被害額12億円超、米国初の「AI音楽ストリーミング詐欺」刑事事件 問題点は?

「AI音楽ストリーミング詐欺」刑事事件とは

 音楽ストリーミングサービスDeezerのデータによると、AIを用いた音楽ストリーミングのうち最大85%が、再生回数を不正に稼いで利益を得る「ロイヤリティ詐欺」を目的としたものだという。そのロイヤリティ詐欺の脅威が、米国で初めて刑事事件として裁かれた。

米国初、AIを利用したストリーミング詐欺で有罪

 海外音楽業界メディアMusic Business Worldwide(以下MBW)の報道によると、米ノースカロライナ州在住のマイケル・スミス被告は3月19日、ニューヨーク南部地区連邦地裁で通信詐欺の共謀罪1件について有罪を認めた。同被告はAIを使って数十万曲を生成し、Amazon Music、Apple Music、Spotify、YouTube Musicなどの主要プラットフォーム上に数千のbotアカウントを作成。これらのアカウントで自らの楽曲を数十億回にわたり自動再生させ、800万ドル(約12億7400万円)超のロイヤリティを不正に受け取っていた。

 こうした行為を受け、2024年9月に通信詐欺、共謀、資金洗浄の3つの重罪で起訴され、合計で最大60年に及ぶ懲役刑が科される可能性があったが、被告が検察との司法取引に応じ、罪を認めたことで、罪状が共謀罪1件(最大5年)に軽減された。量刑は7月29日に言い渡される予定で、没収額は800万ドル超に及ぶという。

 今回の有罪答弁を受け、ジェイ・クレイトン連邦検事は「楽曲もリスナーも架空のものだったが、スミスが盗んだ数百万ドルは本物だった。本来受け取るべき正当なアーティストや権利保有者から横取りしたロイヤリティだ」と声明を出している。

 この不正スキームは、米国のストリーミングサービスで発生する楽曲の使用料を取りまとめ、ソングライターや権利者に分配する団体「The Mechanical Licensing Collective(以下MLC)」によって発覚した。

 MLCはスミス被告が短期間にあまりにも大量の楽曲を制作し、配信している点に疑問を呈していたが、同被告とその関係者は楽曲がAI生成であることを否定していた。しかし、MLCの調査は継続され、最終的に米司法省(DOJ)の捜査につながった。

なぜこれが「詐欺」なのか

 では、なぜbotによる大量再生が犯罪として立件されたのか。それを理解するには、主要な音楽ストリーミングプラットフォームが採用する収益分配の仕組みを知る必要がある。

 SpotifyやApple Musicなどの主要プラットフォームは、「プロラタ・モデル(再生回数比例配分方式)」というアーティスト(やレーベル)への収益分配モデルを採用している。このモデルでは、ユーザーが支払うサブスクリプション料金がプラットフォーム全体の収益プールに集められ、そこからアーティストごとの再生回数から割り出された比率に応じて収益が分配される。つまり、アーティスト同士が同じプールの中で収益を分け合う構造になっている。

 しかし、スミス被告の手口は、この仕組みの盲点を突いたものだった。AIで数十万曲を生成し、数千のbotアカウントに再生を分散させることで、プラットフォームの不正検出システムを回避。ピーク時には1日あたり約66万回の再生を発生させ、年間120万ドル超のロイヤリティを得ていた。これは本来であれば正当なアーティストに分配されるはずのロイヤリティが、botによる偽の再生で掠め取られていたことを意味する。

「刑事罰」は現実的な抑止力となるか?

 ただし、注意したいのは、この事件をもって「AI音楽=違法」と捉えるべきではないということだ。SunoやUdioといったAI音楽生成サービスは、商用利用が可能なサブスクリプションプランを提供しており、AIで楽曲を制作し、配信すること自体は違法ではない(これらサービスの学習データを巡る著作権侵害訴訟は、一部の大手レーベルとは和解・ライセンス契約に至ったケースもあるが、複数の訴訟が現在も係争中であり、AI音楽の法的な整理は依然として途上にある)。

 重要なのは、AIで楽曲を制作したこと自体ではなく、大量生成した楽曲をbotで不正に再生させ、プロラタ・モデルの収益分配プールからロイヤリティを吸い上げた行為が犯罪として問われている点だ。

 AIによって誰もが手軽に音楽を制作できるようになったこと自体は、クリエイティブの可能性を広げるポジティブな変化だ。しかし、botを利用したストリーミング詐欺はAI以前から存在しており、そこにAIによる楽曲の大量生成が加わったことで、従来よりはるかに大規模かつ効率的な詐欺スキームが成立してしまうことが、今回の事件で証明された。

 AI技術が急速に発展する中、悪用するスキームも今後は多様かつ複雑化していくことが予想できる。だからこそ、今回米国で初めてこの種の行為に刑事罰が適用された意味は大きい。こうした前例が示されたことが、今後、同様の手口を企てる者への最も現実的な抑止力として機能するか、注視する必要がある。

参考:
・https://www.musicbusinessworldwide.com/streaming-fraud-man-who-pocketed-8m-using-hundreds-of-thousands-of-ai-songs-streamed-billions-of-times-by-bots-pleads-guilty/
・https://www.justice.gov/usao-sdny/pr/north-carolina-man-pleads-guilty-music-streaming-fraud-aided-artificial-intelligence-0

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