指でスマホで──「スリープテック」で始める新習慣 睡眠の「見える化」で生活を整える

「スリープテック」で始める新習慣

 睡眠は長らく「データ化されない時間」だった。起きている間の歩数や心拍数は数値で把握できても、眠っている間に自分の身体で何が起きているのかは、朝の目覚めや感覚に頼るしかなかった。

 しかし、その前提はいま静かに変わりつつある。テクノロジーの力によって、睡眠は「測れないもの」ではなくなり始めている。

 その変化を端的に言い表すのが「Sleep Tech(スリープテック)」だ。「睡眠」と「テクノロジー」を組み合わせた言葉だが、スマートウォッチやスマートリング、さらにはゲームを通じて、睡眠は測られ、記録され、振り返る対象になった。

 特別な知識も、強い意志もいらず、ただ眠るだけでデータが残り、「よく眠れているか」を考えるひとつの手段として、スリープテックは本格化フェーズに入っている。

デバイスでも、ゲームでも。睡眠の「見える化」で健康のヒントが見えてくる

 スリープテックの入り口を担っているのは、すでに多くの人が手にしているデバイスやサービスだ。

 代表例は、Apple WatchやHUAWEI WATCHといったスマートウォッチ、Xiaomi Smart Bandのような活動量計だ。睡眠は心拍数や消費カロリーと並ぶ生活ログとして扱われ、起きている時間と同じ延長線上で、自然にデータ化される。

 さらに最近は、「Galaxy Ring」や「SOXAI RING」といったスマートリングも登場している。指輪型という形状は装着感が薄く、「測っていること」を意識しにくい。スリープテックはいま、「どれだけ正確に測るか」だけでなく、「どれだけ生活に溶け込めるか」を競うフェーズに入っている。

 筆者自身も、「Apple Watch」と「SOXAI RING」を併用して睡眠をチェックしている。本来、計測するだけならどちらかひとつで十分だが、あえて併用しているのは、同じ一晩の睡眠でも、デバイスごとに異なる指標や評価軸で可視化されるからだ。

 実際、スマートウォッチとスマートリングでは、睡眠時間や深い睡眠、レム睡眠の割合などが微妙に食い違うことが珍しくない。手首と指という測定位置の違いや、使われているセンサー、アルゴリズムが異なる以上、数値が完全に一致するほうがむしろ不自然だ。

 それでも複数のデータを並べて見ることで、「どれが正しいか」ではなく、「共通して見えてくる傾向」に目が向く。睡眠時間は十分でも回復感が低い日があったり、逆に短時間でも意外と調子がいい日があったりする。結果として、「よく眠れたか」が平均データとして可視化される。

 この併用によって見えてくるのは、数値の正しさではなく、生活とのズレだ。夜更かしした日や仕事が立て込んだ週、運動量が少なかった期間など、睡眠データをきっかけに前日の行動や体調を振り返る機会が増える。つまり、スリープテックは睡眠を評価する道具というより、生活を振り返るトリガーになり得るのだ。

 スリープテックは、必ずしもデバイスだけのものではない。象徴的なのが、株式会社ポケモンが手がける睡眠計測ゲーム『Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)』。睡眠を記録することでポケモンの「寝顔」を集められるというゲームだ。

 毎晩スマートフォンを枕元に置いて眠るだけで睡眠が記録され、睡眠時間や質に応じて登場するポケモンが変わるため、寝ることや起きること自体が楽しみになった。

 リリースから2年以上が経過した現在も、筆者は『ポケモンスリープ』を続けている。スマートウォッチやリングのように高精度で睡眠の質を計測できるわけではないものの、十分な睡眠を取ることでポケモンのレアな寝顔を集めたり、仲間のポケモンの成長を楽しめたりするため、自然と「もう少し長く寝よう」という行動につながっている。ゲームの楽しさを入り口に、睡眠を意識させる仕組みは非常に巧みだ。

2026年は「眠りを味方に」──スリープテック習慣のススメ

 もちろん、こうしたスリープテックは医療機器・医療サービスではなく、診断や治療を行うものでもないが、代わりに、日々の体調やリズムを可視化し、自分で気づくための材料を提供してくれる。調子が悪い原因を後から考えたり、少し生活を見直したりするためのヒント集に近い存在だ。

 デバイスやサービスが揃い、試しやすい環境が整った今、スリープテックはさらに一般化し、多様な形で生活に入り込んでいくだろう。AIや機械学習の導入が進めば、より詳細な睡眠パターン解析や、IoT家電と連携した光や温度の自動調整による最適睡眠環境の提供も期待できる。

 スマートリングやスマートウォッチ、活動量計といったデバイスは今後も睡眠計測の主軸となるだろうし、将来的には「睡眠を測る道具」から「睡眠を整える仕組み」へと役割を大きく変えていく可能性もあるだろう。

 だからこそ、読者の皆さんにも試してみてほしい。まずは自分の睡眠を「見える化」してみるだけで、生活や体調の傾向に気づき、無理や偏りを整えるヒントが見つかる。

 大げさな目標ではなく、日常の小さな気づきから始められるのがスリープテックの魅力。2026年、新年の始まりに、自分の体調を「見える化」する習慣を取り入れる。それが、健康管理の第一歩になるのではないだろうか。

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