には、未公開MV計71曲を公式YouTubeチャンネルで公開もしている。
今や当たり前となったデジタル解禁の動きだが、当時の事務所は、こうした音楽配信やSNS活用などのデジタルマーケティングに慎重な姿勢を取っていた。そんな中で、嵐はデジタル解禁の先陣を切った存在。これは、単なるデジタル解禁以上の意味を持つ動きだったと言えよう。
二宮和也「1人でも多くの方々と……」デジタル進出の根本にあった「多くの人へ届けたい」という思い
では、なぜ嵐はここまでデジタル戦略に積極的だったのか。そのヒントが見えるのが、Netflixで配信されているドキュメンタリーシリーズ『ARASHI's Diary -Voyage-』だ。2020年8月31日配信の第12話「デジタルの世界へ」では、「嵐が今までやってきたことを、世界の人たちにも知ってもらう。それはイコール、日本で応援してくれている人たち、これまで嵐に触れてこなかった方々にも、もっと身近に、手軽に、アクセスしてもらうこと」という思いのもと、デジタル戦略に向き合う姿が描かれている。そもそもNetflixという世界規模のプラットフォームでこうした挑戦を見せたこと自体、「既存ファン以外にも“嵐”を届ける」という意思表示だったのではないだろうか。
そうして始まった嵐のデジタル戦略の一つであるSNSを、うまく使いこなしていることがわかるのが、弾丸プロジェクト「JET STORM」だ。これは、2019年11月10日から11日にかけて、専用ジェット機でインドネシア、シンガポール、タイ、台湾を巡ったプロジェクト。2日間でアジア4都市を回るという、文字通りの「弾丸」スケジュールだ。そのスピード感に呼応するようにSNSが使われていたのである。
まず、開催が発表されたのは実施の約1週間前である11月3日で、メンバー自身がX(旧Twitter)で告知したのが2日前の11月10日だ。このリアルタイム感は、SNSがなければなかなか生み出せない。さらに、YouTubeにも11月22日から2日置きに「JET STORM」の様子を収めたドキュメンタリー動画がアップされ、終わった後の余韻も生み出していた。
また、嵐はオンラインとリアルの融合にも積極的だったと言えそうだ。例えば、デビュー20周年を記念したアニバーサリーツアー『ARASHI Anniversary Tour 5×20』の最終公演では、全国329館、617スクリーンという大規模なライブビューイングを実施。二宮和也が「最終日はたくさんの皆様から『見たい』という声をいただいた」「本当に1人でも多くの方々とツアーのファイナルをリアルタイムで迎えられたら」とコメントしたことからも、“届く人を増やす”ことを重視していた姿勢がうかがえる。
さらに、活動休止前夜に行われたライブ『This is 嵐 LIVE 2020.12.31』では、グループにとって初の無観客生配信を実施。公式YouTubeでは約1カ月前から「This is 嵐 LIVE みんなで準備だ!TV」なるコンテンツを公開し、ライブに至るまでの準備期間も楽しめるような設計をしていた。これは、オンラインでもオフラインと同じ熱量でライブを体験できる環境を整えようとしていたのではないだろうか。
こうして振り返ると、嵐のデジタル戦略の根本には、常に「より多くの人へ届けたい」という思いがあったことがわかる。彼らが行ったのは、単なるデジタル移行ではなく、“ファンとの接点の再設計”だったのかもしれない。そして、その流れは現在のSTARTO ENTERTAINMENT全体にも確実に受け継がれている。配信、SNS、YouTube、ライブ配信と、今では当たり前となった施策の多くは、嵐が切り拓いた道の延長線上にあると言っても過言ではない。
5月31日に東京ドームで行われるドームツアー『ARASHI LIVE TOUR 2026 「We are ARASHI」』の最終公演は、STARTO ENTERTAINMENTの公式配信サービス「FAMILY CLUB online」と「一般チケット販売サイト」にて生配信されることが決定している。最後の瞬間まで、嵐はファンとの心理的距離感の近さを更新し続けているのだろう。



























