TIME誌が2025年「今年の人」に「AIの設計者たち」選出 “後戻りも傍観もできないことが明らかになった1年”を象徴

2025年はAI業界にとって激動の1年だった。1月から中国のスタートアップDeepSeekが新AIモデルを公開してシリコンバレーに衝撃を与え、翌日には米国で最大5000億ドル(約78兆円)規模の「Stargate」プロジェクト(AIデータセンターを全米に建設する官民連携の巨大計画)が発表された。また、近年の生成AIブームの火付け役となったChatGPTの週間利用者は8億人を突破する一方、AIチャットボットとの会話が引き金となった少年の自殺事件も報じられるなど、AIの可能性と危うさが同時に見えた1年だった。こうした激動の1年を象徴するかのように、米TIME誌は毎年恒例の「今年の人(Person of the Year)」に「AIの設計者たち(The Architects of AI)」を選出した。
2024年にTIME誌に選ばれたのは米大統領に返り咲いたドナルド・トランプ氏だったが、今年は個人ではなく「集団」を選出した。TIME誌の「今年の人」で個人以外が選ばれるのは異例だが、過去にも前例がある。1982年にはスティーブ・ジョブズ氏を差し置いて「パーソナルコンピュータ」が、2006年にはデジタルコミュニティの台頭、ユーザー生成コンテンツプラットフォームの普及を象徴する「You(あなた)」が選ばれた。TIME誌は今回の選出を「過去半世紀の技術革命における重要な瞬間を捉えてきたシリーズの3番目」と位置づけており、「もはや後戻りも傍観もできないことが明らかになった年だった」と2025年のAIブームの重要性を強調している。
「AIの設計者たち」とは?
TIME誌が選出した「AIの設計者たち」とは、AIの基盤技術やモデルを開発、設計、構築、そして社会に実装するといった役割を担いながら、AI技術の発展を牽引する、業界の複数のリーダーたちを総称したもの。このことを表すようにTIME誌の表紙には、NVIDIA CEOのジェンスン・ファン氏をはじめ、OpenAI CEOのサム・アルトマン氏、Meta CEOのマーク・ザッカーバーグ氏、xAI創業者のイーロン・マスク氏、Google DeepMind CEOのデミス・ハサビス氏、Anthropic CEOのダリオ・アモデイ氏、AMD CEOのリサ・スー氏、スタンフォード大学教授でWorld Labs CEOのフェイフェイ・リー氏という「AIの設計者たち」を象徴する8人が描かれている。
2025 was the year when artificial intelligence’s full potential roared into view, and when it became clear that there will be no turning back.
For delivering the age of thinking machines, for wowing and worrying humanity, for transforming the present and transcending the… pic.twitter.com/mEIKRiZfLo
— TIME (@TIME) December 11, 2025
特集記事では、表紙の8人を含むAI業界の重要人物の役割や発言が紹介されている。例えば、今年世界の企業として初めて時価総額5兆ドル超(約780兆円)を突破したNVIDIAを率いるジェンスン・ファン氏は、TIME誌のインタビューで「すべての産業がAIを必要とし、すべての企業がAIを使い、すべての国がAIを構築する必要がある。これは私たちの時代において最も影響力のある技術だ」と語っている。同社はAIを動かす高性能チップ(半導体)をほぼ独占的に供給している。
また、「10年後、機械は人間の1万倍賢くなる」と語り巨額投資を進めるソフトバンクグループCEOの孫正義氏や、中国のBaidu CEOであるロビン・リー氏、人型ロボットのスタートアップAgiBot共同創業者のペン・ジーフイ氏なども取り上げられており、AI市場のグローバルな競争が示されている。
人類は高度に自動化されながらも先行き不透明な未来へ突き進む
こうしたリーダーたちが牽引するAIブームは、もはや一部の技術者や企業だけのものではない。記事では、AIで業務効率化を実現した小規模ジャムメーカー、チャットボットで孤独を癒やす66歳の男性、AIでSFキャラクターを創作する15歳の学生など、一般社会での活用事例も紹介されている。
このように現在は、多くの人がAIを活用することでその恩恵を受けつつあるが、その結果、TIME誌が指摘するように「AI普及以前にはもう戻れない」不可逆的な状況が広がりつつある。 また、冒頭で述べたメンタルヘルスをはじめ、AIには著作権侵害やディープフェイクの作成、環境負荷などさまざまな問題が依然として存在する。そうしたメリット・デメリットがありつつもAIが加速度的に社会に浸透してきたことを指す、TIME誌の「人類は今、アクセル全開でブレーキのないまま、高度に自動化されながらも先行き不透明な未来へと突き進んでいる」という指摘は興味深い。2025年の「今年の人」選出は、まさにこの時代の到来を象徴している。
<参考>
https://time.com/7339685/person-of-the-year-2025-ai-architects/
https://time.com/7339703/ai-architects-person-of-the-year-2025/




















