堀江晶太×ヤマハSYNCROOM開発者×Emnyecaが語り合う、インターネットを介した音楽セッションの歴史

リアルとバーチャルなセッションとで生まれる、“性質の異なるグルーヴ”

——皆さん、それぞれが異なる体験・出自を持つ方々が、いま『VRChat』で「SYNCROOM」を活用、あるいは提供しているというのは面白いですね。実際のところ、リアルのセッションとSYNCROOMを使ったセッションではどういった違いがあるのでしょうか? 遅延のあるSYNCROOMでは感覚も変わるのかな、という想像なのですが。

堀江:まさに今おっしゃっていただいたグルーヴやリズムアンサンブルなどは、レイテンシの都合もあって明確に変わってくるのですが、これもまた見方を変えると、ある意味では「オンラインでもオフラインでも“遅延”は存在する」とも言えるんですよね。

 ……という話をジャズプレイヤーの前でするのは未だに緊張するのですが(笑)。少し余談になってしまいますが、ジャズの世界って昔から「追い付けない場所」というイメージだったもので。

Emnyeca:いやいや(笑)。

堀江:「迂闊なことを言えない世界」という印象、ありません?(笑) まあ、あくまで僕の考え方として聞いてほしいのですが、完璧なタイム感で演奏できる人間というのは非常にまれであって、僕自身も常にジャストのリズムで演奏することは難しいんです。

 そういう演奏家が集まって音楽をやるのであれば、究極的にはオフラインが正解にはなりますが、完璧なリズムキープで正確無比な音というのは、音楽を面白くする要素のひとつでしかないという感覚が昔からあったんですね。

 これは僕がセッションスレ出身だからというのもあると思うんですが、終わったあとに録音された音源を聴くと、ちゃんと面白いし、胸を打つものもしっかりあるというか。人間ならではの面白さを感じられる部分だと思うんです。だから、そもそも前提として人間のリズムは揺れているし、その揺れの性質がリアルとオンラインとで変わるだけ。オンラインでしか生まれない揺れ、つまりグルーヴも存在するということなのかなと。

——Emnyecaさんはいかがでしょうか?

Emnyeca:少し話が戻ってしまいますが、「ジャズの界隈が怖い」というのはもっともな感想だと思います(笑)。私の中でも怖かったですよ。

堀江:やっている人でも怖いんだ(笑)。

Emnyeca:そうですよ(笑)。やっぱり、ジャズに触れ始めたときの私というのは、ゲームで例えればレベル1の初心者みたいな状態で、その状態でセッションができる場所に足を運ぶと周りは歴戦の猛者、レベル100どころかそれ以上の人たちがいらっしゃるわけですよ。そういう人がセッションに無言で参加して、演奏が気に入らなかったのかな、みたいな空気で出て行っちゃうのとかを見ると、やっぱり怖いじゃないですか(笑)。

堀江:いやあ、まさに同じような経験を僕もしていますよ。それこそ学生の頃、ミュージシャンを目指している友人に「ミュージシャンになるなら一度は行った方が良い」と言われてジャズ喫茶にベースを担いで行ったことがあったのですが、もうボロクソに言われてしまって(笑)。「お前はそれで音楽をやっているつもりかもしれんが、そんなものはジャズにおいてはな」みたいなことをおじさんに言われまくって「二度と来るか!」って(笑)。

Emnyeca:そこまでの体験はなかなかできなさそうですが、二度と行かなくて正解かもしれませんね(笑)。そういう意味では、オンライン上のセッションは安全が確保されているというか、入りやすい雰囲気はありますよね。私が主宰しているEMN Recordsも、そういう経験があったので「絶対に怖くない場所にしよう」という思いでやらせていただいています(笑)。

Emnyeca

堀江:たしかに、SYNCROOMの「ジャズ部屋」はすごくあたたかい雰囲気でした。「ジャズは分からないんですが、やってみたいんです」と言えば、「じゃあ、なんとなくこれを弾いていたらいいんだよ」と教えてくれる土壌みたいなものがありましたね。

 ジャズ部屋で思い出したんですが、「オケヒ(オーケストラル・ヒット)」の音ってあるじゃないですか。一回「オケヒで参加します」と宣言して、ジャズセッションの一番美味しいところでオケヒを一発鳴らす、みたいな感じで遊んだことがあったんです(笑)。

——ジャズでオケヒ(笑)。ギリギリフュージョンに結びつけるなら、往年の名曲「TRUTH」などが有名ですよね。

T-SQUARE SUPER BAND SPECIAL / TRUTH(T-Square 35th Anniversary "Festival"より)

