コロナ禍から5年でわかった「都市とメタバースの過去・現在・未来」東大・小泉秀樹教授×KDDI・川本大功が語り合う“リアルな街との連動”が重要な理由

 KDDI、東急、みずほリサーチ&テクノロジーズ、渋谷未来デザインで組成している「バーチャルシティコンソーシアム」が現在、注目を集めている。都市連動型メタバースの利活用に向けた 「バーチャルシティガイドライン」を策定するために始動したプロジェクトで、産学連携の象徴的な取り組みだ。

 そうしてメタバース関連の法整備を一歩前に進めた「バーチャルシティコンソーシアム」についての特集記事の冒頭を飾るのは、東京大学 先端科学技術研究センターで教授を務める小泉秀樹氏とKDDI株式会社 事業創造本部 LXビジネス推進部 エキスパート兼慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科 特任講師の川本大功氏による対談だ。

 今回の対談は“都市とメタバースの過去・現在・未来”をテーマに、先行事例や「バーチャル渋谷」での取り組みとその後の「バーチャルシティコンソーシアム」で目指したかったこと、コロナ禍から5年が経ってわかったメタバースの現在地や課題、そして未来について、大いに語り合ってもらった。(編集部)

メタバースの過去と現在

――「メタバース」という概念はコロナ禍で急速に普及し、様々な人がその可能性に着目するようになりました。一方で、コロナ禍が落ち着いて以降はライトユーザーが離脱し、コアユーザーが文化やルールを作っているようにも感じます。お二人はこの「メタバース」の過去・現在についてどのように考えていますか。

川本:直近のメタバースブームについて改めて考えると、やはりコロナ禍がきっかけで一気に加速したと思っています。いくつかの文脈がありますが、一番大きかったのは、外出自粛や緊急事態宣言によってリアルが機能不全に陥っていたことです。

 外出が制限され、大規模なイベントができなくなり、人同士が会うことが困難になった。街は本来「人が集まる場所」だったはずなのに、その機能が失われてしまった。それを補完する存在として登場したのが「バーチャル◯◯」であり、それが後に「メタバース」と呼ばれるようになったと思います。生活空間を補完し、拡張するという考え方です。

 ただ、もともと『VRChat』などで活動されていた方々にとっては、全く異なる文脈だったんですよね。リアルが機能不全になったから登場したと考える人たちに対し、もともと仮想空間で生活していた人たちがいました。さらに、Web3、特にNFTの方面からも注目が集まりました。本来は違う文脈だったものが、コロナ禍によって同じ文脈で語られ始めたがゆえに、大きなブームになったのだと思います。

 そして現在は、社会実装を進めていくフェーズにあります。ブームが去って、できることとできないことが見えてきた状況のなかで、「どういうルールが必要なのか」「国としてどういう方向を目指すべきなのか」といった点が、だんだんと定められ始めています。メタバースの原則が策定されたり、標準化の動きが進んでいるのも、その一環です。次のステップに向けての基盤を整えていく段階が、現在の状況だと考えています。

KDDI株式会社 事業創造本部 Web3推進部 エキスパートの川本大功氏

小泉:メタバースという概念自体は、確かにコロナ禍で爆発的に広がりました。しかし、「メタバース」という言い方は必ずしもしていなかったものの、類似の取り組みは1990年代後半から存在していました。

 富士通は相当早い時期から取り組んでいましたし、ソニーもVAIOユーザーが体験できるメタバース的な空間「さぱり」を提供していました。その後に『Second Life』ブームが訪れました。つまり、現在のメタバース領域の取り組みの多くは試されていて、いまはデザインや付加価値を高めるかたちで再検証されている、と言えます。

 そして現在は、私たちのライフスタイルのなかに「メタバース的なもの」が浸透してきています。例えば、オンライン会議システム。これは3Dではなく2次元ですが、アバターで話すこともできるし、背景も変えられる。私たちは日常的にこれを使っています。

 アメリカでは、各企業が原則オフィス出社に戻すと言っているにもかかわらず、実際には戻っていません。全体として3割程度はオンライン出社が残り続けているといいます。日本だともっと高い割合かもしれません。働き方改革といった文脈のなかで、オンライン会議システムは、もはや排除できないものになっています。

 1990年代の日本や『Second Life』の取り組みはニッチでしたが、今回のメタバースやリモートワークの流れは、ビジネスユースに深く食い込んでいる堅固な存在です。つまり、ブームとしては収束傾向に見えますが、実際は、私たちの生活に取り入れる方向へと社会は進みつつあると言えます。次のブレイクスルーに向けて社会に定着しつつある——そういう状況なのではないでしょうか。

