『デジモンストーリー タイムストレンジャー』レビュー 待望の復活作はパートナーとの絆を描き切ったシリーズの集大成に

『デジモンストーリー タイムストレンジャー』(以下、『タイムストレンジャー』)は、バンダイナムコエンターテインメントより10月2日に発売された育成RPGだ。2006年より続く「デジモンストーリー」シリーズの最新作で、前作『デジモンストーリー サイバースルゥース』(以下、『サイバースルゥース』)と、その外伝作『デジモンストーリー サイバースルゥース ハッカーズメモリー』(以下、『ハッカーズメモリー』)は、オカルト×SFというテーマで育成パートだけではなく、ストーリー面でも高い人気を誇るRPGだ。
今回は『ハッカーズメモリー』より約8年ぶりの新作となる本作について、長年の「デジモン」ファンかつ「デジモンストーリー」シリーズを全作プレイしている筆者がレビューをお届け。基本的なシステムなどは『東京ゲームショウ2025』の試遊レポで執筆しているため、本記事ではストーリー面に焦点をあてて紹介・考察していきたい。
『デジモンストーリー タイムストレンジャー』試遊レポ:良質なテンポ感&歯ごたえでシリーズファン以外にもおすすめなJRPG
『東京ゲームショウ2025』、『デジモンストーリー タイムストレンジャー』の試遊レポートをお届け。※本記事は『タイムストレンジャー』のネタバレを含みます。
プレイする手が止まらない!? 先が気になるストーリーが展開
『タイムストレンジャー』は、超常現象の調査と解決を専門とする秘密組織“ADAMAS”のエージェント「結城ダン/結城カナン」を主人公として物語が展開する。物語は頻発するアノマリー事象(怪奇現象)の調査のため、主人公が東京を訪れる場面からスタート。新宿・都庁前に建設された「きぼうの壁」に潜入を試みるが、オペレーターから近くで救援信号が確認されたとの連絡を受ける。内部にはアノマリー事象発生時に出現することが多い“位相電子生命体「デジモン」”が徘徊しており、主人公はADAMASから貸与されたパタモン、ピコデビモン、ゴマモンの中から1体を選んで対処にあたることに。
奥へ進むと助けを求めていた少女・御園イノリと遭遇するが、初対面のはずが彼女は主人公のことを知っており、デジヴァイスにも彼女の連絡先が登録されていることが判明。イノリに導かれるまま崩壊した都庁屋上に向かうと、巨大兵器と謎のデジモンの戦闘による爆発に巻き込まれ、主人公は気づくと8年前の世界にタイムスリップしていた。そこではまだ主人公を知らないイノリが存在し、彼女がパートナーデジモン「アイギオモン」と出会う場面に立ち会う。その後オペレーターとの通信が回復し、8年後の未来では新宿を中心に世界が崩壊して「新宿インフェルノ」と呼ばれる惨状が発生していることを知らされ、ある出来事から突如転移してしまったデジタルワールド・イリアスでの冒険を通して、破滅の未来を変えていくことになる。
デジタルワールドでは現実世界に戻るため「ユノモン」が管理するゲートを目指すが、この世界ではイリアスの管理を行う「オリンポス十二神族(作中では終盤に呼称されることに)」に連なるデジモンと、タイタン族と呼ばれる2種族が争っていた。デジタルワールドの英雄「クロノモン」の生まれ変わりというアイギオモンは、デジモン同士の戦いの余波が現実世界に及ぶことを聞かされ、イノリが生まれた世界を守るために各地の争いを治めながら、デジモンと人間の関係について考えを深めていく。
だが平和な時間は長く続かず、ユノモンのもとにタイタン族の戦士「タイタモン」が攻め入ったとき、再びゲートが開いてしまい、現実世界もデジモンに攻め入られる阿鼻叫喚の事態に。なんとかタイタモンを撃破したが、発生した時空乱流に飲まれた主人公たちは8年後に戻る……が、なんとそこは序盤でプレイした8年後の世界とは全く異なる“デジモンに攻め入られたため、人間との溝が生まれた世界”に変化していた。
デジモンを排除しようとする元公安組織「D-SAT」に追われながら、8年という歳月で変わってしまった人間やデジモン同士の関係を知り、世界救済に必要な仲間たちの未来をアイギオモンに目覚めた過去改変の力を用いて変えていく。そして「オリンポス十二神族」と「タイタン族」と「人間」、この三つ巴の戦争状態を作り出した黒幕は一体誰なのか見極めていく。
このように本作はタイムスリップモノだと思っていたら、いつの間にかループモノに変化するといったように、シナリオがダイナミックに駆動するのが特徴。主人公のみならずプレイヤーにとっても「次に何が起きるのか分からない」と先が気になる物語の力でプレイする手が止まらなかった。ただ構成上ストーリーの序盤は土台固めというイメージが強く、終盤の展開は手放しで「楽しい!」と思えるがスロースターターな印象を受けた。