Emnyeca:そこまで行くと多分笑えるんですね(笑)。

堀江:どうしても、敷居としてジャズの入り口ぐらいは分かっていないと、演奏する中で混ぜてもらえないんじゃないか、という気持ちがあるわけじゃないですか。でも、「オケヒ」を鳴らしている奴がいても笑ってくれたり、許してくれたりする人がいたんですよね。そういう寛容さが、オンラインのジャズセッションにはある気がします。

Emnyeca:すごくわかります。でも、逆に腕試し的な感じでリアルのセッションに参加するというのも、いい経験ではありましたね。

——そうですね。読者に誤解して欲しくないので敢えて言いますが、ジャズセッションがどこも怖い場所、というわけではないはずですから。ラグの部分についてはいかがですか?

Emnyeca:ラグに関しては、やっぱりレイテンシがある分感覚は違いますよね。というか、私はもうオフラインの方に適応できる自信がなくてですね(笑)。多分、いまリアルで演奏したら突っ込みがちというか、走っていっちゃうんだろうなあ、と思っています。スイッチを切り替えられればよかったんですが、それって結構難しいので……。

 あとは、ジャズ特有の話でいうとそもそもジャストタイミングで音を鳴らす音楽じゃないというところがあって。だからそれなりのテンポの曲であれば成り立つというか、むしろスローテンポな曲はタイムが遅れてる方が“味がある”ところもありますから、堀江さんと同じく「どちらにも良さがある」という風に感じていますね。

堀江:そうですよね。僕、昔からそもそもリズム感が走りがちなんですよ。ピアノを習っていたときも先生から「ちょっと、そんなに突っ込まないで」と言われていて、分かってはいるんだけど「俺はこの、いっぱい弾いてると盛り上がってきちゃって前に前に行っちゃうんだ……!」みたいな(笑)。もちろん、今は露骨に走らないように、とか音楽的に必要のない部分で前に突っ込まないように、とかを意識しているんですが、オンラインの場合は逆にそれが丁度よくなるところがあって。

——お二人とも「オンラインでは走り気味に弾いている」とおっしゃっていますよね。

堀江:そうですね。僕が弾いた音は、少しレイテンシを持って相手に届くので、気持ち走り気味で弾くと相手の音とちょうど良くなるんですよ。だから、SYNCROOMで弾いたものの録音を後から聴くと「あ、僕が乗せたかった一番いいところに音が収まっている」ということが結構あって。レイテンシがあるからこそ、自分ひとりの意識では成し遂げられなかったアンサンブルが生まれる瞬間がある。しかも、それがノーストレスでやれるというのは、面白い発見でしたね。

——相手と自分の回線状況による部分もあるんですよね?

堀江:そうですね。そういうときは、少し大味に弾いてみることもあるんですが、後から聴いてみたら、元のフレーズよりその方が音楽として良いものが出来上がっていることもあって。制約の中で工夫した結果、新しいアプローチが生まれるとか、自分のやりたかった音楽の形がまた一つ見つかるとか、そういう発見が本当に多いんですよね。

 だから、両方で学んだことを相互に活かせるという意味で、リアルでもオンラインでも音楽をやれているというのが自分としてはすごく嬉しいです。

——耳に入ってくる音に関してはいかがでしょう? 低音で身体が揺さぶられるのが心地良い、みたいなことって、ライブなどに通う人たちの間ではよく語られる話じゃないですか。

堀江:それでいうと、以前この連載の中でも話したところで、私のようなインターネット出身の人間は、家でずっと音作りをし続けているので、家で鳴らせる音が一番の理想なんですよね。その音をライブハウスとかスタジオにそっくりそのまま持っていくことって難しいので。だから、一番聴いてほしい音を持ってセッションに参加できるというのは、誇らしい気持ちになれます。

Emnyeca:すごく面白いのが、私はまったく逆なんですよ(笑)。最初に「オフライン至上主義」と話したように、「あのライブハウスで、あのアンプを通して、あの空気の中で聴いた音」みたいな理想が私の中にはあって、それをデジタル上でどう目指すか、というところで試行錯誤しているので、見事に正反対のアプローチをしています。

堀江:逆に僕は、家で作れた音をいかにライブハウスで、劣化なく届けるかを考えていますね。やっぱり一番向き合ったのは、自分がヘッドフォンを通して聴いてきた音なので。

Emnyeca:沼ですよね。

堀江:沼ですね(笑)。でも、音楽をやっている人にとってのある種の命題なんでしょうね。アプローチの方向は正反対だとしても、自分の理想の音を損なわないようにどう鳴らすか、というのは。

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