東京大学 先端科学技術研究センター 教授 小泉秀樹氏

川本:メタバースが指す概念としては、実はローレンス・レッシグの著書『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』で取り上げられている“サイバー空間”が最も近いと思います。曰く、コミュニケーションができて、オンライン上の仮想空間で多様な体験ができ、結果的に人々がそのなかでコミュニティ化される空間のことです。

 サイバー空間での意思疎通の方法やユーザーインタフェースは、テキストベースで完結するものも、オンライン会議システムのような2Dで完結するものもあります。ユースケースと現在の技術によって最適化されているように見えますが、技術が進化すれば、より臨場感を高められるでしょうし、そのときに様式も変化していくはずです。メタバースはサイバー空間の一種であり、多様な体験とコミュニケーションができる3Dの仮想環境という様式だと捉えると、多くの人にしっくりくるのではないでしょうか。

 自分の視点では、メタバースに関する議論は、本質的には「サイバー空間をどう作っていくといいのか」「ユースケースごとにどういう様式が適しているのか」「そのときのルールはどんなもので、どのように合意していくべきなのか」といったことを議論したいように見えます。

――総務省は先日、「社会課題の解決に向けたメタバース導入の手引き」を公開しましたよね。内容を見たのですが、かなり地に足のついたものになっており、驚いています。

川本:私も内容を確認しましたが、バーチャルシティガイドラインの内容とも近しい点もあったように思います。そして「地に足のついた共通理解」を作るという点では、早々に公開したバーチャルシティガイドラインが一定の役割を果たすことができたのかなとは思っています。

 2020年に「バーチャル渋谷」をリリースしてから、「バーチャル◯◯」はたくさん生まれました。『cluster』がスマートフォン対応した直後にバーチャル渋谷をリリースしたことなども重なり、注目度が集まる状況になったことが、あの波を生み出した要因と考えられます。ただ、それぞれで「車輪の再発明」が起こっていたようにも感じています。当時いろいろな事業者や自治体から、ルールやリリースにあたって考慮していた論点の問い合わせを受けていました。

 そんな状況を踏まえて、共通理解を早期に作るためにもガイドラインを出す必要性を感じました。一刻も早く発表し、アップデートし続けることを見据えて誕生したのが、2022年4月に誕生したバーチャルシティガイドラインでした。

――最初のガイドラインは、振り返れば非常に早い時期に発表されましたよね。当時、まだまだメタバースは赤子のような概念でしたが、2025年はやっと各所落ち着いてき、議論が深まりつつある時期だとも感じます。

川本:独自にみんなが取り組んできた結果から、それぞれの言葉で理解したことを提示し、それらが出揃って「なんとなくこういう形かな」と全体図が見えてきましたね。ここから、もう一度足元を固めていく段階に来たのかなと思います。

バーチャル渋谷の5年間——想定と現実

――2020年にバーチャル渋谷がスタートして、今年で6年目になります。長く運用されてきたなかで、当初の意図と実際の反応にはどのようなギャップがあったのでしょうか。

川本:「バーチャル渋谷」はコロナ禍でリアルが機能不全に陥ったことをきっかけに、リアルをバーチャルで拡張しようと考えて始動しました。元々は2019年から渋谷未来デザインさんと渋谷区観光協会さんともに渋谷の街で様々な実証実験を重ね、街の機能・価値・体験をアップデートする狙いがあり、基本的にはリアルが核にあります。

 ローンチ後も、コロナ禍が落ち着いたら人はリアルへ戻って来るはずで、そのときにどうバーチャルでリアルを拡張できるか、が想定にありました。実際、「バーチャル渋谷」の最初のプレスリリースは、「先端テクノロジーとエンターテイメントを組み合わせることでバーチャルイベント会場と、リアルな渋谷の街と連携し同一コンテンツを表現するデジタルツイン (ミラーワールド) の2つの体験を提供」という二重構造を提示しています。

 しかし、コロナ禍によるバーチャル〇〇ブームと、その後のメタバースブームは、過剰と言っていいほど盛り上がりました。メタ社の宣言でここまでブームになるのは、さすがに想定外でしたね。イベントを見ていても、ユーザーのみなさんが思っていたよりもコミュニケーションを取り、配信などをしていたのが印象的です。ただ、コロナ禍が落ち着いたタイミングで、リアルへ回帰していく動きも見られました。

 直近は技術も進歩し、ロケーションベースの、リアルを拡張するエンターテインメントや、身体を使って体験するバーチャルなコンテンツも現れ、事業化の目処も立ち始めています。その意味では、ようやく当初の想定通りの世界線になってきました。

 一方で、メタバースと都市の接続は、チャレンジしたかったけど思ったより進んでいません。利害関係者が非常に多いですし、都市を「空間として地続きでつながった場所」として捉えると、いきなり全体をつなぐのは非現実的です。なので、場所ごとに拡張していき、それをどうつなげていくかを考えていくのが、次のフェーズになるのかなと思っています。

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