やや賛否が分かれている要素として、主人公はプレイヤーの分身という立ち位置であり、物語の主役はイノリとアイギオモンの絆と成長に焦点が当てられている(筆者は賛だ)。あくまで保護者的な立ち位置が重視されており、主人公本人が物語を転がすというよりも、イノリとアイギオモンの関係を見届ける存在として描かれている。終盤の“ある出来事”でイメージが反転するとは言え、序盤からプレイヤーキャラにヒーロー的な活躍やドラマチックな自己主張を期待すると拍子抜けする人もいるかもしれない。
「デジモン」と言えば進化の盛り上がりが定番だが、単なる育成システムではなく物語の核となる「8年という時の流れと変化」を体感させるための装置として機能しているのも魅力だ。中盤以降、8年間行方不明だった主人公が知らぬ間に仲違いが生じていたり、かつての無邪気な姿とのあまりにも大きなギャップを目の当たりにしたりと時間の重みと運命の過酷さがプレイヤーに突きつけられる。また逆に主人公が不在の間も、自力で困難を乗り越えて生き抜いてきた証としても進化が扱われており、本作の進化描写は1つの生きたキャラクターとして、デジモン自身が歩んできた時間の経過を象徴的に描いて物語に余韻を与えている。
歴代『デジモンストーリー』の集大成
また『タイムストレンジャー』は「デジモンストーリー」シリーズの集大成的な側面を持つ作品で、歴代タイトルへのオマージュを物語に織り込んでいる点に感嘆させられた。まず初代『デジモンストーリー』に登場した「クロノモン」が、本作では“英雄クロノモン”として再定義され、物語の結末を担う存在として再び姿を現す。シリーズの出発点を飾った象徴的存在をここまで改めてストーリーの軸に据える構成は、まさに原点回帰でありリスペクトの表れと言えよう。
ニンテンドーDS向け『デジモンストーリー サンバースト&ムーンライト』からは、主人公たちのパートナーであったコロナモンとルナモンの究極体、アポロモンとディアナモンが重要な役割を果たす。彼らが属する「オリンポス十二神族」が本作のテーマということもあり、シリーズを追ってきたプレイヤーにとって感慨深い再会をもたらしただろう。
さらに前作『サイバースルゥース』に登場した探偵・暮海杏子らしき人物の少女時代が描かれ、彼女の父親である暮海広大も物語に深い影響を与える。さらにストーリーの舞台となる電脳空間「EDEN」の構想や「神代」という聞き覚えのある名字も登場した。おそらくパラレルワールド的な関係性だろうが、筆者が気付いただけでもこれだけのオマージュ要素が存在したのだ。こうした数々の引用と再解釈を通して『タイムストレンジャー』は、「デジモンストーリー」シリーズそのものの“歴史”を物語として再構築しており、時間と継承を扱った本作らしい「デジモン」愛の表れだと感じた。
現実と“デジタルワールド”の交差
物語終盤で主人公は、イノリの弟「御園ユウタ」が好きな「エージェントアルファ」をルーツに持つ、アイギオモンから分かれた存在だということが明かされる。これは“ヒーローへの強い憧れ”という想いから生まれた主人公が、データや想像力というフィクションからデジモンが生まれるというシリーズの設定と共鳴し、虚構が現実に影響を与えて世界や人の生き方を変えうるというテーマを可視化しているのではないか。
本作でも描かれているように現実は理不尽で、努力が報われない場面も多い。それでも人は物語やキャラクターという虚構に希望を託して生きてきた。主人公の存在は誰かの憧れが物語を動かし、プレイヤー自身がその延長線上に立つ虚構の象徴だ。『タイムストレンジャー』はデジモンという存在への敬意とともに、「人が虚構を信じる理由」を問い直す作品だと考える。本作で描かれるデジタルワールドという虚構は現実逃避の手段ではなく、現実をもう一度信じるための方法なのだ。
『デジモンストーリー』復活作として
『タイムストレンジャー』は、待望の「デジモンストーリー」シリーズ復活作として、長い時を経てもなお「デジモン」という題材が持つ物語の力を改めて示した。新たな世界観やキャラクターを導入しながらも、パートナーとの絆や選択の積み重ねといった原点を丁寧に描き出しており、シリーズの精神が確かに息づいていることを感じさせる。
さらにシリーズの歴史を巡りながら、虚構が現実を照らし、“憧れ”が人を動かす力であることを指し示した本作は、これまで「デジモン」と共に歩んできたすべてのプレイヤーに向けた、ひとつの「答え」と呼ぶにふさわしい。一本のJRPGとしても完成度が高く、初めて「デジモン」に触れる人にもおすすめできる出来栄えだ。
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